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【ミリマス】野々原茜「今は昔、プロちゃんというものありけり」 (48)(完)


29: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 22:19:46.83:+2A2IV6OO (29/48)



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「プロちゃんはこの世界が何度も繰り返してるって言ったら信じる?」

前回も同じこと言ったなー。
茜の口から飛び出した内容はとてつもなく突飛なものだった。

「こうやってプロちゃんとこのことについて話すのも何回目なのかにゃ?プロちゃんは毎回覚えていないけど」

「すまん、話に全くついていけないんだが」

「ごめんごめん。……おほん。始まりはいつだったかな、そう!初めて茜ちゃんがアイドルになったとき!」

茜はわざとらしく、芝居がかった口調で語り始めた。




30: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 22:20:16.71:+2A2IV6OO (30/48)

「茜、やっぱり以前もアイドルしてたのか?」

「あー、違う違う!昔の世界でってこと!初めてプロちゃんと出会って茜ちゃんがアイドルになった時のことだよ」

初めて、茜と会った…?俺は以前にも茜と出会っているのか?

「あの時はプロちゃんから茜ちゃんに話しかけて来たんだっけ?いきなり話しかけられたからビックリしちゃって茜ちゃんも思わず逃げ出しちゃったんだよねー」

あと少しで警察沙汰だったよ。と茜は懐かしそうに俺の中に存在しない俺と茜の思い出(らしきもの)を語ってる。




31: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 22:20:50.22:+2A2IV6OO (31/48)

「まあ、プロちゃんの灰色の青春が真っ黒に塗りつぶされる事態は何とか回避したんだけど、最初のうちはほんと、苦労したなあ。歌もダンスも全然できなかったし、オーディションだって何回も落とされて―」

茜の口から出る野々原茜像は、俺の知っているそれとは真逆の野々原茜だった。人見知りで自分に自分に自信がなく、実際他のみんなにも大きく後れを取っていて、それでも必死にアイドルとして頑張っていたらしい。概要だけかいつまんで聞けば雪歩や可憐と勘違いしてしまいそうだ。

「それでも何とかプロちゃんと一緒にアイドル頑張って、ほんっとーにたくさん頑張って―内容はチョー長くなっちゃうから割愛するけど、その時の茜ちゃんはトップアイドルまで登り詰めたんだよ、今みたいに」

おどけるように芝居がかった語り口で話す茜の表情は、しかしどこか寂し気だ。





32: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 22:21:19.84:+2A2IV6OO (32/48)

「そして無事にドームライブを成功させたその日の夜、プロちゃんとこれまでのこと、これからのことについて話し合ってたんだ。その時―」

「その時?」

「世界がバラバラに崩壊して、気が付くと茜ちゃんは自分の部屋のベットの上にいた。さすがの茜ちゃんも訳が分かんなかったよ。しかもカレンダーを見たらプロちゃんと出会った日なんだよ?もしかしてと思ってプロちゃんと初めて会ったあの場所に行ったら―」

―プロちゃんがいた。




33: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 22:21:52.10:+2A2IV6OO (33/48)

「さすがに茜ちゃんも夢か何かかと思ったよ。けど、夢ならいつかは覚めるよね?その夢は覚めることもなく、身に覚えのあるレッスンをこなして、前に受けたはずのオーディションを受けて、聞いたことのある茜ちゃんの曲を歌って、記憶にある毎日が過ぎていって、またトップアイドルになって、そして気が付けばまたあの場所でプロちゃんと出会ってた」

頭がおいつかない。
茜の話していることは実に非現実的で、突飛な話だ。まるで百合子の妄想をそのまま話にしたような。そんな突飛すぎる話。

だけど、これで合点が行った。茜が初めて見たはずのダンスを完璧に踊ってみせたり、まるで以前にも受けたことがあるようにオーディションをこなしたり、番組の共演者の癖を完璧に把握していたり。これまで茜が何度も何度も繰り返していることを覚えているのなら―以前の記憶があるのなら、これらにも説明がつく。




34: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 22:22:34.95:+2A2IV6OO (34/48)

「それから何回もアイドルやったよ?結末は同じだけどそこまでの道のりは毎回違ってて、しほりんともがみんが喧嘩してクレブルが解散しかけたり、勝手にご当地茜ちゃん人形を作ったことが律子さんにバレてメチャクチャ怒られたり、茜ちゃん人形を作る装置が暴走しかけてえらい事になったり」

どれもこれも俺の記憶にはない茜のアイドルとしての活動の記憶。一体彼女は何回世界を繰り返しているのだろうか。

「でも、最後は茜ちゃんがトップアイドルになる、その直前で世界はリセットされる」

「茜……。今、『何回目』だ?」

「うーん。結構前に数えるのやめちゃったから忘れちゃった」

忘れちゃった。
寂しげに笑いながらそう言った茜の心の内を俺はこれっぽっちも理解できていないのだろう。想像を絶する真実を目の当たりにして、俺は茜にかける言葉を失った。

「だから、今回もそろそろおしまいかな?」

「えっ?」

「言ったでしょ?リセットはドームライブの後。つまり―」

ー明日。




35: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 22:23:04.47:+2A2IV6OO (35/48)

「ま、待ってくれ茜!また一からやり直し?冗談じゃない、せっかくトップアイドルになったんだぞ!?」

「大丈夫だよ、きっとプロちゃんは全部忘れて、また一から茜ちゃんのことをプロデュースできるんだからさ!いやー、プロちゃんは幸せ者だよね!こんな美少女を何回も自分好みに育て上げられるんだからさ!」

「……すまない」

一人だけ世界が何度もループしていることを知りながら、同じ日々を何度も続ける茜は今、なにを思っているのだろうか。悔しいが俺にその胸中を推しはかる術はない。なにも役に立てない俺の口からは自然と謝罪の言葉がこぼれた。




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