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【ウマ娘怪文書】トレーナー室で作業をしてをしていると担当のヤエノムテキがこちらに話かけてくる「トレーナー殿、犬が……飼いたいそうですね?」藪から棒にヤエノがそんなことを言い出す


1: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)00:33:18 0

「トレーナー殿。少しお話が」
トレーナー室で作業をしていると、担当のヤエノムテキがこちらに話かけてくる。
「どうしたんだ? ヤエノ」
「トレーナー殿、犬が……飼いたいそうですね?」
藪から棒にヤエノがそんなことを言い出す。
「うん? あれ、ヤエノに言ったっけ……? まあ、ちょっと……興味あるな、ってだけだけど……」
独り身の代わり映えのしない生活。そんな中で、何か癒しが欲しくて、あるいはともに生きていく相手が欲しくて、犬でも飼ってみようかと最近思案するようになった。
……とは言っても、あくまで想像の中だけの話で、実際に飼うとなれば様々な制約や障壁があるのは分かっていたので、あくまでも現実にそうしたいというものでは無かったのだが……。

「……ふむ、犬ですか……確かに、日々の暮らしの癒しには良いですよね。利口で、献身的で、たいへん愛くるしいですから……私も分かります」
どうやら、ヤエノムテキはその淡い願望を本気で考えてくれているらしい。
「……しかし、犬を飼うというのは言うほど易くはありませんよ?」
「んん……それは……」




2: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)00:34:06 0

「まずお世話をしなければなりませんから、それなりに時間は取られてしまうでしょう。食費や医療費、保険料などもかかってしまうと聞きます」
それは、俺自身も考えていた。あくまでも、もしの仮定の話にしかならなかったのは、それらが大いに関係していた。

「……それから、毎日の散歩も必要ですね。一日に二回ほどでしょうか。しっかりと運動をさせて健康を維持させる必要があります。生命を飼うのですから、責任も重大でしょう。そう易易と飼い始められるものでもありません」
「……そうだよなぁ……。うーん、やっぱり……犬を飼うのは難しいか……」
ヤエノの指摘はどれも尤もだった。犬を飼ってみたいという、言ってしまえば安易な気持ちはあるのだが。それを現実にするだけの覚悟や余裕は、今の自分には無いように思える。
彼女に諭されて現実を改めて認識できた。やっぱり諦めることにするよ、とありがとうの感謝の気持ちとともに彼女にそう伝えようとしたところ、ヤエノムテキはこちらの目をしっかりと見据えて、重い口を開いた。

「ですので……」
「……?」

「……代わりに、“私を飼う"というのは、如何でしょう」






3: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)00:35:03 0

………………?
………………。
「…………は?」

――――
「――ええ、ですから。犬の代わりに私を飼うというのは如何でしょうか?」
「えっいや……何度言われても意味わからんけど。えっ……何が何で、なんて?」
ヤエノムテキの意味不明な言動に疑問を投げかけると、ヤエノムテキは良いですか、と指を一つ立ててこちらに説明を始める。

「トレーナー殿は、日々の癒しの為に犬が飼いたい。……しかし、犬を飼うには数多の手間と障壁があります。そもそも、世話をする為に時間とお金が継続的に必要になりますし、そんな余裕は今のトレーナー殿には無い、と」
「うん、そうだな。それはその通りだ」

「では、ここで犬を飼う代わりに私を飼えば、どうでしょう? 私は食費は掛かりません。自分でやり繰りぇきますので。それから面倒な世話も要りません。大体のことは自立できていると、自分ではそう思っていますから。トレーナー殿のお手を煩わせることはありません」
「はあ……」
「そもそも、犬の良さとは何でしょう。可愛らしさでしょうか? 利口さでしょうか? いつも主のそばに寄り添い、主の役に立とうとするその献身さでしょうか」





4: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)00:35:55 0

「……うーん、まあ、大体そんな感じかな……?」
「私ならば、そこらの動物よりもずっと利口です。トレーナー殿の役に立てることがあるならば、何でもやりましょう。それに……まあ、その……外見の可愛らしさも、犬にも劣らない程度にはあると、自負はしていますし……」
最後だけ、ヤエノは恥ずかしそうに声を細くして語っていた。……いや、そこに恥を覚える前にもっとこう、他にもあるだろとは思うのだが。

「散歩だって……! 日々のトレーニングと兼ねれば問題は無いでしょう。辛い時は寄り添います。飢えを感じているのならば、私が愛でられましょう。トレーナー殿の日々の癒しになります。トレーナー殿は面倒な世話をする必要はありません。つまりは、私がトレーナー殿の犬として仕えれば、全て事足りるということです……!」
「そうか、何言ってんだお前」

熱弁をされても、どうすることもできない。まず担当を犬扱いなどできないし、するつもりも無い。確かにヤエノは可愛らしいが、犬の代わりとして扱えるような存在では無い。というか、ヤエノを飼うってどういうことだ。

「ふむ……ではどうするのですか?」
「……何が……?」




5: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)00:36:42 0

「癒しを求め、犬を飼いたいという欲望に蓋をして、見て見ぬふりをして、自分を抑圧しようというのですか……?」
「いや……それはまあ……大人だし、それくらいの我慢はできるけど……」
「良いですか? トレーナー殿、貴方が今行おうとしてきるそれは止水のようであってそうではない。ただやたらめったらに己の烈火を抑圧し、その胸の内に見えないところで烈火を燃やし続けることに過ぎません」
「それは……」
「己の烈火には、正しい止水を以てして制するべきです。つまり、犬を飼いたいという欲望には、犬を飼うのと同等のことをして己を満たす必要があるのです!」
つまりは、犬を飼う代わりにヤエノを飼うことで、正しく火水合一を果たせと、ヤエノはそう言いたいのだろうか。

「そもそもの話をするならば。トレーナー殿には時間がありません。日々のトレーナー業……その他雑務、諸々……トレーナー殿には犬に割くほどの時間などありません」
「それは、そうかもしれないけど……」
「トレーナー殿の時間は、私の為に使われるべきです。犬などの為に使う道理はありません」
「ああ、それはそうだ……え?」




6: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)00:37:55 0

「トレーナー殿の時間は私の物です。犬などに使われてなるものですか」
「いや、俺の時間は俺の物だけど……」
真っ直ぐな眼差しでこちらに言い放つヤエノムテキ。何か間違ったことを言っているだろうか、彼女はそうとでも言いたそうな真剣な目でこちらに訴えかけてくる。

……まあ、それはそれとして。
「……君が、俺のことを真剣に考えてくれてるのは分かったよ」
「そうですか……! では!」
「いや、でも担当を犬扱いできないよ。だって担当だし」
この世のどこに、担当バを犬扱いするトレーナーが居るのだろうか。
「というか、ヤエノはヤエノだし。犬じゃないよ」
「……まあ、そう思われてしまいますよね。それは、仕方ありません……現に私は犬ではありませんから……」
ヤエノムテキはボソリと俯きがちに言葉を漏らす。……ああ、これで。ヤエノも分かってくれただろうか。ならば話は終わりだ、と適当に切り上げようとした時――ヤエノは、おもむろに何かを取り出しこちらに見せつけた。

「――という訳で、私に首輪を着けてください」「は?」
じゃら、と鎖の擦れ合う音が響き、ヤエノの手元に目が奪われる。




7: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)00:39:09 0

それは人間の首ほどの大きさの、赤い首輪であった。
「私を初めから犬として扱うのは難しいでしょう。ですから、まずは首輪を着けることで犬として認識しやすくしましょう……!」
「いやいや、は……?」
何を言っているのだ、この娘は。

「何事もまずは形から、と言うではありませんか」
「いや、ありませんかと言われても」
「トレーナー殿!」「えっなに」
突然、ヤエノがぐいとこちらに顔を寄せる。

「日々の暮らしに癒しが欲しいのでしょう!? 犬が飼いたいのでしょう!?」「あ、ああ……」
「では、この機会を逃してどうしましょう!? 今なら、トレーナー殿の願いは叶えることができます。私が、トレーナー殿の願いを叶えることができるのです。ですので、さあ。さあ!」
「いや、近い近い近い!」
首輪を持ったヤエノムテキがこちらにグングンと距離を詰めてくる。今日のヤエノはどこかおかしい。
……しかし、その眼差しは真剣そのもので……。ここまで俺のことを考えて我が身を犠牲にしてでも俺の為に何かを成そうとしているヤエノの好意を、ただ無為にするのは何だか気が引けて……。




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