【洒落怖】洒落にならない怖い話『老女の人形』
829: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:13:41.04 ID:Js55b4hr0
あの人形は30年くらい前から寺にあったらしい。
その頃、住職の奥さんがどこかの若い男と不倫したあげく
駆け落ちしてしまって、住職はひどく塞ぎこんでいた。
一時は自殺でもしそうな勢いだったらしい。
そんな時、住職はどこからかあの人形をもらってきたのだという。
それ以来住職は、その人形をいつも手の届くところに置いておき、
暇を見つけると人形を鳴らしていたらしい。
住職の兄弟もその様子がとても嫌で、何度となく
捨てるよう住職に促したが、そのたびに住職は
強く拒否したと住職の甥は言った。
「結局伯母は戻ってこなかったけど、伯父はあの人形に
こだわることで生きる希望をもったように見えたよ。
そういう意味ではあの人形をもらってきて正解だったのかも
しれない。」
住職の甥は言った。
「そうなんだ。なんか住職かわいそうだね。それにしても
住職の奥さんは酷い人だね。駆け落ちしちゃうなんて。」
俺は言った。
「まぁね。でも伯母は家を出てしばらくして事故で
死んだらしい。人伝えで聞いた話だし、葬式にも
行っていないけど、結構むごい死にかただったらしい。
自分の親戚とはいえ、自業自得だなとその時は思ったな。」
住職の甥は遠くを見ながらさみしそうに語った。
830: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:14:32.16 ID:Js55b4hr0
数日後、タカシの家に遊びに行く機会があった。
タカシの家は少し問題のある家庭で、親父さんが働いて
いない。毎日飲んだくれてはタカシの母親やタカシに
暴力をふるっていた。タカシの顔にはよく痣があった。
そんな家だから、あまりタカシの家に行くことはなかったのだが
その日はたまたま親父さんがいないとのことで
俺はタカシの家に遊びに行った。
「あの人形はどこ?」
俺はあの人形のことが気になっていたから素直に聞いた。
「ああ、あれはあそこにしまってあるよ。」
タカシはクローゼットの方を指さしながら言った。
「やっぱ夜とかに鳴かせてるの?」
俺はタカシが住職と同じようなことしているのではと不安になった。
「いや、もらってきてからあそこに閉まったままだよ。」
タカシは言った。
「あ、そうなんだ。でもタカシは、なんていうか・・、
あの人形のこと気にいっていたみたいだから。」
俺は言った。
「うーん。別に気にいってたわけじゃないよ。それに
今はあの人形を鳴かせようとは思わないな。
鳴かせても意味ないし。」
タカシは言った。
俺はそれを聞いて安堵した。もらうにはもらったが、結局
タカシもあの人形に飽きていて、タンスの肥やしにしている
だけなんだと思った。『鳴かせても意味ないし』という言葉は
一人で人形を鳴かすことの馬鹿らしさに、タカシ気づいてくれた
表れだと思った。
831: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:15:23.32 ID:Js55b4hr0
それから数日後、タカシの親父さんが死んだ。
家にいる時、突然心臓発作で死んだらしい。
俺は親に連れられ、葬式場を訪れた。
式場でタカシの母親に挨拶をしたが、タカシの
姿が見当たらない。どうもまだ家にいて、一人
部屋で塞ぎこんでるらしい。
どうしようもない親父だったが、やはり父親は父親。
突然死んでタカシもショックだったのだろう。
俺は元気づけようと、タカシの部屋を訪ねることにした。
その日は曇りで、俺がタカシの家を訪ねた頃には
あたりは真っ暗だった。
タカシの家に着いたものの、家の明かりがついていない。
呼び鈴を鳴らしたが反応がない。おかしい。
ただその時俺は、タカシがショックのあまり自殺でも
しているんじゃないかと不安に思った。
だから鍵の開いていた玄関の扉を開け、無断でタカシの
家に上がった。
832: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:16:16.54 ID:Js55b4hr0
タカシの部屋は2階の一番奥にある。
階段をあがっている時、その音は聞こえた。
(ドンドンドン)
「・・ぅぐぐぐ。ぅぃぃぃややや・・」
(ドンドンドン)
「・・ぁぃぃぃぃぃ。ぅぐぅぅ・・」
なにかものを叩くような音。
その合間に誰かのうめくような音。
ひどく陰湿な響きである。俺はどうしようも
ない不安にかられた。しかしタカシの安否が
気になっていた俺は、勇気をだして進んだ。
タカシの部屋の前まできた。
その音はタカシの部屋の中から聞こえた。
俺は勇気を出してドアを静かに開けた。
ドアを開けるとタカシの後ろ姿が見えた。
なにか作業をしているように見えた。
とりあえずはタカシの無事を確認できて俺は安堵した。
タカシは部屋に入ってきた俺に気づいていないのか
振り向きもせず、なにかの作業を続けている。
体越しでよく見えないが、拳を振り上げなにか
布みたいなものを叩いているように見えた。
833: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:17:32.45 ID:Js55b4hr0
(ドンドンドン)
拳が勢いよく振り下ろされるたびに乾いた音が
部屋に響く。そして
「・・ぉぐぐぃぃ。ぅぐぐぃぃぃ・・」
低くこもったような声が部屋に響く。
苦悶に満ちた声だ。
俺はその声がタカシの目の前にある小さな物体から
聞こえていることに気付いた。
その時、タカシが振り向いて俺を見た。
タカシはひどく無表情だった。
なにも言わず、ただ無感情に俺を見ていた。
しばらくお互い無言で向かい合った。
「よ、よぉ。ごめん、なんか勝手に上がらせて
もらっちゃった。タカシ落ち込んでるって、タカシの
お母さんに言われたもんだからさ。」
俺はなんとか言葉を振り絞った。
「・・・。そうなんだ。」
タカシは表情をかえずにそっけなく言った。
835: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:19:50.68 ID:Js55b4hr0
その時俺は、タカシが左手であの人形を持っていることに
気付いた。
「その人形・・。」
俺は言った。
それを聞くとタカシはニヤリと笑った。そして
「これ。いい声で鳴くようになったんだよ。」
タカシはそう言うと、右手の拳を人形の体に勢いよく打ち付けた。
ドン!
乾いた音とともに
「・・ぅぅぐぐぐぃぃ。」
人形が低い声で鳴いた。同時に俺はあることに気付いた。
「あれ?その人形の出す音って、そんな音だったっけ?」
住職が持っていたころ出していた音とは、明らかに
違う。低くこもった音だった。出る音も、前より大きくて
長めにでている。
「やってみる?」
タカシはそれには答えず、人形を俺の方にさしだした。
かつて住職が俺とタカシに
初めて人形をみせた時のように。
836: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:20:35.46 ID:Js55b4hr0
「いや、いいよ。俺は・・。」
そう言うと、また俺はあることに気付いた。
人形の顔が違う?
俺の知っている人形は、白髪混じりの
長い髪で、老女にも見える出で立ちだった。
しかし、今、目の前にさしだされた人形は
髪は黒々しており、髪型も短くなっている。
そしてなにより、顔の輪郭が前より角ばっていて
老女というより、男の顔にも見えた。
「タカシ・・。人形の顔替えた?」
俺はきいた。
「別に・・。」
タカシは憮然として言った。
すでにもう俺の方を向いていない。
「いやでも、あきらかに違ってない?」
俺は言った。タカシは俺の言葉を無視した。
「タカシ。」
タカシは応えない。
「タカ・・」
「用がないならもう帰ったら?」
もう一度呼びかけようとした俺の言葉を遮るようにタカシは言った。
「あ・・、でもタカシ、その人形・・。」
「さっさと帰れよ!!!」
タカシはどなった。振り返った目が血走っていた。
「あ・・。ご、ごめん・・。」
俺はタカシの不気味な迫力に圧倒され、そそくさと帰った。
俺が部屋を出る時も、タカシは人形を拳で殴り続けていた。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
「ぐぐぐぐぐぅぎぎいぎぎぃぃ・・・。」
俺はもう、その音を聞くのが耐えきれなくなり、
耳を塞ぎながら、必死でタカシの家をあとにした。