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カラオケで。部長とキスをし、部長「今日だけ、な、いいだろ?」私「もう」 → すると、ドア『ドンドンドン!!』部長「店員か?」 → ドアを開けると…


333: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:50:09 ID:1n7rysPIO

後ろから「どうしたの?」とルームメートがぞろぞろと外に出てきた
気を利かせた親友のR菜ちゃんが「行こう」って言ってルームメートをエレベーターの方へ引っ張っていってくれた
「すまない、僕らに少し時間をくれないか、頭が混乱してるから整理したいんだ、頼む、直ぐ帰るから」
彼はそう言って長女を諭した
「お母さん、この人と逃げる気なの?」
私は黙って首を横に振った
「逃げたりしない、必ず帰る、だから頼む、少し時間をくれないか」
「逃げたら一生許さないからねお母さん、私あなたの事を凄く好きだったけど、凄く尊敬してたけど、逃げたらあなたの記憶を金輪際未来永劫記憶の中から消し去るからね」
グサッと来た
心臓を抉り取られたような気がした

「M和、大丈夫、母さん必ず帰るから」
声を絞り出しながら辛うじてそう言った。
「タクシーに乗りなさい」そう言って部長は財布を取り出し彼女にお金を手渡そうとした
「要らない!あなたが出すのが筋でしょ、さっさと出しなさいよ!」
もはやお母さんとも言わなくなった長女が私に手を出した
私は一万円札を取り出し手渡した
「心配しなくていいよ、ちゃんとお釣りは返すからね、帰ってこれたらの話だけど」
そう吐き捨てると長女は帰っていった

「参ったな…」
部長は膝に手をつき、さすがに焦燥感を募らせているようだった
「帰ります」
「僕も一緒に出よう」
受付まで降りるエレベーターの中に気まずい静寂が訪れた

一緒に外に出て彼は私にタクシーを呼んでくれようとしたけど、私はそれを断った
「少し気分が悪いから電車で帰る」
「そうか、お互いどう対処したらいいか帰り道頭を冷やして冷静に考えよう」
そう言うと彼は自分のタクシーを止めて町の中へ消えていった 



334: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:50:57 ID:1n7rysPIO

彼のタクシーが町の光の中に完全に見えなくなると、私は電信柱の横にこれまで飲んで食べた物を全部吐き出した
お願い!夢から覚めて!
何度も心の中でそう叫んだけど、口の中の酸っぱい胃酸の香りが現実を知らせた
逃げたら絶対許さないという長女の言葉を思い出した
そうだ、私には帰らなければならない
それが私の責任なんだから

タクシーに乗る、降りる、マンションのセキュリティボタンを押す、開く、エレベーターの前まで歩く…
死刑囚が絞首台に乗せられるまでの心境を私は理解することができる
行けば必ず死ぬと分かってて、あえてそこに行かなければならない心境
ドアノブに手をかける時のあの心境
思い出すだけで冷や汗が流れてくるわ
ギイ・・・ってドアが開いて
玄関に夫と長女と次女の靴があって
ああ、長男はまだ帰ってないのかってそういう記憶だけはやけに鮮明に覚えてる
玄関の照明は消されていて、薄暗くて自分でスイッチ押したら
私の荷物がどっさりまとめられていた
ギョッとした
私、捨てられちゃうんだって思った
何もかも失っちゃうんだって思った
長い間苦労して努力して創り上げた自慢の城が全てぶち壊し
泣きそうだった
でも泣いたら終わり
だって傷つけたのは私なのだから、泣くのはおかしい、私が泣くのは筋が通らない
それぐらいの判断をする冷静さはあった 



335: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:51:34 ID:1n7rysPIO

リビングの証明は点いているのに物音ひとつしない
不気味な静けさだった
怖い、入りたくないよって凄く思った
入れば捨てられちゃう
心は拒否反応を示すけど、何故か足はリビングの入り口に勝手に進んでいく
リビングの入り口に立つ私

黙ってソファーに座る夫が視界に入った
いつもは優しくお帰り!と言ってくれるキス魔の夫が声一つ発せず腕組みをしながら目を瞑ってた
続いてパソコン机の椅子に座る長女と地べたに腰を降ろした次女が視界に入った
誰も何も言わない
私は静かに夫の前に立つと床に正座し土下座した
「すいません」
それしか言い様がなかった
「ただいまを言わないって事は帰るべき家ではないって自覚はあるみたいだね、ちゃんと荷物はまとめておいてあげたから」
長女が冷たく言った
ビクン!とした
自業自得だけど帰りたくない!って思った
捨てないで!って思った

「事情は概ね聞いたよ、一応君からも説明してくれないか」
いつもキラキラ輝いてる愛情に満ちた夫の瞳は、黒く沼の底の様に濁って見えた
「はい…」
「お母さん、他の人のこと好きになっちゃったの?」
兄妹の中で一番私にベッタリな次女が泣きそうな声で私に言った
私は小さく首を横に振って否定した
「他の人のとこに行っちゃうの?」
次女が続けて言った
私は応えようがなかった
それは夫が裁くべきことだから
「お母さん…」
出て行くのかと思ったのか次女が泣き出した
「へ〜好きでもない人とあんな事出来ちゃうんだ?最低だね!」
長女の怒号が響いた
「ごめんなさい」
長女は情に厚く正義感の強い子だから余計に私の事が許せなかったと思う
「M和は黙ってなさい」
夫が長女を嗜めて、私に発言を促した
私はザックリとした事のあらましを夫に伝えた
欠けてる部分を長女が補足したりした
長女は私たちの後にカラオケルームに来て、小窓から私が知らない男の人と居るのを発見したらしい
不穏な空気を察した長女はトイレに行くふりをして何度も偵察に来ていたそうだ
R菜ちゃんは私と面識があるので途中で私の存在に気がついて長女と一緒に心配してくれていたらしい
それでいよいよ私たちが明確な不倫行為をはじめたとき、堪らずドアを叩いたと
最悪だと思った
最悪の母親だと思った 




336: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:51:57 ID:1n7rysPIO

「君のその上司に電話しなさい」
夫はそう言ってさっき長女に手渡した名詞を私に差し出した
「はい、あの、どう言えば…」
「来てもらって話し合うしかないだろう」
「はい」

私は部長に電話した
奥さんが出た
「あの、○○(私の名)です、いろいろご迷惑をおかけして夜分遅くに申し訳ありません」
「ああ、あなた電話よ!」
冷たい奥さんの声質から、既に私達の不貞行為を聞かされてる事が分かった
「ああ、こっちは今話し終わったよ」
部長の声がした
かなり疲れてる様子だった
「あの…、主人が来てもらいなさいって」
「今から?明日じゃ駄目かな」
私はチラと夫の方を見てから
「お願い、今日来て」と小声で頼んだ
「う〜ん、こっちも事情がね」
奥さんの心象を気にしている口ぶりだった

「そっちが来れないならこっちが行きますが」
夫が私から受話器をひったくると、上ずった声でそう言った
「ああそうですか、じゃ妻と一緒に明朝会社に出向きますよ、それで良いですか」
「オイ!あんたの都合なんかどうだって良いんだよ!今からそっち行くから待ってろ!」
「ああん?最初からそう言えよ馬鹿!」
夫は怒鳴りつけるとガチャン!と受話器を置いた
私が始めてみる夫の姿だった
夫はソファにドスン!と腰掛けた 



337: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:52:23 ID:1n7rysPIO

待つ間、誰も何も言わなかった
私は正座して永遠とも思える時間を過ごした
玄関のドアが開いた
「あ、お兄ちゃんだ」
次女が小声で言った
長男がリビングに顔を出した
「どうしたの」
異様な光景に長男が驚いて言った
「お兄ちゃん何処行ってたのよ!」
長女が言った
「あいや、ちょっと友達とマージャン…、で、どうしたの?」
正座してる私を見ながら長男が言った
「この人がね!浮気したの!」
「浮気?」
素っ頓狂な長男の声
「そう!会社の上司とね、カラオケルームでキスしてたの!」
「ハハ、うそだろ?またまた〜」
「嘘じゃないよ!私がこの目でハッキリ見たんだから!R菜ちゃんも一緒に見たんだから!」
「R菜ちゃんもって…え、え〜?ちょっと待ってよ…ウソだろ」
「これから先方がこっちに来るから、お前も着替えてきなさい」
「ちょっと待って、母さんが浮気だなんて信じらんぇよ、みんなで俺を驚かそうとして…」
「私だってウソだって思いたいよ!でも見ちゃったんだもん!私がこの目でみちゃったんだもん!嘘だと思うならR菜ちゃんに電話して聞いてみなよ!」
「信じらんねぇよ、俺、母さんはそういう事とは一番遠い人だと思ってたから」
「着替えなさい、もうじき来る頃だ」
長男がガン!と拳で柱を叩いた
「ア〜!」と叫びながら長男がリビングを出ていった

私が家庭の明かりを消してしまった
昨日まであんなに輝いていた私の家庭を私が自ら消してしまった
何でこうなった、何で…
思い出せない、どうしたんだろう私

私の携帯に部長から連絡が入った
下まで来たと言うので部屋番号を教え、解錠ボタンを押した
チャイムが鳴った
夫が席を立ち、玄関のドアを開けた
部長夫婦が入ってきた

部長は入室するなり夫の前に膝を着き土下座した
「申し訳ない」
「申し訳ありませんでした」
私も部長の奥さんの前に膝を着き土下座して謝罪した 



338: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:52:44 ID:1n7rysPIO

「この人は初めてだって言うけどどうなんですか?」
奥さんの声が頭上で響いた
「それは誓って言う!本当だ!」
「どうだか、私は前々から怪しいと思ってましたよ、ただの平社員に毎年毎年年賀状に会社に帰ってきてくれ、みたいな事書いて」
「それは純粋に社の為を思ってだ!現に彼女の成績は社で抜きん出て…」
「それでそちらに目移りしたんじゃないですか?見ればお顔立ちも随分お綺麗でいらっしゃるし、男の人は若い子の方が良いって言いますからねぇ」
「若いったってお前、彼女だってもういい歳だぞ」
「ふん」
「ただの気の迷いだ、たとえば君と彼女が崖から落ちかけていても僕は迷わず君を先に助けるよ」
「おい!」
長男が部長の胸倉を掴み殴りつけた
空手黒帯の長男の正拳で部長は後ろに吹っ飛んだ
「あらあら乱暴なお坊ちゃんね」
「なに?」
「暴力沙汰になるとそちらが不利になりますよ、それでも良ければご自由に」
「くっ」
「聞けばウチのは火遊びだったようなので、どうですか、ここはお互い様って事で穏便に済ますというのは」

同じ浮気でも男と女では重みが違う
男は火遊びで済まされるが女の浮気はそうはいかない
私だって崖から部長と夫が落ちかけてたら迷うことなく夫を選ぶ
でも私が同じ事を言っても上滑りするだけだ
女の浮気は言い訳ができない
女は家庭を守る生き物なんだ
家庭の明かりは女が守る
給料を貰ってようが貰ってまいが関係ない
逆に男はお金さえ運んでくれば、浮気は火遊びで済まされる 



339: ◆W/gSwczTMg 2014/08/27(水)18:53:05 ID:1n7rysPIO

「そちらは穏便に済んでもこっちは済まされないんでね」
ああ、やっぱり捨てられちゃうんだ私
体が震えた
「あらあら、可哀想に」
侮蔑の表情で部長の奥さんが私を見下ろした
「相殺にはしない、慰謝料は払う!」
「あなた、うちだって養育家やら何かとものいりなのよ」
「僕は上司だ、相殺は公平じゃない」
「分かりました、では双方の年俸の差額という事にしましょ」
「金の問題ではないんですがね」
「だって、お金以外に解決のしようがないじゃないですか」
「700万でどうた?それで頼む!」
「あなた!」
「慰謝料の話の前に一つ聞いても良いですか?」
「ああ、何でも答えるよ、ここまで来て隠す事なんか何もないからな」
「見つからなかったらその先どうするつもりだったんですか?」
「う、そ、それは」
言い淀んだ部長は私の顔色を伺った
「どうなんです?あなた!」
「ど、どうって、カラオケボックスの中だぞ、それ以上の事なんか出来る訳ないじゃないか、なぁ君」
部長が私に同意を求めた
記憶が飛んだ私は同意しようとしたけど、何故か言葉が口から出なかった
「きみ」
「あらあら、ふしだらな女だこと」
「何がふしだらよ!あんな事して何もする気がなかったって言葉信じるおばさんの方が頭おかしんじゃないの?この人はね、今さら嘘ついてもしょうがないって思ってるから黙ってるの!それくらい分からないの?いい歳して!」
「まぁ、キスくらいで騒ぐなんてまだまだ子供ね」
「キスだけじゃない、ムネだって触ってたでしょ」
「マジかよ」
「それだけじゃないよ!」
「何をしてたの?言ってごらんなさい!」
「君!」
「い、言えないよ!言えるわけないじゃん!」
「母さんが、ウソだろ」
「嘘じゃない!私友達にも見られちゃったんだよ!今頃みんな大騒ぎだよ!明日学校行けないよ!」
「うわ、修羅場だな」
「お姉ちゃん可哀想」
「あなた!」
「すまん」
私何かした?私は家族のために身を粉にして働いてきたのに何でみんな私を責めるの?何でそんなに私を虐めるのよ!
記憶が失せた私は心の中でそう思った
本気で何も分からなくなった
言い訳しなかったのは捨てられたくない一心だったから、それだけだった
結局、慰謝料等の話はまた後日仕切り直しという事になった 



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