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【ウマ娘怪文書】愛とは何か。それはヒト、ウマ娘問わず永遠の謎である。だが、中には深く考えない者もいる。


1: 名無しさん(仮) 2024/03/05(火)23:04:36

愛とは何か。それはヒト、ウマ娘問わず永遠の謎である。
だが、中には深く考えない者もいる。興味が無いから、考えずとも直感で理解しているから、等々。ここにも、そうやって愛から目を背けるウマ娘が一人…

エアシャカールは考えない。愛なんて不確かだから。
この学園に所属していると度々耳にする、「誰々のために走った」「誰々のおかげで勝てた」「誰々と一緒だったから今日まで頑張れた」
そういった「誰々のために」をクサい言葉で「愛の力」、なんて表現する者もいる。
なんてロジカルじゃないんだろう、とシャカールは思う。頑張れたのも勝ったのも、ひとえに自分の実力でしかない。そんな気持ち1つで結果が変わるのなら、自分は“パルカイ"を作らなかったし、7cmの壁に苦しむこともなかった。
だから彼女は、「誰々のために」や「愛の力」といった言葉に懐疑的だ。

エアシャカールは考えない。愛なんて不確かだから。
そういった「愛の力」を誇示する連中も、愛という存在自体は不確かなものだと自覚しているようで。
“愛"を形で求めることがある。例えば。




2: 名無しさん(仮) 2024/03/05(火)23:05:04

「見たまえ見たまえ、シャカール君。この輝きを!」
食堂にて。彼女の眼前に誇らしげに蹄鉄を突き付けるウマ娘が一人。
「…ッチ。うっせェな。何の変哲もない蹄鉄じゃねェか」
「はっはっは、ノンノンノン。よーく見たまえよ!この蹄鉄の輝きを!この!モルモット君から貰った!蹄鉄の輝きを!」
彼女の名はアグネスタキオン。学園一のマッドなウマ娘にして、シャカールと双璧を成すデータや研究を重んじるタイプのウマ娘。……なのだがこちらは些かロマンチストな気があった。
「見てるよ。何度見たってただの蹄鉄だ。自慢してェなら相方にでもやれよ」
「相方?カフェのことかい?もちろんやったさ。そしたらカフェのやつ、コーヒーミルを引っ張り出して来てねぇ…『トレーナーさんからいただいたものです…貴方の蹄鉄に負けず劣らず、いえ、私のコーヒーミルの方が…輝いてます』ってねぇ。自慢対決になってしまったから反撃してこない君に自慢しているというわけだ」
「うぜェ」
ゲンナリしながらもそこは悲しい哉、付き合いの良いシャカール。タキオンの自慢話から逃げ出したりはせず、適当に相槌打ちながらも付き合ってしまうのが彼女の性。






3: 名無しさん(仮) 2024/03/05(火)23:05:44

要約するとこういうことらしい。
日頃のご褒美も兼ねて、彼女のトレーナー、通称モルモット君が蹄鉄の新調を提案した。
「私も暇ではないがモルモット君の誘いなら仕方ないねぇ…」とはタキオンの談。
一緒に店まで出向いて彼女の足や走りに合わせた良い蹄鉄を見繕ったが、そこはタキオンに甘い所のあるモルモット君。繊細な足を持つ彼女の負担を少しでも軽減すべく、タキオンよりも熟考に熟考を重ねていたとのこと。代金も勿論彼の全額負担。『蹄鉄代もバカにならないのによくやるもンだ、つくづく甘いヤツ』、そう思うシャカールであった。
「そういうわけで見たまえよこの蹄鉄を!次のレースが楽しみだ!これを履けばきっと私は無敵さ!」
「つーかオマエそれでもイイトコのお嬢様だろ?それより良い蹄鉄だって実家帰れば用意出来んじゃねェの?」
「おやおや、キミにはこの蹄鉄の価値が分からないようだね?お金にモノを言わせればいいってものではないよ」
「ハッ、要はデートしたことも含めてオマエにとっちゃ価値があるってわけだ。ンな大事なもん履き潰せンのか?」
「待ちたまえ、今なんて言った?」
「だから、そんな大事なもん履き潰せンのかって…」





4: 名無しさん(仮) 2024/03/05(火)23:06:32

「その前さ。君は確かデートと…」
「あァ?違ェのかよ?オマエのことだ、どうせ蹄鉄買っただけじゃ済まねェだろ。何か食いたいとか、どっか寄りたいとか」
「それは……ふふっ、そうか、私はモルモット君とデートを…うふふっ」
「チッ」
今更になって、惚気られたことに腹が立ってきたシャカールであった。

エアシャカールは考えない。愛なんて不確かだから。
少し前ならアグネスタキオンも同じようなことを言っただろう。シャカールより理想やロマンに傾倒する気があれど、傾倒するなりに根拠や理由を求めるからだ。ところが、「誰々のために」「愛の力」、そういった不確かなものへの根拠を彼女は得てしまった。そう、今の彼女自身がその根拠になり得る。
もしかしたら、タキオンは未だに「愛なんて不確かなものだ」と言うかもしれない。だが説得力がない。先程の顔、あんな乙女のような顔をされては、仮にタキオンがそう言ったとしてもどの口が、とツッコミを入れてしまうだろう。というかゾッとするからやめてほしい。ああいうのはもっと恋する乙女が似合うような、例えばファインモーションにでもやらせておけばいいのだ。




5: 名無しさん(仮) 2024/03/05(火)23:07:25

ファインといえば、先日こんなことがあった。
「聞いてよもー!この間のレース、私とーっても頑張ったんだよ?なのにトレーナーったら、ご褒美のラーメン屋巡り、行っちゃダメだって!酷くない?きっと私のこと嫌いなんだ!」
「あァ、知ってる。オレもアイツに釘刺されたからな。ラーメン屋に連れて行くなって」
「ええー!?まさかシャカールも私を裏切るつもり!?」
「安心しろ、オレはオマエの味方だ。この体重計に乗って、問題ない数値が出たらな」
「………」ピピッ
増加傾向であった。
「ラーメン屋は無しだ」
「酷いーーー!!!」
涙を浮かべて嫌々と首を振るファインを見て、ふと彼女のトレーナーが釘を刺しに来た時のことを思い出した。
「ファインの為だ、協力してやる。でもオマエそれでいいのかよ?」
「いいのかって?」
「なんだかんだ言ってファインに甘いオマエだ。それに、オマエ自身ファインと出かけンの嫌いじゃねェだろ?オマエが我慢出来ンのかってな」
「シャカール、最初に一つ言わせてもらうなら、俺はファインと出かけるのは大好きだ。出先で彼女の気まぐれに振り回されている時は夢見心地と言ってもいい」




6: 名無しさん(仮) 2024/03/05(火)23:07:55

「堂々と宣言すンじゃねェ!キモいから!」
「そして俺の思い上がりじゃなければ、彼女も俺と出かけるのを楽しんでくれてる、と思う…」
「…安心しろよ、きっと思い上がりじゃねェから」
「ありがとう。……ファインはさ、いずれ国に帰るだろ?今は彼女が責務を果たす前に与えられたほんの少しの猶予だってことは君もよく知ってると思う」
「あァ」
「その猶予を使って、彼女はレースの世界に挑んでる。少しでも悔いの残る結果に終わったら、せっかくの彼女の時間を台無しにしてしまう。だから…」
「後悔に繋がりそうな要因は可能な限り取り除きたい、ってわけか」
シャカールは少し彼を見直した。普段お姫様にあれよあれよと振り回されているだけかと思ったが、彼なりに色々考えているようだ。だが。
「アイツがこっちに来てる理由に、思い出作りがあるのも忘れてやるなよ。あんまり締め付けすぎると、それこそ後悔すンぞ」
「シャカール…ありがとう。肝に銘じておくよ」




7: 名無しさん(仮) 2024/03/05(火)23:09:06

というやり取りを経て、不器用なりに彼はファインを想っていることをシャカールは知っている。そしてそれは恐らく…
「なァ、ファイン。オマエのことだ、トレーナーがどうしてそう言ったかは理解してンだろ?」
ピタッと首を振るのを止め、ファインは黙り込む。
「意図が分かってンなら、あまりワガママ言って困らせンじゃねェよ。それに、だ。ご褒美つっても何もラーメンしかないわけじゃねェだろ?ほら、この前観たいって言ってた映画とか。あれ見てくればいいンじゃねェの?」
今回は特別。彼なりに男気を見せたトレーナーに協力してやることにしたシャカール。代替案を提示して、納得してもらおうという魂胆だ。
「シャカール…」
「アイツはアイツで、オマエのこと考えてるよ。保証する。だから…」
「ううん、違うの。彼とお出かけした時にラーメン屋見つけたら結局ワガママ言って入ろうとしちゃいそうだなって…」
「それくらい自制しやがれ!」




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