【ウマ娘怪文書】「一週間もすれば治るでしょう」医者から告げられた言葉に安堵し、息を吐く。こうなってしまったのは本日の放課後、担当ウマ娘・ヒシミラクルとのトレーニングの最中である
1: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:48:14
「一週間もすれば治るでしょう」
医者から告げられた言葉に安堵し、息を吐く。
こうなってしまったのは本日の放課後、担当ウマ娘・ヒシミラクルとのトレーニングの最中である。いつも通りプールに入る事を嫌がる彼女を水の中へ投げ込んだのだが、力の入れ方を間違え、左手を軽く捻挫してしまった。
彼女に心配をかけては気の毒なので、その場は誤魔化してトレーニングが終わってからこうして病院に来たのだ。しかしこんな事で怪我をしてしまうなんて、我ながら情け無いというか─衰えたなあと少し落ち込んだ。
2: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:49:15
少しだけやり残した仕事を思い出し、病院を出てから再度学校に戻ると、校門の近くで困った様子のウマ娘を見かけた。芦毛の彼女は、よく見ると言わずと知れた強豪スプリンター・カレンチャンその人であった。
なんでも、スマートホンでの写真撮影に使用する『自撮り棒』という道具を失くしてしまったらしい。心当たりがあった。昼頃に職員室を訪れた時に、忘れ物をまとめた箱の中にそれらしき物が入っているのを目撃した覚えがある。
カレンチャンにその事を伝え職員室まで連れて行くと、案の定件の落とし物はそれだった。
「ありがとうございます!えっと…ミラ子さんのトレーナーさんですよね?」
存じてくれていたらしい。これも担当がレースで好成績を収めたおかげか。トレーナーとして鼻が高い。
3: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:50:06
「大したお礼もできないんですけど、カワイイ☆ユニバースに招待しますね!」
なんだろうそれは。本当に大した事をしてないし、これから残した仕事があるから断ろうとしたのだが───
「軽めのやつにしときますからすぐ済みますよ!幻術の世界で流れた時間はリアルでは一瞬なので!とう!」
理解と返事が追いつく前に、目の前が宇宙になった。いや、正確には宇宙のような空が広がった草原だ。しかしその光景は数秒で消えた。
「大変!時空に少し亀裂が入っちゃった!このままだと…トレーナーさん聞こえますかー!?」
どこからともなく、エコーのかかったカレンチャンの声が聞こえた。次の瞬間、強く真っ白な光に包まれ、思わず目を覆った。
─────10秒ほどして目を開くと、そこは見慣れた光景だった。
4: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:50:55
「ここは…トレーナー室…?」
何が起きたのだろう。さっきまで職員室の前にいたはずだ。
そういえばカレンチャンが『幻術』とか言っていた。即座に自分の頬をつねる。痛い、紛れもなくリアルな感触だ。手首もジンジンする。
とりあえず仕事を終わらせよう。そう思ってPCを立ち上げたが、やり残したはずの仕事は終わっていた。
「おかしいなぁ…」
何か違和感がある。何に対して、何の違和感なのかわからないが、悩んでいても答えは出ない。とりあえずその日は帰宅する事にした。
5: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:52:19
翌日、いつものように出勤。
トレセン学園の門を潜る。昨日の出来事はすっかり忘れていた。トレセン学園の生徒たちはいつもと何ら変わりない様子で、いつも通り賑やかだ。
「トレーナーさん!また嘘をつきましたね!!!学級委員長である私の目は誤魔化せませんよ!!!!」
自分のトレーナーに笑いながら大声で話しかけているウマ娘は強豪スプリンター・サクラバクシンオーだ。彼女もいつも通り騒がしい。
6: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:53:05
「トレーナーさん、何故、私の手を離したのですか?駄目です。私のトレーナーとしての自覚を持って、其れに相応しい行動を心掛けるように申したでしょう。只今からは私から手を離さないよう、抱っこしたまま移動してもらいます。」
凛とした表情でトレーナーを責め立てているのはこれまた短距離で名を馳せたウマ娘・ダイイチルビーであった。彼女についてはあまり詳しくないが、有名な一族の令嬢である事は知っている。そんな子でも担当トレーナーにはあんな風に甘えるんだなあとちょっと面白く思った。
「トレーナーさん!月曜日と水曜日、それから木曜日と土曜日と金曜日と火曜日に校門でトレーナーと抱き合ったウマ娘は強くなれるというジンクスがあるらしいですよ!早速実践しましょう!」
次に目に入ったのは中・長距離で活躍するウマ娘のサトノダイヤモンドだ。彼女は確か、ジンクスを打ち破る事をアイデンティティとしていたはずだが──聞き間違えだろうか。
7: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:54:10
学園が少しおかしくなっている事には徐々に気付いた。昼休憩になってから、カレンチャンを訪ねてみた。昨日からおかしいのだとしたら、原因は彼女の行使したあの『カワイイユニバース』しかあるまい。
「あー……それたぶん、並行世界と入れ替わっちゃってますね……」
並行世界。SF映画や漫画などで聴いたことがある。確か別の次元にもこの世界は存在し、そこは世界とは少し違うけどそっくりだとかなんとか。
「なるほど…今朝から学園の人達が少し違うなーと思っていたけど、そういうことだったのか」
「カワイイ☆ユニバースは次元接続して世界の力をほんの少し借りているので、本当にごく稀にですけど、こういうトラブルが起きるんですよ…向こうの私がごめんなさい!でも、入れ替わった人を元に戻すだけならすぐにできるので安心してください!」