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【ウマ娘怪文書】ずっと溜まっていた大掛かりな提出物を、一晩かけてようやく提出し終えた。どっと吹き出る疲労感に押されるように椅子に深くもたれると、ギシギシとスプリングの音がした。


1: 名無しさん(仮) 2024/07/08(月)20:42:42

窓の外で雀が鳴いている。今一度ページの頭から目を通し、漏れがないことを確認すると保存。送信フォームをクリックした。
ずっと溜まっていた大掛かりな提出物を、一晩かけてようやく提出し終えたのだ。どっと吹き出る疲労感に押されるように椅子に深くもたれると、ギシギシとスプリングの音がした。
誘うような睡魔に、こんなところで寝ては腰を痛めるとなんとか抗う。幸いにも今日も明日も、僕とキタちゃんはオフ日である。もうここで寝ようと訴えかける身体をなんとか起こして、隣の仮眠室に向かった。
靴を乱雑に脱ぎ捨てると、ベッドに倒れ込む。窓から差し込む日光が煩わしくアイマスクをつけると、僕は布団もかけずにそのまま深い眠りに落ちていった。




2: 名無しさん(仮) 2024/07/08(月)20:43:16

どのくらい眠ったのだろうか。扉の向こう、トレーナー室からキタちゃんの声が聞こえる。ああ、授業もう終わったのか。アイマスクをつけたまま寝そべり身体を捻ってストレッチをしていると、そこでもう一人の声に気がつく。
「トレーナーさん昨日からずーっとパソコンに向かってて、やっと終わったみたいなんだ!」
「それは…お祝いをしてあげるべきです!」
ぼんやりした寝起きの頭を起こしながら、ベッドの上で姿勢を直した。どうやら隣のトレーナー室では、キタちゃんが友人のサトノダイヤモンドと一緒に遊びに来ているようだ。
「せっかく今お休み中だし、起きたらサプライズで何かしてあげたいよね!」
キタちゃんの嬉しい心遣いに思わず頬が緩む。扉越しの会話はよく聞こえないが、どうやらそういったものに慣れているサトノダイヤモンドが、キタちゃんにサプライズアイディアを伝授しているようだ。
となればここは起きるのは無粋だろう。ありがたくサプライズを受け取るために、もうしばらくここで寝たフリを続けるべきである。






3: 名無しさん(仮) 2024/07/08(月)20:43:39

「はい…はい、じゃあ車をお願いしていいですか?」
車!?思わず口から飛び出しそうになった声を既のところで飲み込んだ。てっきりお祝いに肩を揉んでくれるとか、ケーキを持ってきてくれるとか、そういう子供らしいものを想定していたので心の準備が出来ていなかったのだ。
お弟子さんとの通話を終えたらしきキタちゃんが扉を開き、こちらを確認しに来たので直ぐ様寝たフリに入る。高ぶる心拍数を必死に抑えていると、ぱたぱたと彼女の足音が近づいてきた。
するりと身体とベッドの間に彼女の腕が差し込まれ、僕はキタちゃんにお姫様抱っこの要領で抱き上げられる。そして彼女はそのまま僕を持ち運び始めたのだ。
物音から察するに、どうやらサトノダイヤモンドは帰ったらしく、キタちゃんは黙って僕を抱きかかえたまま校舎の外に歩き始めた。





4: 名無しさん(仮) 2024/07/08(月)20:44:02

校門で車を停めていたらしきお弟子さんの声が聞こえると、いよいよ大変なことになってきたと実感する。今ここで起きる方がいいのだろうか、しかし……。
『えっ!トレーナーさん起きてたんですか!?あたしに悪くて寝たフリを…?あたし…トレーナーさんにお祝いをしたかったのに…結局気を遣わせちゃってたんだ…』
もしここで起きたらどうなってしまうことか、悪い想像をなんとか頭から振り払う。もう後戻りは出来ない、どんなに大掛かりなことになったとしても、僕は最後まで寝たフリを続けサプライズを享受するべきなんだ。
車の中に乗せられると、隣に座ったキタちゃんにシートベルトをつけられ、手を握られる。こんなことになって起きないのも不自然だろうと自分でも思うが、最早乗りかかった船なのだ。
「じゃあお願いします」
お弟子さんが朗らかに返事をすると、車はサプライズの場所に向かって走り出した。




5: 名無しさん(仮) 2024/07/08(月)20:44:23

どのくらい走ったのだろう。アイマスクで周囲は見えず、体感時間ではそこそこいい距離を走ったようにも感じる。
不意に車が止まると、キタちゃんが再び僕を抱きかかえて車の外に出た。
「明日には下山するのでお昼頃迎えに来ていただければ」
山!?思わず口から飛び出しそうになった声を既のところで飲み込んだ。そのままお弟子さんと分かれたキタちゃんは、僕を抱えたまま苦も無くずんずんと登山道を登っていく。
風でしなる木々の音、忙しく鳴く虫の声、それらが例え視覚がなくともここは山道であると告げている。
「早くしないとトレーナーさんが起きちゃう」
ここに来て未だ疑うことを知らないキタちゃんの純粋さに胸が締め付けられる思いである。僕はせめてもと、すうすうと寝息を立てて見せた。




6: 名無しさん(仮) 2024/07/08(月)20:44:47

キタちゃんは山道をしばらく歩き、何かの建物の鍵を開けた。ようやく僕にも状況がわかってきた。ここはきっと、キタちゃんの実家の持っている別荘か何かなのだ。
僕はリビングのソファらしきところに寝かされ、その間にもキタちゃんが周囲の片付けやセッティングを進めているようだ。
そしてしばらくすると、再び僕は抱き上げられ、キタちゃんは階段を登っていく。からからと窓を開ける音がすると、蚊取り線香の香りが鼻をついた。
「よいしょ、よいしょ」
僕はデッキチェアに寝かされ、その周囲では彼女が懸命に何かの準備を進めている。そんなキタちゃんの心遣いを思えば、やはり寝たフリを続けてよかったと感じてしまわずにはいられない。




7: 名無しさん(仮) 2024/07/08(月)20:45:11

「トレーナーさん、起きてくださーい」
どうやらサプライズの時間が来たようだ。肩を揺り動かされると、わざとらしく見えないよう自然な演技で寝起きのフリを始め、アイマスクを外した。
そこは、別荘のバルコニー、二人並んでデッキチェアに寝そべり、眼の前にはプラネタリウムと見紛うほどの満点の星空が広がっていた。
「すごい……」
「えへへ、びっくりしました?トレーナーさんが頑張ってたみたいなので、何か特別なお祝いをしたくって」
迷惑ではないか、と言おうとしているキタちゃんの言葉を遮って、最大限の感謝の言葉を告げる。キタちゃんはそれを聞くと、胸を撫で下ろした。
「実は、クリスマスは漁村でしたけど、夏はここでトレーナーさんとゆっくりしたいなあって……あたしの夢でもあったんですよね」
そう言いながらキタちゃんは、二人の間にある氷入りのバケツからサイダーの瓶を取り出し、僕に渡す。二人でサイダーの瓶をぶつけて乾杯をして、星を見上げながら飲んだ。




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