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【ウマ娘怪文書】コンコンとノックの音。こんな夜更けに連絡もなしに来る客なんて、大抵ろくなもんじゃない。新聞の勧誘か、それとも酔っぱらいか。「どなたです?」ところが相手は返事もなく、勝手にドアノブをガチャガチャと回し始めた。


1: 名無しさん(仮) 2023/09/11(月)20:40:38

今日のトレーニング前にタブレットに記録した各種数値データをノートPCのエクセルに移していく。愛しの担当愛バ、タイキを見始めてからずっと続けていることだ。
データをもとに明日のトレーニングメニューを決定していく。トレーニングで体を鍛え、レースで走るのは彼女の仕事、効率よく彼女を鍛えていくのは僕の仕事。
入力された記録を元にグラフを表示すれば、右肩上がりに伸びる数値。僕はこれを見るのが好きだ。毎日のルーチンワークと課したそれに熱中するあまり、空腹を知らせる腹の虫が鳴るまで、夜が更けているのに気が付かなかった。
もうこんな時間か、夕食は……インスタントでいいか。なんて考えていると、コンコンとノックの音。こんな夜更けに連絡もなしに来る客なんて、大抵ろくなもんじゃない。新聞の勧誘か、それとも酔っぱらいか。
「どなたです?」
声をかけながら椅子から立ち上がり、玄関に歩いていく。ところが相手は返事もなく、勝手にドアノブをガチャガチャと回し始めた。






2: 名無しさん(仮) 2023/09/11(月)20:40:49

恐怖に体が硬直する。部屋を間違えた酔っ払いか何かであってくれ。祈るように縋った。
鍵がかかっていて開くはずのないドアノブ、だけれどもガチャガチャと回されるといつしか勝手に開くんじゃないかと要らぬ妄想をしてしまう。
覗き穴から相手を見てやればよかったのだが、昔見たホラー映画で似たようなシチュエーションの時、覗き穴から尖った何かを突っ込まれて目を狙われるシーンを見てから怖くて覗き込めない。
「人を呼びますよ!」
精一杯振り絞ったその声が届いたのかわからない。ガチャガチャと回されるドアノブが静まり返り、ぺたぺたと去っていく足音だけが聞こえてきた。




3: 名無しさん(仮) 2023/09/11(月)20:41:12

「ということがあって引っ越すことにしたんだ」
「ワォ!それは……テリブルでしたネ〜」
特に彼女に心配してほしかったわけでもないが、トレーニング前の雑談がてら、一応の連絡として引っ越すことを伝えたところ、思った以上に彼女を怖がらせてしまったようであった。
「今度トゥレイナーさんのボディガードしてあげマース!不審者はBANG!デス!」
人差し指を拳銃の形にして地平線に射撃を行う彼女の愛くるしさに、少し救われた気もした。大丈夫と添えながら肩を叩き、銃を降ろさせる。
「タイキが僕に気を使う必要はないよ。君は君の思うままに、我慢せず好きなことをやればいいのさ。僕はそのサポートが出来たら一番幸せだから」
納得したようなしてないような、怪訝な顔をしているタイキをとにかくトレーニングに向かわせる。





4: 名無しさん(仮) 2023/09/11(月)20:41:22

次のマンションは防犯重視で選んだ。あれが空き巣だったのか不審者だったのか酔っ払いだったのかはわからないが、用心に越したことはないだろう。
ベランダはなく窓はすべて鉄の格子付き、ワンルームで侵入経路は玄関口だけ。その玄関口も分厚い鉄板の扉で閉められウマ娘だとしても破壊は出来ないと売り込まれた。
鉄筋コンクリート造で防音完備、隣人トラブルとも無縁。安心して過ごせるはずだった。
引っ越して翌日、またドアノブが回されたのだ。一瞬ビクついたが、ガチャガチャと回すそのドアノブが強固なもので、明らかに前のマンションと比べて諦めたような反応で返っていった様子を見て、ほっと胸をなでおろした。
タイキは実力もありちょっとは名の知れているウマ娘。もしかしたらそちらの線でのストーカーかもしれない。けれども彼女に心配をかけたくない気持ちから、これで諦めてくれるならいいかと思っていた。




5: 名無しさん(仮) 2023/09/11(月)20:41:36

昨夜まとめていて思った通り、彼女のパワーが伸び悩んでいる。スピードとスタミナは順調だ、賢さも語学のハンデがあるにしては大したものだ。パワーだけが芳しくない。
「これまでのトレーニングと並行してパワートレーニングもちょっと増やしていこう」
「カワラワリ、苦手デス…」
「別に瓦が割れるようになれとかそういうんじゃないんだ、あれは力もだけどコツが必要だしね」
「hmm……」
「要は走ってる時集団に囲まれたりブロックされた時抜け出せるパワーがあればいいんだ。それがないと飲まれてスピードも活かせないからね」
何かを考え込むようなタイキが、ぱあっと顔を明るくさせ了承してくれた。深く理解してくれていないのかもしれないが、僕を信頼してトレーニングをしてくれるなら問題ない。僕たちの関係は上手く回っているように思えた。




6: 名無しさん(仮) 2023/09/11(月)20:41:48

半年が経った。タイキは重賞を制し、一躍有名ウマ娘の仲間入りを果たした。未だ挑戦の日々は終わらないのだが、タイキの努力と僕のサポートが実を結んだ成果と思うと、誇らしさを隠せなかった。
懐かしむように、今日のデータを入力したついでにこれまでのデータをまとめてグラフにする。彼女と出会った頃から、これまでの記録をアルバムのように楽しんだ。この頃はスタミナがまだ全然だったな、なんて思い出しながら。
結局、パワーはあまり伸びなかった。けれども最低限の突破力と、囲まれない位置取りを走る最中も模索出来る賢さのおかげで、彼女は苦もなく走り続けられている。特に賢さについては顕著なものだ。
しかし違和感に気がついてしまったせいで、一気に現実に戻される。おかしい、変だ、不自然だ。こんなことあるものか?彼女のグラフのパワーの数値が、半年間一切動いていない。
これはトレーニングで半年間同じ数値を叩き出しているということだ。試しにエクセルの数値を小数点を細かく刻んでグラフを変えてみたが、それでもなお、直線のそのグラフは微動だにしなかった。




7: 名無しさん(仮) 2023/09/11(月)20:41:59

右肩上がりに伸びていく他のグラフと比べて、異質なそれ。一応絞り込む範囲を増やしてみると、やはり出会った当初よりは、他の線と比べて緩やかとはいえ、多少パワーは伸びていた。
パワーの数値が完全に横ばいの直線になったのは半年前、僕がパワートレーニングを増やすことを決めた日からだ。こんなことは起こり得るのか?もしかして僕のデータサンプル値が引用するセルでも間違えたか。
ちょっとした好奇心から、試すつもりで、スピードやスタミナ、賢さの伸び率を参考に、もし仮に半年前からパワーが他と同じように伸びているとした場合のグラフを作成してみた。
グラフは、スピードスタミナを追い越す極端な上がり幅を見せた。当然だ、他のトレーニングよりも増したメニューを行っているのだから。この通りなら今頃彼女はとてつもないパワーを身に着けているだろう。
だが何故?こちらのミスか?それとも彼女がわざとパワーのテストを怠けていたのか?いやあり得ない。怠けていて小数点以下まで同じ数値を半年間取り続けることなど不可能だ。




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