【ウマ娘怪文書】「愛が足りない…」ある日の夜。そうボソッと呟いたアヤベはベッドの上で尻を天井に突き出し、うつ伏せのままふわふわの枕に身を預けるという何とも言えない姿勢を取っていた。そのカワイさの欠片も感じない姿に、ついつい反応してしまうのはカワイイの伝道者故の性
1: 名無しさん(仮) 2025/03/12(水)23:37:52 0
「愛が足りない…」
ある日の夜。そうボソッと呟いたアヤベはベッドの上で尻を天井に突き出し、うつ伏せのままふわふわの枕に身を預けるという何とも言えない姿勢を取っていた。そのカワイさの欠片も感じない姿に、ついつい反応してしまうのはカワイイの伝道者故の性。
「いや、そんなカワイくない格好して何言ってるんですか」
枕に埋めていた顔を90度だけ動かし、カレンの方へ向けたアヤベは悲しげな目をしていた。そしてあいも変わらず天井に尻を向けていた。
「あの人からの愛が足りないのよ…」
「えーと、つまり…アヤベさんはもっとトレーナーさんに満足のいくまで構って貰いたい、そういうことで合ってます?」
「えぇ、そうよ」
三年間、この癖の強い姉貴分の面倒を見てきたカレンチャン。少ない言葉でも言わんとすることは何となく分かる。意図を察して貰えて嬉しかった姉貴分は天井に向けられた尻の先で尻尾をフリフリと揺らした。
「そうですか…!」
「何で嬉しそうなのよ」
2: 名無しさん(仮) 2025/03/12(水)23:38:25 0
不満を喜ばれてアヤベが眉間に皺を寄せる。が、カレンからすればあの自己表現が苦手で欲も不満も全て溜め込んでしまうアヤベが、こんなにもハッキリと自身の不満を吐露してくれたことがとても嬉しかった。これも三年間の成長の賜物である。が、それはそれとして。
「そのカワイくない格好は何なんです?」
「これ?これはこの枕のふわふわ感を最大限享受する為に最も適した姿勢よ」
「カワイくないですよそれ。やめましょうよ」
「別に…貴女と違って四六時中カワイさを追求してる訳ではないもの。今はこのふわふわで傷付いた心を癒すのが大事よ」
「トレーナーさんに写メ送っちゃお」
「やめなさい。叩くわよ」
「お尻を突き出したまま凄まれても…」
睨まれても格好が格好だからかあまり迫力は無かった。
3: 名無しさん(仮) 2025/03/12(水)23:38:47 0
「で、アヤベさんは何が不満だったんです?」
アヤベが好きだから!とまで言い放った彼女のトレーナー。正にベタ惚れといった感じで、アヤベが望むこと、アヤベのためになることは何でもやった。そんな彼がアヤベに注ぐ愛が不足しているとは思えなかった。
「プラネタリウムに誘ったら断られたのよ」
「へ?」
「プラネタリウムに誘ったらその日は用があるからって断られたのよ」
「そ、それだけですか…?」
「それだけ?私は今週末はあの人と一緒に過ごす気満々だったのよ?」
「OK貰ってから満々になってくださいよ。断られるとは思わなかったんですか?」
「…今まで断られたことなんてなかったもの」
「あーーー!いいなーーー!!羨ましいなーーー!!!」
「どうしたの急に」
カレンチャンのトレーナー、通称お兄ちゃん。彼女のことは大事に思ってるし最大級の愛を注いではいるものの、それはそれとして担当ウマ娘と担当トレーナーとの線引きには他よりちょっと厳しかった。
4: 名無しさん(仮) 2025/03/12(水)23:39:23 0
「そういえばデートスポットっぽいところに誘っては袖にされてるわねカレンさん」
「カレンからすればアヤベさんは十分に愛を貰ってますよ!」
「…そうね。何度断られても不屈の精神で立ち上がり、その度にカワイさという武器を磨き上げていつかお兄ちゃんさんの喉元に食らいつき、愛を貪り尽くすまでは諦めない。そんな鋼鉄のハートと高いプライドの持ち主の貴女からすれば、私なんて甘ちゃんだったかもしれないわね」
「ねぇ、何ですかそのカワイくない表現は。ねぇ、もっとカワイイ言い回しあるでしょう?」
「でもそのプライドが仇となる時があるわよ」
「余計なお世話ですよ」
確かにもっとお兄ちゃんに構ってほしいとは思っているものの、そんな愛に飢えた獣か何かみたいに言われるのはカワイイの伝道者としてはかなり不満があった。
「時にはそのプライドを捨ててみるのもいいかもしれないわ。新しい景色が拓けるはずよ」
そう言うとアヤベはそれまで微動だにしなかった尻を下げ、姿勢を正した。枕をポンポンと叩きカレンを促す。
「何ですか?」
「貴女もやってみなさい」
5: 名無しさん(仮) 2025/03/12(水)23:39:48 0
「え…?何を…?」
「ふわふわを享受しなさい」
「まさか今の格好をカレンにもやれって言うんですか!?嫌ですよあんなカワイくない間抜けな格好!」
「間抜け…?いいからやってみなさい。心が楽になるわよ」
ふわふわを勧める時のアヤベは頑なだ。これはやるまでしつこいだろうなと察したカレンは、渋々枕に顔を埋めた。
「うーん、確かにふわふわですねぇ」
「でしょう?でも、まだ十二分に享受出来ていないわ。さぁ」
何でそんなに尻を突き出させたがるのだろう。疑問に思ったが、やるまで折れないのは目に見えている。意を決して。
「えい」
カレンは天井に向かい、尻を高々と突き上げた。
「あ、確かにこの姿勢いいかもしれないです…全体重を枕に預けられるような…」
ふわふわに包まれて、心身共に楽になっていく感覚。心につっかえていた何かが外れて、ついつい本音を言いたくなるような…
「愛が足りない…」
6: 名無しさん(仮) 2025/03/12(水)23:40:42 0
パシャ
「パシャ?」
妙な音に嫌な予感がして、首を90度動かす。アヤベがスマホを構えていた。
「…何、したんです?」
「写真を撮ったのだけれど」
「…何のために?」
「お兄ちゃんさんに送ろうかと思って」
「やめてください!!叩きますよ!!」
「その格好で凄んでも何も怖くないわ」
「ムキーーッ!!」
カレンは吠えた。
7: 名無しさん(仮) 2025/03/12(水)23:40:57 0
その夜、お兄ちゃんの元に一枚の写真が送られてきた。
──ストレスが溜まってるみたいよ
そう一文添えられたその写真には、彼の愛バが日頃こだわっているカワイさをかなぐり捨てたようなアラレもない姿が写っていた。
このことに大層反省した彼は、彼女との接し方を改めて、カレンと一緒にいる時間を大切にしようと誓ったそうな。カレンが嬉しさ半分、羞恥半分の複雑な顔をしていたのは言うまでもない。