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カラオケで。部長とキスをし、部長「今日だけ、な、いいだろ?」私「もう」 → すると、ドア『ドンドンドン!!』部長「店員か?」 → ドアを開けると…


340: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:53:31 ID:1n7rysPIO

部長夫婦が去り、再び私達家族だけになった
私は正座したまま気まずい時間が流れた
「両親に電話しなさい」
「え」
私は時計を見た
間も無く日付けが変わる時間だった
「このままでは朝を迎えられないだろう」
夫は苛立っていた
私は怯えた
「はい、あの…」
「ああ、ちゃんと君の口から事情を説明しなさい」
「はい」
両親に自らの不貞を告げる時の心境は想像を絶するものがあった
でも今にして思えばその痛み一つ一つが再構築期間の猶予を与えてもらう為に必要なステップだった様に感じている

実家に電話した
出ないで!って思った
お願いだから寝てて!って思った
呼び出し音を聞きながら心臓が壊れそうなぐらいドキドキした
「もしもし」
父が出た
「私」
「どうした、こんな夜分遅くに」
「母さんは起きてる?」
「ああ、今ちょうど寝たとこだが代わるか?」
「ううん、いい、父さん、あのね」
電話の向こうの父は何も言わずに私の次の言葉を待っていた
多分私の口調で不穏な空気を察したのだと思う
「私ね、不倫しちゃったの」
父は相変わらず無言だった
「それでね、今家族会議になっててね、父さんと母さんにも来てもらいなさいって」
言いながら泣きそうになり、思わず声を詰まらせた
でも必死で堪えた
ここで悲劇のヒロインを演じたら夫に捨てられると思ったから
「分かった、そっちに行けばいいんだな?母さんも連れてすぐ行く」
「ごめんね」
父は私を咎めなかった
昔から起こしてしまったものはしょうがないと思う人だったから
でもきっと酷く心を痛めていたと思う
「すぐ来ますって」
「そうか、じゃ僕も親を呼ぼう、もう寝てると思うけど」
「すいません」

双方の両親はぴったり一時間後同時にやって来た
携帯で連絡取り合ったらしい 



341: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:53:53 ID:1n7rysPIO

「この度は私の不貞のために大変なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」
私は夫の両親の前で土下座して詫びた
義母「どういう事なの?いったい」
私はあやふやになってしまった自分の記憶に頼らず長女の話を中心に全て話した
死ぬほど恥ずかしかったし嘘で逃れたい気持ちがなかった訳ではない
先述した通り自己防衛本能が働いて言い訳が口をつきそうに何度もなった
でも必死にそれを飲み込んだ

ハ〜
母が大きくため息をついた
実母「あんたあんなに上手くやってたじゃないの、子供だって三人ともいい子に育って」
私子「ごめんなさい」
義父「私子ちゃん、酔っ払ってたの?」
私子「酔ってはいました、でも自我を失う程ではありませんでした」
お酒のせいにして逃れたい気持ちはあったけど長女が私の応対を見てたし、下手に正当化すれば自爆するだけと思い本当のことを話した
義母「私子ちゃん前からその人の事を好きだったの?」
私子「有能な上司だと思ってました、でもそれ以上の感情を持ったことはありません」
長女「とてもそうは見えなかったけどね」
地獄の番人の言葉に聞こえた
私子「ごめんなさい、分かりません」
実母「分からないって事ないでしょ、自分のことなのに」
先述した通り私は自分で自分が分からなくなっていた
義父「二人で大きな仕事で成し遂げて、その人の仕事ぶりに惚れてしまったんじゃないのかな」
正直この言葉が一番堪えた
今思い出しても胃がシクシクする
だって薄給の夫の立つ瀬がないないもの、どう答えたらいいんだろうって思った
「そんなつもりはないです、でも浮かれてたと思います、すいません」
実母「夫婦円満だと安心してたのに、まったく」
義母「どうするの?」
義母が夫に判決を求めた
いよいよ来た
お願いあなた捨てないで!何でもする!本当に何でもする!
家政婦としてでも良い!うちに置いて!捨てないで!
そう思いながら私は正座して夫の判決を待った
すると父が夫の前に立ち、膝を着いた
「おい」と言って
母にもそうする様に促した
母も父にならんで正座した
私も母の横に並んで正座した
「夫君、今回の娘の不貞はまったく弁解のし様がない、私の娘ながら情けない限りだ、気立ての良い子に育ってくれたと思っていたが、どうやら私達の教育が間違っていたらしい、君の心を著しく傷つけてしまった事を謝罪したい、面目ない!」
そう言って父は床に頭を擦り付けた
続いて母と私も頭を下げた
私のせいだ、私が両親にこんな無様なことをさせてしまった
心の中で浮かれて不貞を犯した自分自身を殴りつけた 



342: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:54:53 ID:1n7rysPIO

夫君「いえ、私子はもう親元を離れ分別のつくいっぱしの大人です、この歳で親の責任というのはおかしい、この事は私子と自分の問題ですから、そんな謝り方をなさらないでください、頭を上げてください」
実父「夫君、しかしこんな馬鹿な娘でも私にとっては可愛い娘なんだ」
ここで私は耐えられなくなって俯きながら泣いてしまった
どうしても我慢できなかった
夫君「それは分かります」
実父「だから頼む!もう一回だけ私子にチャンスを与えてやってくれないか?」
夫君「…」
実父「慰謝料は私が払う、もともと早めに財産分与しようと思っていたんだ、都内に一軒家を建てよう」
夫君「いえ、お金の問題では…」
実父「分かってる、君が金に綺麗な男だという事は十分分かってる、しかし私達にはそれぐらいしかできんのだ、もし私子が猶予期間中に君の納得いく姿勢を示せなければ、その家は君にそのまま進呈しよう、私が書面にしてもいい」
義母「私子ちゃんはどうなの?」
私子「え」
義母「私子ちゃんはどうしたいの?」
私子「やり直したいです!」
義母「逆にその方が辛いって事もあるのよ?」
突き放してる様だけど、義母の言ってることはよく理解できた
猶予期間は針のむしろ生活が待ってるという事だ
私子「それでもここに残りたいです!」
夫は腕組みをしたまま、しばらく考え込んでいました
夫君「分かりました、でも条件があります」
実父「本当かね、ありがとう、何でもやる、そうだな?私子」
私子「はい!」 




343: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:55:24 ID:1n7rysPIO

夫君「ではおかあさん、彼女に料理を教えてあげてください」
実母「え?ああ、はい、この子料理が下手だからねぇ」
実父「お前がちゃんと教えてやらんから」
夫君「いえ、難しい料理を教えてくださらなくてけっこうです、まずリンゴの?き方から教えてあげてください」
実母「え」
私子「リンゴぐらい?けるわよ!」
はじめてまともな声で反論した
夫君「M和、リンゴと包丁五本持ってきなさい」
長女「うん」
長女は義父ね実家から送られてきたリンゴを私と夫と三人兄妹に手渡した
包丁が足りないので夫だけ十得ナイフを持った
夫君「?きなさい」
五人一緒に?き始めた
五人が?き終わった
皮が床に落ちた
私のが一番いびつで肉厚でブツ切れだった
切れ味が一番悪いはずの夫のリンゴの皮は薄く長く一本に繋がっていた
実父「おまえ、リンゴの皮むきも教えてやらんかったのか!」
実母「だってそんなの私だって教わらずにできましたよ」
私子「すいません」
実父「こんな状態で嫁に出して申し訳ない!」
夫君「それと味噌汁の作り方を教えてあげてください」
実母「はい?」
夫君「彼女はしょっぱいから塩分は体に悪いからもう少し薄味にしてくれと何度言っても聞いてくれません」
私子「すいません」
夫君「信頼関係が成立していた時はお互い様だと思って黙っていましたが、それが崩れた今、彼女が私が早死にすることを望んでいるのではと疑念を感じています」
私子「そんな事ない!あなたが早死にして欲しいなんて思ったこと一度もない!」
長女「でもお母さん味噌ちゃんと溶かないから、いっつもペースト状に残ってるじゃん」
長男「ちょっと前までダシ取らないで平気で作ってたし」
長女「そうそうそれで出汁入り味噌に変えたんだよねw」
次女「お姉ちゃん、お母さんをあんまり苛めないで!」
長女「だって」
夫君「ソーメンの茹で方教えてあげてください」
長女「そそ、いつも少ないお湯にバサッと全部入れるからスイトンになっちゃうんだよねw」
実父「おまえ…」
私子「すいませんすいません」
夫君「一生懸命働いてくれてるからと思って、自分で出来ることは自分でやろうと思っていましたが、これからはちゃんとした料理を作るように心がけさせてください」
実父「分かったきっとそうさせよう」
夫君「しばらくはそれで様子をみる事にします」
実父「重ね重ね面目ない」
長女「ええ、この人と同じ空気吸わなきゃならないの?やだ」
実母「M和ちゃん、そんな事言わないで」
義母「私子ちゃん本当に大丈夫?」
私子「はい、大丈夫です」
この時私は義母の言葉の意味するところを本当の意味で理解していなかった 



344: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:55:50 ID:1n7rysPIO

翌朝、私は朝一で起きて出来る限り努力して朝食の支度をした
「おはよう」
次女が最初に起きてきて私に挨拶してくれた
「おはよう」
私も挨拶したけど上手く笑顔が作れなかった
どの面下げてと自分でも思ってしまう
それより次女の瞬きが激しいのが気になった
チック症状がでているようだ、私のせいだ
次女が起きてきて、次に長男が起きてきた
私が挨拶しても返さなかった、次女が心配そうに私を見た
「おはよう」
夫が起きてきた
皆、父親には挨拶した
夫だけが私の作った朝食に少しだけ手を付けた
「どうした、食べなきゃ駄目だろ」
夫が言った
「食えるわけねぇじゃん」
「今日の学校行ってからのこと考えたら食欲なんかわかないよ」
「ごめんね」
「みんなよく聞け」
夫が厳しい口調で言った
家族の視線が夫に集中した
「お前達には幸福になる義務と権利がある、人生にどんな障害があろうとそれに向かって努力しなければならない、母親の間違いに引きずられて自ら不幸になるな」
辛辣な夫の言葉に打ちひしがれた
立つ瀬がないとは正にこの事だ
「君も仕事と今回のことの分別はつけなきゃ駄目だ、クライアントに君の不倫問題は何の関係もない話だからね、影響が出ないように」
「はい」
長男は黙って食事に手を付けた
「やっぱり美味しくない?」
恐る恐る聞いてみた
「味なんかするかよ」
「そうだね、ごめん」
長女は食事に視線を送っただけで結局口をつけずに登校して行った 



345: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:56:15 ID:1n7rysPIO

一月以上経ってもなかなか次女のチックが治らない
もし私が出ていかざるを得ない場合、夫に土下座してでも次女は連れて行こうと思った
長女は相変わらずご飯を食べてくれない、レトルトで済ませているようだ
その影響からかニキビが顕著に現れはじめた
「M和、お願い食べて、レトルトばかりじゃ体に障るから」
「無理、あんたに心配してもらう筋合いないし」
「母親が作ったと思わないでいいから、家政婦が作ったと思えば食べられるでしょ?ね?ニキビだってそんなに酷くなったら痕に残っちゃうわよ」
「ちゃんと皮膚科に行って診てもらいました!食事じゃなくて精神的なものだってさ!」
「そう、ごめんね、私のせいよね」
「そうだよ!」
「M和、私が出て行ったらちゃんと食べてくれる?」
「…」
「お父さん料理上手だから、ちゃんとバランス取ってくれるよう頼んでおくから、そしたらちゃんと食べてくれるって約束してくれる?」
駆け引きしてるつもりはなかった
こんな馬鹿親でも子育ては戦いだから、子供は親の嘘を見抜くから
この時本当に私は腹をくくって言った
「お願い、それだけは約束して」
「分かったよ」
「本当ね?」
「食べるよ!食べれば良いんでしょ!」
長女が二ヶ月ぶりに私の作った料理を食べてくれた
「勘違いしないでよね、追い出すか出さないかはお父さんが決める事だから、私が決めることじゃないから食べてあげるだけだからね!」
「うん、ありがとう分かってる」

不倫は社内の誰もが知る事となった
百億の仕事を取ったのにもかかわらず私達が殆ど口を聞かなくなってしまった理由を誰もが知りたがった
不倫したのではないかという噂をされるようになった
最終的に部長の奥さんが人事部に連絡を入れ、私と部長を別の部署に分けるように進言したのがきっかけで不倫が事実であると誰もが知る事になった
しかし私達は双方共降格も査問もされなかった
不倫でクビという話を散見するけど本当なのかなと思う
基本的に大企業であるほど不倫に関しては個人的問題で済まされノータッチの所が多い
仕事さえ出来れば係争していても大した問題にはならない
むしろ飲酒運転の方がよっぽど厳しく裁かれる
だから不倫でクビという話はそうあって欲しいという読み手と書き手のファンタジー的要素が多分に含まれていると私は思っている 



346: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:56:36 ID:1n7rysPIO

三ヵ月後
例の大口の仕事の件で一人残業していると、部長がコーヒーを持って私の隣に座った
私は無視して仕事を続けた
もちろん仕事の話はするが、私語は慎むようにしている
「そっちはどう?」
部長がそう言いながら私の机にコーヒーを置いた
「どうって」
「こっちは大変だよ殆ど汚物をみるような扱いで、ただ金を稼ぐ鵜飼の鵜みたいだ、会社の方がよっぽど気分が安らぐよ」
「そう」
「まだ怒ってるの?」
「怒るって何を」
「崖から君と妻が落ちかけてたらって話」
「ああ、あれ」
「あれはそうでも言わなきゃ場が収まらないからそう言っただけだ、正直言うとかなり迷うよ」
「私は迷わない、私は躊躇せずに夫を助ける」
「辛辣だな」
「鵜飼の鵜でも必要としてくれるなら良いじゃない、私なんかずっと無視されたままよ」
「同じだよ、このままだと精神的にもたない」
「我慢するしかないでしょ」
「君は許してもらえなかったらどうするつもりなの」
「どうもこうも出て行くしかないでしょ」
「ハハ、お互い大変だな、実は僕も離婚を考えてるんだ」
「は?」
「もう無理なんじゃないかって」
「ふざけないで」
「え?」
「あなたと同じにしないで!」
「い、いや同じとは…」
「あなたは離婚で済むのかもしれなけど私にとってあの家が私の全てなの!あそこに私の全てが詰まってるの!あの家に居られなくなるって事は私が死ぬことと同じなの!あなたと同じにしないで!」
私は感情的になった
「す、すまん」
明らかに彼は狼狽していた
「もう仕事以外の事で私に話しかけないで」
そう言って私は部長を無視して仕事を続けた
彼の尋常ではない動揺ぶりを見て始めて分かった
部長は私の事が好きだったという事
私も離婚して自分と一緒になれれば良いと思っていたという事
いつの時点で好きになったのかは分からないけど
いくら鈍い私でもそれぐらいは理解できた 



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