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【ウマ娘怪文書】――どうしてこう面倒な事になるのだろうか。自分はただ、髪を切りたかっただけなのに「いいですかーアヤベさん。大人しく抵抗を止めて右手の凶器をぽいしてください。ほらぽいですよぽーい」


1: 名無しさん(仮) 2023/07/19(水)20:48:51

――どうしてこう面倒な事になるのだろうか。
自分はただ、髪を切りたかっただけなのに。
うんざりとして溜息を一つ吐いて、目の前で騒ぎ立てる相手を見る。

「いいですかーアヤベさん。大人しく抵抗を止めて右手の凶器をぽいしてください。ほらぽいですよぽーい」
こちらに向かってそう騒ぎ立てるのはカレンチャンであり。
「危険物ではあるのだからぽいってしたら危ないでしょう…」
そう返事をするアドマイヤベガの右手にはハサミがあった。




2: 名無しさん(仮) 2023/07/19(水)20:49:54

アドマイヤベガにしてみれば、最近あまりにも暑いから髪を切ろうと思い立った。ただそれだけの話なのである。
対していざ髪を切らんとするアヤベの姿を見かけて慌ててストップをかけたカレンにしてみれば、どう考えてもそれだけで済ませられない理由があった。
アヤベの右手に握られたお世辞にもカワイイとは言えようもないソレ。
それはだって、どう見ても裁ちバサミだったのだ。
そしていつも髪を束ねているリボンの辺りを左手でむんずと掴んでいる姿を見つけてしまえば、悲鳴の一つも上がろうというものなのだ。




3: 名無しさん(仮) 2023/07/19(水)20:50:43

「よかったー! いややろうとしてる事完全によくないですけどその前に見つけられてよかったですよ本当にもう!」
ぷんぷんどころの話でなく。
既にして蛮行が確固たる凶行となるその寸前に間に合った形となるカレンチャンの興奮は止まらない。
「いいですかーアヤベさん。本当そういうところですよアヤベさん。
折角のキレーな髪なのにって言うのはカレンのワガママだとしても、ソレは無いです。アウトです。トレーナーさんだってびっくりですよ」
「でも暑いのよ」





4: 名無しさん(仮) 2023/07/19(水)20:51:18

「暑いですけど! 暑いですけど! そんなにバッサリやっちゃったらカレン、アヤベさんのお布団がしみっしみになるまで泣いちゃいますからね!」
「…そんな脅迫、布団乾燥機を持つ私に通用するわけがないでしょう」
何なら泣き声さえも作動音で封殺できるのだから、やはり死角は無いという他にない。
その布団乾燥機も暑さの一因ですよぜったい!というカレンチャンに仕方なく、改めて夏場の布団乾燥機の有用性を説こうとしたアドマイヤベガに。

「あの、あの…! 私も、出来ればアヤベさんに髪、切ってもらいたくないです…!」

横からそう新たな声を上げたのは、ナリタトップロードだった。




5: 名無しさん(仮) 2023/07/19(水)20:52:05

思わぬ味方の出現に期待の眼差しを向けるカレンチャンと、思わぬ反対の声に戸惑うアドマイヤベガ。
騒動を見られたというバツの悪さも加わって、どうして、と問い返す声にも多分の困惑が混じっている。
「カレンさんは今更だけど。別に私が髪を切ろうと、あなたに関係はないでしょう…?」
「それは、そうで…仰る通りなんですけど! でも決して無関係なわけではなくて、それも私の我儘なんですけど…その…!」

――悔しくて、ですね…!

そう言って、ナリタトップロードは不器用に、それでも確かに内にある想いを言葉に紡いでいく。




6: 名無しさん(仮) 2023/07/19(水)20:52:33

ダービーで僅かに敗北した時から。
天皇賞で全然届かなかった時も。
JCの熱をただ外から眺めていただけの時も。
有馬記念だって!
そのきらめきを、ずっと見ていたのだ。




7: 名無しさん(仮) 2023/07/19(水)20:52:56

「まるで流れ星なんです。一気に踏み込んで、瞬く間に前に出て、たなびく長い髪と尻尾が、双子の流れ星みたいに綺麗で、格好良くて!
…そんなアヤベさんに勝てないのが、悔しくて! だから、そんなアヤベさんに、勝ちたいんです!」
そう言い切ったナリタトップロードの勢いに目を丸くするアドマイヤベガとカレンチャン。




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