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死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない? 『ヒギョウさま』


508:8/13:2011/08/14(日) 17:45:41.63 ID:zBvOhT5L0
それは、玩具ではありませんでした。ペンキのようなもので鏡面を朱色に塗られた手鏡。
粘土で作られた小さな牛の像。プラスチックの安そうな造花。
昨夜はそのカラフルな色合いから、玩具のように見えたのでしょう。
しかし、それらはなんに使うものかまったく見当も付きませんでした。

私は、お爺ちゃんが昨夜玉子を捨てていたゴミ箱に気が付きました。
昨夜は暗くてよく分かりませんでしたが、明るいところで見るとそのゴミ箱の蓋には、
昔風の線を崩した読めない字で何か書いてある、古そうな紙が一杯貼ってありました。




509:9/13:2011/08/14(日) 17:47:24.49 ID:zBvOhT5L0
「あっ!生まれとるで!・・・え、・・・何・・アレ・・・」
孵化器を覗いた弟が、玉子が孵っているを見つけたようです。
私は生まれたての雛を見たくて、孵化器の扉を開けました。
すると、雛?がいました。
しかし、その雛?は、他の雛とは何かが違いました。
良く見ると、他の雛達と違い、全く震えていませんでした。
全くさえずっていませんでした。
そして眼が、眼だけが、人のそれでした。
ソレは孵化器の棚からドサッと土間へ落ちると、首を振らず、スタスタと歩いていきました。
私はその異様さに、動くことができませんでした。
ソレが孵化室を出て西のほうへ歩いていき、見えなくなると、金縛りが解けたようにやっと動けるようになりました。




524:10/13:2011/08/14(日) 19:43:51.77 ID:zBvOhT5L0
そして弟の方を見ると、弟はよだれをダラダラと流し、眼はどこも見ておらず、
呼びかけても呼びかけても反応がありませんでした。

私が大声で弟の名を何度も呼んでいると、お爺ちゃんとお婆ちゃんが息を切らして飛び込んできました。
「おいっ!!見たんか!!」
私はお爺ちゃんの形相が恐ろしくて、「見てない」と答えました。
お爺ちゃんは私の眼を見ながら、「見とるじゃろ。どっち行ったんなら?」と怖い眼で聞きました。
「あっち」と私は西のほうを指差しました。
するとお爺ちゃんは、出入り口のドアの横においてあった粘土の牛の像と造花を持って、
私の指差した方へ走っていきました。
お婆ちゃんは弟の名を何度も呼んでいましたが、弟はよだれを流すばかりでなんの反応もしませんでした。
「ヒギョウさまと眼が合うたんか・・・」
お婆ちゃんは悲しそうに言いました。
「もう直らんの?」
私は、弟とそれを見るお婆ちゃんに、幼いながらもただならぬ様子を感じ、そう尋ねました。
「いや・・・坊、そこの赤うに塗っとる鏡を取ってくれ」





525:11/13:2011/08/14(日) 19:46:04.08 ID:zBvOhT5L0
私が鏡面を朱色に縫られた手鏡を手渡すとお婆ちゃんは、
「見ちゃあいけん、母ちゃんのところへ行っとき」と、私を孵化室の外へ出しました。
私は母と姉のところへ行きましたが、母に何と話していいものか、何も言えずに母に抱きついていると、
弟とお婆ちゃんが戻ってきました。
私は歩いてくる弟を見て、ああ、なんでもなかったんだ、良かったとホッとしましたが、
何か弟に違和感を感じました。

話してみると、確かに弟です。
一緒に孵化室に行ったことや、昨日のこと、一昨日のことも覚えています。
しかし、どこか、何かが違うのです。
母も、弟に何かを感じたのでしょう。
お婆ちゃんに、「お母ちゃん、まさか・・・」と聞きました。
お婆ちゃんは悲しそうに頷くだけでした。
母が弟を抱きしめて、ワンワンと泣いたのを覚えています。
弟はキョトンとしていました。
姉は弟を薄気味悪そうに見ていましたが、母が泣くのを見て、一緒に泣き出しました。




526:12/13:2011/08/14(日) 19:49:37.11 ID:zBvOhT5L0
しばらくすると、お爺ちゃんが帰ってきました。
「ダメじゃ、間に合わなんだ」
そう言って悲しそうに首を振りました。
「婆さん、誰かは分からんが、遅うても2、3日の内じゃろう。喪服を出して風に当てといてくれ」
そういうとお爺ちゃんは弟を抱きしめ、
「すまんのう、お爺ちゃんが寝とったけえ、こがあなことに・・・ほんまにすまんのう」
お爺ちゃんはボロボロと涙を流して謝りました。
弟は「何?お爺ちゃん痛いよ」等言っていました。
その声、そのしぐさ、確かに弟なのですが、やはりソレは弟ではありませんでした。

後からお爺ちゃんは言いました、
「お天道さんの一番高い刻と夜の一番深い刻に生まれた雛は、御役目を持っとるんじゃ。
 じゃけえ、殺さにゃあいけんのよ」
「夜に生まれた雛も『ヒギョウさま』になるの?」と、私は聞きました。
「誰に・・・ほうか、婆さんが言うたんか。
 いや、違う。夜に生まれたんはもっともっと恐ろしいもんになるんじゃ」
そういって、お爺さんは薄気味わるそうに孵化室のほうを見ました。




527:13/13:2011/08/14(日) 19:52:20.94 ID:zBvOhT5L0
このときの話はこれで終わりです。
後に、私が高校の時に、実家が養鶏場を営んでいる同級生がいました。
そいつに『ヒギョウさま』について聞いてみると、
最初は何のことか分からない様子でしたが、あの夏の出来事を話すと、
「ああ、『言わし鶏』のことだな」と言っていました。
何でも、今ではオートメーション化が進み、センサーとタイマーにより、
自動的に12時と24時に孵りそうな玉子は排除されるのだそうです。

あれからも毎年島根へ帰省しています。弟は元気に小学校で教師をしています。
もう、以前の弟がどうだったか、覚えていません。だからもういいのです。
アレから二十年も家族として暮らしてきたのですから、もう完全に家族なんです。





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