女がレイプされかけた話
92:RB19Goxc0 ◆jyk/HkHe/o :2014/05/20(火) 06:14:38.99 ID:hCLCO48b0
晩飯を終えてシャワーを浴びながら
俺は物思いに耽っていた。
ナナの物語を、俺が書く。
俺だって小説を書くからにゃあ、
人の胸を打つものを書きたい。
だが同時に、小説家としてのプライドもある。
1から10まで全部自分で書いたものが評価されてこそ、嬉しいもんだ。
ナナの話を書いて、それが評価された時
俺は「小説家」でいられるのか。
93:RB19Goxc0 ◆jyk/HkHe/o :2014/05/20(火) 06:15:24.25 ID:hCLCO48b0
恐らくナナにこの話を持ち掛けたら
快諾するだろう。
2人で小説を出した前例もある。
あとは俺自身の問題だった。
俺の、意地だけだ。
風呂から上がると、ナナが珈琲を入れてくれた。
礼を言って珈琲をずず、と飲む。
ナナはテレビに夢中になっている。
動物が出てくる、如何にも女の子向けな番組だ。
……言うべきか。
心の中で意地と衝動がせめぎ合う。
94:RB19Goxc0 ◆jyk/HkHe/o :2014/05/20(火) 06:17:11.03 ID:hCLCO48b0
「あのさ」
「なんですか?」
…。
「…また小説を書いてみる気は無いか?」
言えない。
「私が、ですか?」
「あんたには話を作る才能がある。書かないのが勿体無い程だ。」
まあ、ナナ自身が書けるなら問題はない。
95:RB19Goxc0 ◆jyk/HkHe/o :2014/05/20(火) 06:18:08.38 ID:hCLCO48b0
やや俯き加減に、頬を染めてナナが言う。
「そう言ってくれるのはとっても嬉しいんですけど….ほんとに、書けないんです。
ちょっとだけ書いてみるから、読んでみます?」
「そうしてくれると有難い」
すると、ナナはペンをバッグから取り出し、なかなかの速さで原稿に筆を走らせた。
その書き慣れているさまから、
幾つかの物語を実際に書いたのだろうと感じた。
96:RB19Goxc0 ◆jyk/HkHe/o :2014/05/20(火) 06:18:56.62 ID:hCLCO48b0
ナナが原稿用紙10枚ほど書き終えると、
おずおずと俺に差し出した。
手にとって読んでみる。
……
…うーむ。
確かにこれは…
悪くは無いが、表現に乏しい。
必要なコンテクストが抜けている、と言った感じだった。
「正直な感想を、お願いします」
俺は元より正直に言っちまうタチだからそこは大丈夫だが…。
97:RB19Goxc0 ◆jyk/HkHe/o :2014/05/20(火) 06:19:55.30 ID:hCLCO48b0
「まず、ここの街を出るところ。状況説明が不十分だ。これじゃ読者は違和感を抱いちまう。
それとこの場面の切り替え。もう1文何か付け加えないと不自然だ。
あとここの再会のところ、心情を語っているのがどっちだか分からん。せめて口調に変化を….」
と、ナナが泣き出しそうになっている。これはマズい。
「全体的には悪くないが、部分部分の不足で読者が置いてけぼりになってるから….えーと」
「大丈夫、です。分かってましたから」
なんとか持ち直したようだ。
98:RB19Goxc0 ◆jyk/HkHe/o :2014/05/20(火) 06:20:46.61 ID:hCLCO48b0
ナナが原稿用紙を見て言う。
「でも、きっとこの物語も」
今度は俺を見て続ける。
「健吾さんに書いてもらえたら…」
俺の心臓がドクン、と大きな音を立てた。
絞り出すようにナナの言葉を遮る。
「もうこんな時間だ。そろそろ寝るぞ」
すまん。
まだその先は言わないでくれ。
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