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【ウマ娘怪文書】獅子が大きく開けた口の中に頭を突っ込むパフォーマンスをしている最中、猛獣使いが加減を誤れば獅子はえずき口を閉じるだろう。たった一瞬の油断で、猛獣使いの残りの人生は猛獣のものとなってしまったのだ。トレーナーも同じである。


1: 名無しさん(仮) 2025/01/28(火)21:09:18

サーカスの猛獣使いは何故危険な猛獣を従えることが出来るのだろうか。答えは技術でもしつけでもなく、長い時間を共に過ごしてきたからだ。
猛獣と猛獣使いが幼い頃から共に過ごし、心の通じ合う家族となったからだ。だから獅子を従える猛獣使いなら熊も従えられるというわけではない。初対面の猛獣の前に出ればいとも容易く餌食となってしまうだろう。
ならば何年も共に過ごしたパートナーなら安全かというとそれも違う。猛獣使いが油断した瞬間、何年も付き添った猛獣相手にあっけなく事故死することもある。
獅子が大きく開けた口の中に頭を突っ込むパフォーマンスをしている最中、猛獣使いが加減を誤れば獅子はえずき口を閉じるだろう。たった一瞬の油断で、猛獣使いの残りの人生は猛獣のものとなってしまったのだ。
トレーナーも同じである。




2: 名無しさん(仮) 2025/01/28(火)21:09:30

優駿を輩出する名家には名バは気性難であるというジンクスがある。闘争本能の高さ、勝負強さ、負けず嫌いが気難しさに現れると考えられていたからだ。
故に将来を期待した我が子に幼き頃からトレーナー志望の者を宛てがい、やがて全盛期となった時に手が付けられない気性難にならないようにするという、手のかかりすぎる教育を施す名家の者は珍しくなかった。
ドゥラメンテもその一人であった。ドゥラメンテが8歳になった時、高校を卒業し体育大学に進学予定の一人の青年がトレーナーとして紹介された。親の伝手で彼女の一族へと紹介され、ドゥラメンテの世話係となった。
一流のトレーナーを志すならギリギリの年齢であり、彼は内心胸を撫で下ろしていた。8歳のドゥラメンテは突如紹介されたトレーナーに緊張し、親の後ろに隠れたが、やがて目線を合わせて屈む彼に近づいていった。






3: 名無しさん(仮) 2025/01/28(火)21:09:47

口数少なく控えめな性格をしていたドゥラメンテは、トレーナーと触れ合うにつれ少しずつその素質を表に出し始めた。両親に話せないような相談事も、トレーナーには話せた。少しずつ彼女は子供から大人としての精神の成熟を見せ始めていた。
一方のトレーナーはドゥラメンテのことをよく知ろうと努めた。例え今世話係として暫定的に彼女のトレーナーを任されていようとも、自分の実力が足らないと判断された場合はただの世話係として、トレーナーの任から外されると思っていたからだ。
だから、一人前のトレーナーになろうと勉学に励む傍ら、彼女のことを一番に理解できる者となろうとした。彼女の話に耳を傾け、彼女の走りに着目し、寝ても覚めてもドゥラメンテのことだけを考え続けた。
やがてドゥラメンテがデビュー戦を飾る頃には、両者は立派なウマ娘とトレーナーになっていた。些か二人のコミュニケーションはお互いに偏重しているきらいはあったが、ドゥラメンテの両親はそれすらも織り込み済みのようであった。





4: 名無しさん(仮) 2025/01/28(火)21:10:03

ドゥラメンテが7冠を達成した頃、トレーナーは自身の役目の終わりを感じ取っていた。トレーナー室の窓から身を乗り出して外を見れば、グラウンドでは新人ウマ娘が彼女のトレーナーに笛で追い立てられ走っている。
ああいったものも青春の形だな、とトレーナーは思った。そしてああいったものは僕とドゥラメンテの間にはなかった、とも思った。ドゥラメンテは優秀なウマ娘であり、トレーニングに不満を漏らしたことはなかった。
いつかドゥラメンテやその一族が自分を必要としなくなった時、またああして一から新しい子を鍛えるのもいいかもしれないと思っていた。ドゥラメンテの有り余る素質が、自分を必要としない時が来るのだろうと思ったからだ。
その寂しそうな背中を、ドゥラメンテは両の拳を握って見つめていた。彼の背中を見ていると胸が締め上げられるように苦しくなる。ドゥラメンテは、トレーナーが自分の元から離れようとしているのを感じ取っていた。
そしてそれは、きっとトレーナー自身も望んでいないのに、離れようとしているのだとわかっていた。だから、どうにかしてずっと一緒に居たいという気持ちを、伝えようとしていた。




5: 名無しさん(仮) 2025/01/28(火)21:10:14

トレーナーがドゥラメンテからいつか福引で当てた温泉旅行を提案されたのはそんな折であった。一緒に行くか行かないかで一悶着あったが、とにかく2人は温泉宿に向かうこととなった。
話は既に彼女の両親につけてあるらしい。目的地は一族もよく利用している温泉地で、一緒に行くのは10年も付き添った家族のような存在のドゥラメンテ。トレーナーは安心しきっていた。
何も問題はない。ただドゥラと温泉に行って、疲れを癒やして、今後のことも少し話すだけ。そう、自分に言い聞かせるように能天気に浴衣に袖を通していた。一方のドゥラメンテは、真剣に覚悟を決めていた。
その夜、襖で仕切られた二つの部屋から、ドゥラメンテが布団を一つ運んできて、トレーナーの布団にぴったりとくっつけて敷いた。一緒に寝ていいか、昔みたいに。そう言うドゥラメンテに、トレーナーは二つ返事で了承した。
昔はお泊り会なんかで一緒に星を見て寝たこともあったのだ、今更何も問題はない。ドゥラはここ数年とても大人びた身体に成長したが、そんなものよくない目で見る方が悪いのだ、問題はない。トレーナーは彼女への恋心を忘れるように首を振った。




6: 名無しさん(仮) 2025/01/28(火)21:10:24

消灯後しばらくして、ドゥラメンテがトレーナーの名を呼んだ。トレーナーは背中を向けて答えない。既に寝ているというていなのだ。布団からドゥラメンテの足が伸びてトレーナーの足に絡まった。
トレーナーは昔を思い出していた。口下手で、甘えん坊で、すぐ抱きついてきた幼い彼女を。少し懐かしく思い、そのじゃれた動作を受け入れた。すると次はドゥラメンテの手が布団の中に入って彼の背中を抱きしめた。
手足が抱き寄せるように絡みつき、トレーナーの背中にドゥラメンテが甘えるように顔をつけた。そう言えば昔もこんなことがあったな、あの頃はもっと小さかったから背中を抱いたら足は届かなかったっけ。などとトレーナーは呑気に考えていた。
「好き」
背中に顔を埋めるドゥラメンテが、熱のこもった小さな声でそう鳴いた。トレーナーは一瞬硬直したが、再び寝たふりに戻った。ところが、絡みつくドゥラの手足がまるで筋肉の塊であるタコのように、獲物を締め上げる大蛇のように、しっとりと、されど万力の如く離れない。




7: オワリ 2025/01/28(火)21:10:34

「君も、だろ?」
この時ようやく、トレーナーはドゥラメンテがウマ娘であると再認識した。彼女は面倒を見ている小さな家族ではなく、立派な大人の、それも自分ではまったく叶うことの出来ないウマ娘なのであった。
それでももしトレーナーがドゥラメンテのことをなんとも思っていないのであれば、この場でなりふり構わない行動を起こし、難を逃れたかもしれない。けれども、ドゥラメンテの言う通り、トレーナーも、なのであった。
心が負けを認め、身体が負けを認め、トレーナーは何もしなかった。それを受け入れてくれたと察したドゥラメンテは、嬉しそうに彼の身体を強く抱き寄せた。
その後、彼女の両親に頭を下げに向かったトレーナーであったが、どうやら数年前より想定の内だったらしく、妙な雰囲気で祝われてしまい、傍らで彼の腕を抱き離れないドゥラメンテと共に、再び学園に戻ったそうな。




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