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古美門研介「こんな機会滅多にないぞ」黛真知子「自信がないのかしら?」 (15)(完)


1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/08/30(水) 00:18:52.03:tvaETUooO (1/4)

【プロローグ】

「サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことは他愛もない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、黛君。君はいつまでサンタクロースを信じていた?」
「え?」
「夜中に不法侵入してきて荷物を置いていくという老人のことだよ」
「私は今も信じてます」
「なぁんだって!?」
「今もサンタクロースはいると思ってます」
「君の愚かさはいつも予想の上をいくねぇ」
「ほんとにいます!」

人は信じたいものを信じ見たいものを見る。

「服部さんは如何です?」
「はははは。私の少年時代にはサンタクロースというシステムがござませんでした」
「それは失礼」

そこで少女が呟く。彼女こそ今回の依頼人。

「私は信じたことない」

使い潰された子役は、親の愛情を信じない。

「私はサンタなんて、1度も信じたことない」
「自分の信じたいものだけを信じたまえ。聖書にもあるだろう? 信じる者は救われると」

子供自身による親権の停止の申し立て裁判。
勝訴すれば国内初の判例となる重大な事案。
黛真智子は、朝ドラ全開で説得を試みたが。

「メイさん。もう1度、お母さんと話し合って……」
「私はお母さんを信じてない」
「でも親子なんだから……」
「うるさい!」

少女は聞く耳を持たずに出て行ってしまう。

「12才の子が母親と断絶しようとしている。内心どれほどの苦悩を抱え、血を吐く思いをしてるか君にわかるか?」

この朝ドラにはわからない。私にはわかる。

「二度と薄っぺらい言葉を吐くな」

何故なら、幼少期に似た経験をしたからだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1693322332




2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/08/30(水) 00:21:28.41:tvaETUooO (2/4)

「サンタクロースなんている訳ないだろう」
「サンタにプレゼント貰ったもん!」

小学生の時、同級生の女子と口論になった。

「4年生にもなって本気で信じてるとは驚きだ。あんなものはおもちゃメーカーの策略に踊らされた馬鹿な大人たちの自己満足イベントに過ぎないんだよ」

賢しい子供だった私が一般常識を述べるも。

「じゃあ、誰がプレゼントくれたのよ!?」

通常の子供には理解出来ない。知能が低い。

「愚問だね。一度寝たふりをして薄目を開けているといい。忍び足で君の枕元に糞をするお父さんの間抜け面を見られるだろう」
「サンタさんは脱糞なんてしないもん……」
「フハッ!」
「うえーん……」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

嗜虐心を刺激されてついつい愉悦が溢れた。
くだらない。優越感に浸る意味もなかった。
彼女にはサンタクロースが来た。その事実。
私にはサンタクロースは来ない。その現実。

「ふぅ……まったくもって、馬鹿げている」

実際は、泣きたいのはこっちのほうだった。




3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/08/30(水) 00:22:17.33:tvaETUooO (3/4)

「君のクラスメイトのお母さんが抗議に見えました。君は彼女にサンタクロースはいないと言ったそうですね?」

当然の帰結として告発され父に尋問された。

「……はい」
「何故そんなことを言ったんですか?」
「本当のことだからです。嘘を信じてるほうが馬鹿だからです」
「サンタクロースが存在しない根拠は?」
「だって嘘だから。居ないものは居ない」
「根拠を示しなさいと言ってます」

当時の私はまだ悪魔の証明を知らなかった。

言った言わない論争でもたびたび見られる。
根拠とは事実に基づくもの。虚構にはない。
何かが存在するという根拠は容易に示せるのに対して、存在しない根拠を示すのは困難を極める。小学生でも考えればわかることだ。

「……見たことないし」
「自分が見たことないものら存在しないというわけですか」
「僕だけじゃなくて世界中誰も見たことないです」
「世界中の人にインタビューしたんですか」

馬鹿げている。子供だと思って舐められた。

「サンタクロースが存在しない根拠は?」

何も反論出来なかった。幼い私は愚か者だ。

「君は根拠もなしに、勝手な見解でクラスメイトを傷つけたわけですね。カステラを買って今すぐ謝罪してきなさい」

根拠を提示すべきは、向こうのほうなのに。

「ちなみにそのお金は君のお年玉のために用意してたものなので、そのつもりで」

愚かな私は、父のその冷たい言葉の真意に気づけなかった。カステラの金額などたかが知れている。残りは全てお年玉として貰える。

「なんで僕のお金で、カステラなんか……」

或いはそれは不器用な父親のクリスマスプレゼントだったのかも知れないが、当時の私はそうと気づかず、買ったカステラを自分で食べた。そして当然の帰結として父にバレた。





4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/08/30(水) 00:24:00.91:tvaETUooO (4/4)

「何故君がそれを食べてるのか説明しなさい。何でもいい。私を説得してみせなさい」

何故、父がここに居るのか。帰宅前なのに。
今ならばわかる。父は私のあとをつけて、一緒に謝罪へと出向いたのだ。不器用な人だ。

「僕が泣かせた女の子はカステラが苦手なので、持って帰りなさいと言われたから……」
「あの子の大好物はカステラだという情報を得たから、君にカステラを持って行かせたんですよ。それくらいの予想がつきませんでしたか?」

ぐうの音も出なかった。深い失望を感じた。

「頭の悪い子は嫌いです」

父に嫌われた。私も、愚かなガキは嫌いだ。

「どうせ中途半端な人生を送るなら、家名を傷つけないようにどっか遠くへ消えなさい」

耳が痛い。それから暫くして私は家を出た。
父を見返すために。愚かではないと認めさせるために。検事として九州地方の法曹界で名を馳せた父への当て付けのように弁護士となりそして今に至る。今の私は愚かだろうか。

「いつかの悪魔の証明、か。性懲りも無く」

それを証明するのが今回の審問であり、対する父は、さながらあの時の悪魔の証明のようにこの私が優秀である根拠を問うのだろう。

「……上等だ」

根拠は事実に基づく。今回は私に分がある。




5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/08/30(水) 00:24:54.91:7KMNvF/HO (1/8)

「親権を停止させて、どうしたいのか?」

審問が始まった。父の質問を慎重に答える。

「メイさんは更生したいのです。芸能活動を休止し、勉学に励み、通常の人間関係と社会を学びたいのです」
「留美子さん。それは受け入れられますか」
「メイが望むなら受け入れられます」
「ほう。これで済んだ」

開始早々に終わらせにきた。舐められてる。

「メイさんにとって辞めてもいいという母の言葉は辞めたら許さないという脅迫に他なりません」
「何故そうなる。理解に苦しむ」
「メイさんは物心つく前から母親の幸せは自分の幸せなのだと教え込まれてきたんです。一種の洗脳教育です」
「洗脳? 洗脳の定義とは?」
「一般常識と異なる価値観や思想を植え付けることです」

あんたが私にやったように。すると不意に。

「黛先生、でしたね?」
「あ、はい」
「ご家族だけの習慣はありますか?」
「えっ」
「黛家だけのルールはありますか?」

パートナー弁護士は、思い当たったように。

「ああ……あははは。うちでは親しい人がうんちを漏らしたら大笑いして励ますルールがあって、だからみんなそうなんだと思って。クラスメイトが漏らした時に高らかに哄笑したら、その子がめっちゃ怒って。フハッ!」

敵味方も唖然とする室内に哄笑が響き渡る。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

閑話休題。裁判長は黛君を摘み出すべきだ。




6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/08/30(水) 00:26:42.49:7KMNvF/HO (2/8)

「なんですか、この香ばしい青春トークは」
「黛先生も洗脳教育を受けておられる」
「こんなものは洗脳とは言いません!」
「しかしあなたが仰った定義に合致します」

こんな糞みたいなエピソードと同列なんて。

「あなたは言葉をよく知らないで使ってる」

刷り込まれる。昔のように。洗脳が始まる。

「洗脳とは、暴力など外圧を用いて特殊な思想を植え付けることである。とはいえ時に言葉も暴力となる。たとえば暴言を繰り返し、根拠もなく批判して、子供の人格を否定した場合などは当てはまるでしょう。しかし、この場合は違う。たしかに多少のマインドコントロールはあったかも知れませんが、親が自分の信じる幸せを子に求めることはごく自然なことです。そしてそれから脱却するためにもがくことも自然なことです。メイさんとそれから黛先生も、極めて正常に発達されていると思われます。悦ばしいことだ。以上!」

一方的に結論付けて、反論を許さない口調。
相変わらずだな。しかし、そうはいかない。
この親あってこの私が存在する。反論開始。




7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/08/30(水) 00:27:44.49:7KMNvF/HO (3/8)

「それで? 結局、何を仰りたいのですか?」

対等ではなくあくまで上から。父のように。

「申し立てを取り下げなさい」
「お断りします」
「君はメイさんに自分を重ねているようだ」
「10代であなたと縁を断ち、自力で人生を切り拓いてきたからこそ今の私があります」
「今の君とは? まさか君は自分が成功者だと思ってるわけじゃないだろうね」

鼻で嘲笑われ、そして批判される。暴力だ。

「昔から君は卑怯で卑屈で、そして何よりも頭が悪すぎた」

その批判に確固たる根拠があるのだろうか。
ただの印象論であり、誹謗中傷でしかない。
訴えれば確実に勝てるだろう。無意味だが。

「無論、君を徹底的に躾、教え込むことを怠った私の責任だ」

あんたをそんな父にした私の責任でもある。

「君はもう手遅れだ」

あんたもな。なのに他所の親子関係に対し。

「しかしこの親子はまだ間に合う」

どの口がそんなことを抜かす。酷い父親だ。

「スカイツリーは大きいですよ。昭和の電波塔より、遥かにね。時代は変わったんです」

あんたはもう古い。そう揶揄すると、父は。

「ならばこの昭和の電波塔を説得してみなさい。君がスカイツリーだと言うならば」

それではこの老朽化した遺物を撤去しよう。




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