【ウマ娘怪文書】「食堂の新メニューコンテスト?」「そー。それにターボとタンホイザが勝手にエントリーしちゃったわけよ、アタシの名前でね-ー」
2: 名無しさん(仮) 2022/09/25(日)22:02:16
「忙しくて食べに出られない時には、よくこうして差し入れしてくれてさ」
いつもありがたく思ってるよ、と続けるトレーナーにネイチャは気恥ずかしそうに笑って頬を掻く。
──が、やはりすぐに渋い面持ちに戻してしまう。
「や〜……けど違うでしょ、こういうのはさ」
「コンテストのテーマは?」
「……寒い季節に向けての汁物。シチューやスープもアリ」
「なんだ、ぴったりじゃないか」
ズズッ、と汁を啜り上げつつ具をかきこむトレーナー。
「このけんちん汁、いけるんじゃない?」
「だーかーらっっ!!そういうのじゃないんだって!
年頃のキラキラした女の子達が集う食堂のメニューだよ?年寄り臭いアタシの料理なんてさあ……」
「これだけ美味けりゃ関係ないと思うけど」
「………………」
空になった碗を差し出され、ネイチャはそれを受け取る。
3: 名無しさん(仮) 2022/09/25(日)22:02:31
「……トレーナーさんはさ、なんでそこまでアタシを出場させたいわけ?」
持ち込んできた手鍋からおかわりを注ぎながらの質問に、今度はトレーナーが即答した。
「ネイチャのすごさをもっとみんなに知ってもらいたいから」
「!!」
「友人二人もきっと同じ考えだと思うな」
「…………」
ネイチャは黙ったまま、お椀をトレーナーに返す。
トレーナーも特に返事を待つことなく、幸せそうに二杯目をかきこむのだった。
4: 名無しさん(仮) 2022/09/25(日)22:02:44
「──調理時間終了!それでは早速、品評に移らせてもらいます」
審査員である食堂スタッフのオバサンの言葉に、周囲を埋め尽くすほどの観客から拍手が起こる。
「……結局出場しちゃってるし。アタシってやつは……」
三人いる審査員それぞれに試食してもらうため、なるべく均等によそいながらネイチャはつぶやく。
案の定野次馬が殺到し、食堂内はお祭り状態。一緒に混じってゆるっと見物するならやぶさかではないが、
自分が見物される側にまわるのはやはり柄じゃない。
今すぐにでも「お呼びじゃないですね」と平謝りに引っ込みたいくらいだ。
(でも……)
トレーナーさんは、アタシの料理を信じて応援してくれた。レースの時と同じように。なら──……
(逃げてごまかすわけにゃ、いかんでしょ)
だから心を込めて真剣に作った。
正直、勝てるなんて思ってはないけど。──自分の全力を出したから。
5: 名無しさん(仮) 2022/09/25(日)22:02:57
「まず最初はスーパークリークさんのから。これはクリームシチューね」
「鶏もも肉にニンジン、ジャガイモ、タマネギ。ブロッコリーに、シメジに……随分と具沢山だわ!
それなのに味はまとまっているし、どの具も口の中でほろほろ蕩けるようにほぐれてく!」
「栄養面でも抜群。なんて隙の無い仕上がりかしら!」
審査員の賞賛の声に、クリークはにっこりと微笑んで人差し指を立てる。
「ふふ、ありがとうございます。実家の託児所でも子供達に人気でした〜♪」
「託児所で……なるほど、子供達のことを考えて作ってあるのね」
6: 名無しさん(仮) 2022/09/25(日)22:03:10
「続いてニシノフラワーさんの料理を。まあ〜!まるで花のようなピンク色のスープ!」
「紫イモで作ってあるのね!──あら!中の具材は……」
「花に、星に、ハートに……いろんな形に切ってあるわ!なんてかわいらしいのかしら〜!!」
「か、かわいいですか?」
モジモジこそばゆそうな仕草を取りながら、フラワーははにかんだ。
「えっと、お食事の時には皆さんに笑顔で食べてほしくて。だから少しでも楽しくなるようにってしたんです」
「とても大切な心掛けだわ」
「コンセプトがしっかりと料理で表現できてるわね」
7: 名無しさん(仮) 2022/09/25(日)22:03:24
「……やっぱレベルがおかしいって、あの二人…………」
予想以上の二人の手際に圧倒されていると、
「それでは最後に、ナイスネイチャさんの料理を」
とうとう命運を決する言葉がネイチャの耳に飛び込んできた。
ごくりと唾を呑むと、心臓に冷たいものが走る。
「これはけんちん汁ね。若いのに家庭的な料理だこと」
そんなコメントを口にして、審査員達はお椀を持ち上げ汁を啜るが──
「あら……」
「これは……」
その顔からは笑みが消え、考え込むような顔つきになる。
「…………え?……え?」
ネイチャが戸惑いの視線を向ける中、審査員達は特にそれ以上のコメントもないまま食べ終えるのだった。