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【ウマ娘怪文書】生徒たちが山にチョコを置いてゆく様は、できるだけ高く積んでいく遊びのようで少しだけ笑ってしまったが、下手をすれば転んでしまいそうなほど手いっぱい抱えたシービーを見ているとそう悠長なことも言っていられない


1: 名無しさん(仮) 2023/02/19(日)01:32:32

机の上の一角に、底の見えないほどの茶色い山。食べられるかどうかということは別にして、物珍しい景色として眺める分には興味深いものがあるが、おそらくこの大部分がいわゆる本命で、きっと彼女は数日かけてこれをひとつひとつ食べていくのだろうと考えるとおちおち嫉妬もできない。
「ありがと、流石に持ちきれるか怪しかったから」
「すごいな、何となくわかってたけど」
特に何をするでもなく、昼下がりの眠気に身を任せて呆としながら廊下を歩いていても、チョコの山を両手に抱えて取り落としそうになっている彼女は見逃し様がなかった。それでもお構いなしに生徒たちがその山の上に自分の分のチョコを置いてゆく様は、何か積み木を崩さないようにできるだけ高く積んでいく遊びのようで少しだけ笑ってしまったが、下手をすれば転んでしまいそうなほど手いっぱいのチョコを抱えたシービーを見ているとそう悠長なことも言っていられないと、急いでその山を半分ほど引き受けてトレーナー室に戻ってきた。
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2: 名無しさん(仮) 2023/02/19(日)01:32:54

「もー、笑わないでよ。
大変なんだよ?嬉しいけどさ」
「だろうな。毎年こんな感じか?」
「うん。もしかしたらいつもより多いかも」
ひとまずはと置いたチョコの山をふたりで整頓しながら、彼女は手で凡その目見当を付けて呟いた。
「食べられそうか?」
「食べられそう、っていうか。食べてもいいの?」
「え?シービーにくれたチョコだろ?」
「うん。そうだけど。
いつもはゆっくり食べてるんだけどさ。あるじゃん、体重管理とか」
「あー…確かに」
去年は誰とも契約していなかったのでそれほど厳格に気にしてはいなかったのだろうが、栄養の観点から言えば流石にこの量の糖分はよろしくない。とはいえ、チョコの中には如何にも高級そうなものや手の込んでいそうなものもいくつかある。
「手伝ってくれると嬉しいんだけどな」
「俺が手付けちゃったら悪いだろ」
「でも、残しちゃうほうがやだな」




3: 名無しさん(仮) 2023/02/19(日)01:33:20

彼女の言うことに頭の半分では納得しつつも、残りの半分はやはり受け取る手を制止してくる。
「じゃあ、半分こしよ。アタシも一緒に食べるから。それならいいでしょ?」
見かねた彼女が出してくれた助け舟に乗せてもらって、漸く大量のチョコレートに手を付けることができた。





4: 名無しさん(仮) 2023/02/19(日)01:33:37

「好きなの取っていいよ。半分残してくれたら、後で食べるから」
「ああ。…じゃあ、いただきます」
初めは少し躊躇いながら口に運んでいたチョコレートも、一口目が舌で融けるころには彼女と一緒にその味に舌鼓を打っていた。
「あ、これおいしい」
「ん?苺入ってるのか。
ん、こっちはりんごだ」
「いいじゃん。アタシの好きなの入れてくれたんだ、フルーツ入ってるやつ。
食べてみる?こっちのも」
自分の手の中にあるものと同じように半分に割ったチョコの片割れを、彼女はこちらに差し出してきた。
「あ、じゃあもらおうかな」
彼女の指先にあるそれを同じようにつまんで受け取ろうとした指はしかし、ひょいと引っ込められた彼女の手を捉えられずにあっけなく空を切った。もう一度彼女の指先からチョコを掠めようとしても、今度は手を後ろに回されて届かないところに隠されてしまう。
「こら」
「あーんじゃないと食べさせてあげない」
軽くたしなめるようなこちらの口調さえも楽しむように、彼女は悪戯っぽい微笑みを浮かべていた。




5: 名無しさん(仮) 2023/02/19(日)01:34:02

彼女の手の中にあるチョコをなんとか取ってみようと、暫く無謀な格闘を繰り返す。いつしか彼女からチョコを手に入れることよりも、彼女と戯れることが目的になってしまっていることにお互いに気づいてしまって、示し合わせたように笑い出した。
「…ふふっ、あははは」
「はは、笑うなよ。
やんなきゃだめか?一応大人のつもりだからさ、結構恥ずかしいんだけど」
お情けを期待してみたけれど、彼女はどうやら気を変えてはくれないらしい。彼女の笑顔は、相変わらず楽しそうなままだったから。
「だめ」
「なんでさ」
「アタシが楽しいから」




6: 名無しさん(仮) 2023/02/19(日)01:34:34

「じゃあ、しょうがないな」
仕方ない。彼女が楽しんでいるのなら、それを邪魔することは誰にもできないのだから。
何より、他ならぬ自分が、そんな彼女との時間を楽しんでいるのだから。




7: 名無しさん(仮) 2023/02/19(日)01:34:51

「あ、それおいしそう」
初めに何となく二つに分けた山は、すっかりどちらがどちらともわからなくなっていた。目を引いたものがあれば、お互いにお互いの場所から取っていくようになっていたが、どうやら今手の中にあるチョコレートは、彼女のお気に召したらしい。
「これか?
ほら、そっちで食べたら?」
腹の加減もそろそろ潮時を迎え始めたのを感じて、半分に割ることなく包み紙を剥いて彼女に渡そうとする。受け取ったのを確認して引っ込めようとした手は、彼女のもう片方の手で遮られた。
「手出して」
「ん?」
「まず、はい。きみにあげる。
そのまま、またアタシにちょうだい?」
自分と彼女の間を行って戻ってきたチョコレートと、穏やかに微笑む彼女の顔を交互に見やる。
「なんでわざわざ?」
「きみに食べさせてもらったほうがおいしそうだから」
覗き込むように顔を近づけてそう口にする彼女の瞳は、今にも弾けそうなくらいに眩い光で輝いていた。




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