【デレマスss】木村夏樹「ファースト・パッセンジャー」
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/09/15(水) 22:36:11.76 ID:TCAbkAPj0
――それ以降その先輩と再会することはあったのでしょうか?
いや、一切会ってないですね。高校の近辺ではそこまでライブハウスの数も多くないですし、路上でやる場所も限られてるので活動してたら会わないはずがないんですけど。もしかしたら避けられてたのかもしれません(笑)。
――高校時代は先輩の影響を受けたとのことですが、高校を卒業した昨年にギタリストとしてデビューしました。その経緯について……
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/09/15(水) 22:36:45.72 ID:TCAbkAPj0
事務所に届いた茶封筒を開くと、そこには我が担当アイドル、木村夏樹が表紙を飾った音楽雑誌の見本誌が入っていた。すぐに片付けなければいけないような急ぎの仕事もないので、雑誌の内容にざっと目を通す。かなり硬派な老舗の音楽雑誌なので、「アイドルのロックなんて」と叩かれないか不安だったが、そんな心配は無用だったようで、かなりいい出来なんじゃないかと思う。
昔、音楽を志し挫折した人間として、この雑誌に関われたことに大きな達成感を感じつつ、発売されたら自分用も買わないとなあとか考えていると、夏樹がレッスンを終えて帰ってきた。
「ただいまー」
「お、おかえり。この前撮影した雑誌の見本誌、もう届いてるぞ」
「マジ? 楽しみにしてたんだよ。読んでいいか?」
「もちろん。この後仕事の予定もないし、ゆっくり読んでいきな。あ、あと、デビュー3周年ライブの話なんだけど、結構自由に決めていいって言われたから何か希望あったら早いうちに教えてくれ。できるだけ対応するよ」
「了解! 事務所赤字にするくらい盛大にやってやるよ!」
「……ちひろさんが怖くないならいくらでもいいぞ。俺は知らないけどな」
「じょ、冗談だって……」
適当な会話をしながらも食い入るように雑誌を読み込んでいる。やはり夏樹もこの雑誌に思うところがあったりするのだろう。少なくとも俺よりは真剣に音楽に向き合ってきたはずだ。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/09/15(水) 22:37:13.37 ID:TCAbkAPj0
しばらくして、夏樹が急に首を傾げ、そのあと、にっこりと笑った。
「何か面白い記事でもあったか?」
「ああ、まあな」
「おはようございます! あれ、なつきち何読んでるの!?」
夏樹と仲の良いアイドルの多田李衣菜がちょうど事務所にやってきた。これから仕事なのだろうか。
「おはよう、多田さん。この前撮影した雑誌の見本誌だよ」
「え、すごいこれ有名なやつじゃん!」
「だりーでもさすがにこの雑誌は知ってたか」
「もー私だって最近は色々勉強してるんだから……。3年前の私とは違うんだよ?」
口をとんがらせていじける多田さん。デビューしてから3年、少し大人びたところはあるけれどこういうところは昔のままだ。
「ハハッ、悪かったよ」
「で、どんな記事だったんだよ」
「大したものじゃないよ。ただ、アタシも昔よりは成長してるみたいだって思ってさ。それともアイツが勝手にアタシのことガキっぽく話してるだけかもな?」
「何の話?」
俺も多田さんも腑に落ちないまま夏樹だけがケラケラと笑う。そしてふと思いついたように夏樹が言った。
「なあ、3周年ライブのサポートギター、アタシが指名してもいいか?」
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/09/15(水) 22:42:26.51 ID:TCAbkAPj0
以上です。途中、回想シーンを示す波線を入れるのを忘れていました。分かりにくくなってしまい、すいません。
元スレ
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24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/09/15(水) 22:39:36.30 ID:TCAbkAPj0
退屈な部活紹介オリエンテーションがダラダラと過ぎていく。新入生の大半は入学前から入部先を決めているし、部活動の参加は任意だから、そもそも入部しないという人も多い。かくいう俺も部活動には入らないつもりだ。新入生の総意としては、「こんなオリエンテーションよりもクラスメイトとの親睦を深める方が大事」だった。
わざわざ勧誘しなくても人が集まるサッカー部や野球部は「経験者のみ入部可能」とだけ言って終了した。囲碁部は初心者大歓迎と言って対局を見せていたが、簡単なルール説明もない上に、盤面も全く見えていなかった。
新入生の気持ちが分かるからか、勧誘側も明らかにやる気のない発表だらけだった。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/09/15(水) 22:25:34.14 ID:TCAbkAPj0
各部の発表が淡々と進み、吹奏楽部の心地よい音色をBGMにウトウトとしていた俺だったが、その直後の叫び声で飛び上がることになる。
「軽音楽部ですよろしくぅぅぅ!!!!!!」
突然のシャウトによって一瞬にして体育館がライブハウスへと化した。雑談をしている者も、スマートフォンでアルバイトの求人を探している者も、英単語帳を熱心に読み込む者も、全員が動きを止めてステージに注目した。
「かっこいい……」
直感的にそう思った。全く知らない曲で(多分オリジナル曲だ)、ロックなんてほとんど聴いたこともなかったけど、気が付けばステージに釘付けになっていた。
ギターソロに入る。それまではあくまでボーカルの引き立て役として演奏していたリーゼントの人が、急に前に出てきてなんだか訳の分からない指の動きを見せた。囲碁の盤面よりも見えにくい小さな動きを食い入るように見ている自分がいた。
いつしか、部活には入らないという考えはすっかり消え失せ、軽音楽部の発表が終わるや否や、スマホで中古ギターの値段を調べ始めていた。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/09/15(水) 22:26:16.43 ID:TCAbkAPj0
その日の放課後、早速入部届を出しに行った。オリエンテーションでは演奏するだけで勧誘の言葉もなく退場してしまっていたので、ここで初めて部活の詳細を聞く。どうやら都内の軽音楽部としてはかなり有名で、活動も活発らしい。入部届を出した1年生は殆どが何かしらの楽器経験がある人だった。
仮入部期間が終わると、1年生同士でバンドを組むことになった。未経験者の俺を誘ってくれる人は誰一人としていなくて、結局俺と同様に未経験者の2人と余り者同士でバンドを組むことになった。
練習しようにも未経験者だけでは何をしたらいいのかも分からないし、俺はギター希望で、他の2人はベースとドラム希望だったから、ボーカルもいなかった。最初から躓いてしまった。
すると、オリエンテーションでギターを弾いていたあのリーゼントの先輩がやってきた。
「おいおい、どうしたんだそんな暗い顔して。ロックは楽しくやんなきゃだろ?」
「えーっと……」
「ああ、アタシは2年の木村夏樹。アンタらは新入部員だよな。なにか困ったことでもあったか?」
「あの、俺たち3人でバンド組んだんですけど、楽器できる人が一人もいなくて、どうしたらいいのかさっぱり……。ボーカルもいないし……」
「なんだ、そんなことかよ。だったらアタシでよければ掛け持ちでボーカルやるよ。ベースとドラムも初心者にだったら多少教えられるしな」
「えっ、でもそれだと木村先輩が凄い忙しくなるんじゃ……」
「いいっていいって、ロックで忙しくなるなら大歓迎さ。ところでアンタら未経験ってことは楽器持ってないだろ? アタシが良い店紹介するよ。ネットで買うより安くて良いのが揃ってんだ」
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