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【ウマ娘怪文書】3月。トレーナーにとっては春のG1戦線が本格化する大切な時期であると同時に、卒業する生徒や独立して新入生を迎えようとする新人トレーナーとの別れの時期でもある


15: 名無しさん(仮) 2025/03/29(土)23:41:21 0

「…本当に、本当の本当に、私がいいんですか?
私も、みんなみたいに輝けるって、思ってくれますか?」
目を潤ませて、彼女が問う。そんなことはわかりきっているのに。
そんな君だから、輝いてほしいんだ。
「優しくて頑張り屋な、ありのままの君のことが好きで応援したいって思う人は、絶対いるよ。
俺だってそうだよ。だから、君を選んだんだ」
彼女は何かを言おうとしたが、言葉を飲み込んで目尻を拭った。
そして今度ははっきりと、強いまなざしでこちらを見つめた。
「まだまだ、至らないところもあると思います。でも、頑張って期待に応えられるようになりますから。
それでもいいなら、これからも私と一緒に走ってくれますか」
差し出された小さな手を握り返したときのぬくもりは、今でも忘れられそうにない。
「うん。これからもよろしくな、ブーケ」






16: 名無しさん(仮) 2025/03/29(土)23:41:36 0

話し終えた後に余韻を味わうように沈黙されると、ひどく気まずい。話せと言ったのはそちらではないか。
その後に洪水のようにあれこれと訊かれるのも大変だ。相手が酔っ払いなら、なおさら。
「いいなー。うちの子にもそのくらい言ってたらもっと優しくしてくれたのかなー。最近すごい雑にあしらわれるんだよー…」
「ちゃんと幸せにしろよ??そこまで言わせたんだからさ?」
随分と含みのある言い方をされた。余計なお世話だ。
言われなくたって、彼女には絶対に栄冠を勝ち取らせてみせる。とうの昔にそう決めているのだから。

酔いを覚ましたくて、帰る前に一度トレーナー室に戻って顔を洗った。
今日も同じように、差し入れと新しい花が机の上に置かれていた。
思えば彼女の担当になってから、もう丸一年経ったのだ。それでもずっと、彼女はこうして尽くしてくれている。

「…やっぱり、なにかしないと駄目だよな」
思いついたまま行動に移さないのは、自分の悪い癖だ。
彼女の気持ちはそこにあるのだから。柄ではなかろうとなんだろうと、それに応えなくては。




17: 名無しさん(仮) 2025/03/29(土)23:41:50 0

明くる日のこと。
少し恥ずかしそうな面持ちでこちらに来た彼女を見て、何が言いたいのかは大体想像がついた。
「あの、これって…」
彼女の手の中には、小さな花瓶に活けられた薄桃色の薔薇が一輪あった。見返すとひどく面映ゆい気分になるが、花屋で一番いいものを選んできただけあって、しっかりと咲いている。
「やっぱり、ちゃんと口で言わないとだめだよな」
柄にもなく、贈るときの意味を調べもした。
ピンクの薔薇の花言葉のひとつは、感謝。
「いつもありがとう。こんなのじゃまだまだ、返しきれてないと思うけどさ。
それでも、やっぱり伝えたかったんだ。初めてもらったとき、すごくうれしかったから」
そしてもうひとつは、幸福。
彼女に出会えた奇跡を想うために、これ以上の花はないだろう。





18: 名無しさん(仮) 2025/03/29(土)23:42:04 0

「だから…これからも、一緒に頑張ろう。
今日はそれだけ言いたかったんだ。でも、なんか恥ずかしいな…改めて言うと」
結局最後に格好がつかないのは、あの頃からどうにも変わらないらしい。涙を拭う彼女に気の利いた言葉をかけられないのも、できれば直したかったのだが。
でも、悲しくて泣いていたあのときの彼女はもういない。
「はい…!
ずっと、大事にします。この花も、トレーナーさんの気持ちも。
だから、どうかこれからも、私を見ていてくださいね。
私の、トレーナーさん」
涙を拭いた彼女は、どこまでも眩しい笑顔で微笑んでくれた。

彼女が笑ってくれるなら、なんだってできる気がする。
出会ったときも、今も、これからも。
花の色がいくら移ろっても、それだけは決して変わらないと思った。




19: 名無しさん(仮) 2025/03/29(土)23:42:23 0

柔らかな三つ編みを解いた湯上がりの彼女は、どこか恍惚とした微笑みを湛えて椅子に座っている。そんな彼女が机の上の花瓶に活けた一輪の薔薇と、密会でもするようにいつまでも見つめ合っている姿は、微笑ましさと仄かな色香を同時に感じさせるものだった。
彼が言ってくれた言葉を、彼に言った言葉を反芻する度に、彼女の頬には湯当たりとは違う甘い熱が宿るのだ。
控えめな性格の彼女は、何かを自分のものだと主張することに慣れていない。そんな彼女が、「私の」という枕詞をつけるとどこか甘美な響きを感じるようになったただ一つのものが、彼女に寄り添うトレーナーだった。
「…私の、トレーナーさん。
ふふふっ」
彼女は薄桃色の薔薇の花弁を、指先でそっと弾いた。目の前に彼がいて、同じ色に染まった頬をからかうように。
彼女の心は、今はそれだけで満たされるのだ。




20: 名無しさん(仮) 2025/03/29(土)23:42:36 0

この花をもらったとき、彼女の心はふたつに分かれた。
ひとつは、果てしない喜び。そしてもう一つは、甘やかな淡い期待に。
いつかこの薔薇が、目の覚めるような真っ赤な色に変わっていたらいいな、なんて。
恋を知ったばかりの彼女の可愛らしい空想が、そっと芽をつけようとしていた。




21: 名無しさん(仮) 2025/03/29(土)23:43:07 0

おわり
ブーケちゃん実装が待ちきれなくてキャラストを捏造した者です




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