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【ウマ娘怪文書】「トレーナー!さっき買った帽子、出してみてもらって良いですか?」 マチカネタンホイザは店から出るなり、彼女のトレーナーに向き直ってそう言った。


1: 1/11 2024/08/10(土)16:35:12

「トレーナー!さっき買った帽子、出してみてもらって良いですか?」
マチカネタンホイザは店から出るなり、彼女のトレーナーに向き直ってそう言った。
「良いけど……はい」
トレーナーは買物袋から新品の帽子を取り出してタンホイザに渡した。
2人はお出かけの最中にセール中の帽子屋を見つけて、買い物をしていた所だった。
帽子選びには自信があるというタンホイザのチョイスにより、トレーナーは自分用の帽子をひとつ購入している。




2: 2/11 2024/08/10(土)16:36:12

「ここにこうして、っと。はい!どうぞ!」
タンホイザから返ってきた帽子には、つばの左側に小さなバッジが付けられていた。赤いMと青いT、アルファベットの形をしたカラフルなバッジだ。
「マチタン・トレーナーのM・Tです!どうですか?個性出ましたよね?」
「え、君が買ってくれたの?いつの間に……」
「お店の奥に売ってたので、トレーナーがお会計してる間にこっそりと!」
「……ありがとう。大事にするよ」
トレーナーは顔を綻ばせ、その場で帽子を被って見せた。
「おお!すごく似合ってます!あとでお写真撮りません?……って、値札出ちゃってますよトレーナー。んふ」
「うわ……恥ずかしい」
和気藹々と話しながら、楽しい2人の休日は過ぎていった。






3: 3/11 2024/08/10(土)16:36:50

そして翌日。タンホイザはクローゼットからいつものように服を取り出そうとして、ふと鬼ドッジ用のコスチュームに目を留めた。
スカートに付けられたリボンの真ん中には、MとTのワッペンがある。
「……むん。そういえばマチ・タンもM・Tかぁ」
昨日の一件を思い出し、タンホイザは独りごちる。
「あれだとトレーナーが私の帽子を被ってるみたいになっちゃったかな?……あれ、なんかそういうの前にもどこかで……」
タンホイザは連鎖的に過去の記憶を掘り起こしていく。
それは以前、商店街でナイスネイチャと話した記憶――





4: 4/11 2024/08/10(土)16:37:29

「あれ?あの人って確か、八百屋さんの人だよね?」
その時、タンホイザの視線は商店街を歩く一人の青年に向けられていた。
精悍な顔立ちにがっしりとした体格の彼は、よく野菜をおまけしてくれる気の良い八百屋の店員だ。
「ん、そうだけど。ご主人の息子さん……が、どうかした?」
「さっき鍵落としてたから拾ってあげたんだけど、キーホルダーにイニシャルが入ってて。でも八百屋さんの苗字と違ってて……もしかして、別の人のを渡しちゃったかなぁ」
「なんて書いてあったの?」
不安がるタンホイザからイニシャルを聞くと、ネイチャは納得したような顔で笑った。
「あー、それなら大丈夫。それ彼女さんの名前だよ」




5: 5/11 2024/08/10(土)16:38:16

「へ、そうなの?……なんで知ってるの?」
「本屋さんの子と付き合ってるって商店街で噂になってたもん。あれマジだったんだー、そっかそっか」
「……は!それってもしかして、合鍵ってこと?」
「そうかもね。っていうかイニシャルって……アピール凄いな」
にやりと笑うネイチャに対して、タンホイザはいまいちピンと来ない顔をしている。
「アピール?ってどういうこと?」
「あえて周囲に自分達の関係を匂わせてるんでしょ。噂になるわけだ」
「え?なんで?」
「そりゃあ、あの人モテそうじゃん?だから牽制っていうか、縄張りの主張っていうか。自分の名前をちらつかせて、コイツはアタシんだ!ってアピールしてんのよきっと」




6: 6/11 2024/08/10(土)16:39:01

「はぇ〜、なるほど。なんかすごいねぇ」
感心するタンホイザに、ネイチャはシニカルな笑みを浮かべて言った。
「アタシには無理だなぁ、ああいうの。ぶっちゃけ重過ぎだし、彼氏さんも困っちゃうじゃん?」
「確かに、噂になるのは困っちゃうよね……」
「あんまり束縛強いのはちょっとね。彼氏さんもよく持ち歩いてるもんだわ」
「困っても良いくらい、好きってことなんだねぇ」
「……何そのピュアな視点。なんか落ち込むわ……」
「え、なんで?」

――という会話をした記憶が、タンホイザの脳裏に蘇る。
「これって……これってもしかして……他の人から見たら、そういうふうに……ひゃー!」




7: 7/11 2024/08/10(土)16:39:57

顔を赤らめて、一人わなわなと震えるタンホイザ。
「うう……でもでも、最初はトレーナーも乗り気じゃなかったし。あんまり被らないかもだよね!うん、たぶん大丈夫!」

――しかしそんな彼女の思いも虚しく、その日学園で出会ったトレーナーの頭には、しっかりとマチ・タンのM・Tが添えられていたのだった。
「めちゃくちゃ被ってるぅ……!!」
「あ、おはようタンホイザ。どうかなこれ?早速被ってみたんだ」
「に、似合ってます!似合ってますけど……!」
「帽子なんて被ったことなかったけど、結構気に入ってさ。君みたいに毎日被るのもありかもなぁ」
「な、なんと!?」
「ありがとうタンホイザ。流石帽子選びの名人だな!」




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