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【ウマ娘怪文書】「一週間もすれば治るでしょう」医者から告げられた言葉に安堵し、息を吐く。こうなってしまったのは本日の放課後、担当ウマ娘・ヒシミラクルとのトレーニングの最中である


8: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:54:53

カレンチャンは理解が早く、頼りになった。続けて話を聞くと、カワイイ☆パワーを3日ほど溜めれば俺を元の世界へ返すことができるらしい。

「本来いた場所に戻るだけならパワー消費が軽くて済むんですよー」

「ありがとうカレンチャン、本当に助かったよ」

三日後に空間転移の儀式を行う約束を取り付けてからカレンチャンと別れた。

しかし、並行世界ということはカレンチャンも元の世界のカレンチャンとは少し違うのだろうか。ふと後ろを振り返ると、カレンチャンが自分のトレーナーと話していた。

「どうだいカレン、今日の僕もカッコイイだろ?」
「お兄ちゃん!!すっごくかっこいいよ〜!!!!」

──────面妖な。見なかったことにしてその場を去った。




9: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:56:16

放課後になり、ヒシミラクルといつも通りのトレーニングを行った。
パラレルワールドに飛ばされたということで不安だったが、トレーニングのメニュー、ヒシミラクルの性格や運動能力その他に、元の世界との差異はほとんど見られなかった。

「いや〜ミラ子はいつも変わらないでいてくれて、安心するよ」
「いきなりどうしたんですか?悩みがあるなら聞きますけど、揉んだ分は奢ってくださいね」

こっちの世界でも俺はミラ子のお腹を揉んでいるらしく、セクハラで解雇されることは無かった。俺を信じてよかった。
しかしすっかり忘れていた、自分は今捻挫しているのだ。普通のトレーナーなら、ウマ娘のトレーニングに物理的に干渉する事はあまり無い。しかし俺の場合、今の怪我ではヒシミラクルをプールに投げ込む事ができない。

「うーむ……片手で…いや足で行くか…」

プールサイドでブツブツと呟きながら悩み続ける。3分ほど悩んでふとプールの方へ意識を向けると、なんとヒシミラクルが泳いでいた。




10: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:57:26

「は?……え?」

一瞬呆気に取られた。慌てて、泳いでいるヒシミラクルの方へ走り寄った。

「プールサイドで走ったら危ないですよー」

「……ミラ子、お前どうした…?」

「どうしたって…トレーナーさんが何か考え込んでたので、いつものメニューを先に始めちゃってたんですけど。不味かったですか?」

なんということであろう。あのヒシミラクルが、自分から泳いでいる。何の抵抗も、葛藤も、苦しみも無く、ただそこで泳いでいた。

「ブラボー!!!!おお……ブラボー…!!!!!」





11: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)22:59:25

思わず飛び上がって拍手をしながら喜んでしまった。

ヒシミラクルはちょっと引いていた。周りで泳いでいた他のウマ娘やトレーナー達はドン引きしていた。
しかし、ヒシミラクルが泳ぐ。そうとなれば話は早い。

「よーし!二百五十メートルを三十本!それぞれクロール・背泳ぎ・バタフライで三セットずつ!終わったらバタ足三十分とウォーキングを十往復だ!!!!!!行け!ミラ子!!!」

その日のトレーニングは今までで一番捗ったかもしれない。

余談だが、トレーニングが終わってから彼女が「ミラ子って呼んでくれるんですね」と、少し恥ずかしそうに、嬉しそうに笑っていた。どうやらこっちの世界では違ったらしい。




12: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)23:00:17

三日後、約束通りにカレンチャンと落ち合った。
何やらお兄ちゃん☆カッコイイ☆最強と書かれた団扇を手入れしていたが、見なかった事にした。

「それじゃあいきますよー…えいっ!!」
目の前が真っ白になった。前の時のように宇宙のような空間を介さず、気がつくとプールサイドにいた。

「戻った…のか……?」

移動する前と場所が違う。あっちに行った時もそうだったが、そういえばカレンチャンにその事を尋ねたら、ほんのわずかな時間のズレが生じるけれど、十時間以上ズレる事はないので心配無いと言っていた。どうやらこっちの世界の俺は今、プールでヒシミラクルにトレーニングを付けていたらしい。

「トレーナーさん?ぼーっとしてどうしたんですか?」




13: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)23:01:15

後ろからヒシミラクルが話しかけてくる。

「ていうかさっきまでジャージじゃありませんでしたっけ?」

ふと頭に陰が過る。果たして、本当にここは俺が元いた世界なのか?

もし違ったら、またカレンチャンにお願いするのか?それで、また違ったら、また別の世界に行って───

それを、ずっと繰り返す事になるのだろうか?

「なんでもないよ。さあ、泳ごうか」
「え、嫌ですけど…」

ふっ、と思わず笑みが零れた。
「なんですか…?何で笑って…気持ち悪いですよ」




14: 名無しさん(仮) 2023/08/31(木)23:02:27

間違いない。紛れも無い、この世界だ。

「あー……ほっとした」

捻挫していない方の手を広げ、腕を突き出す。そのままヒシミラクルのお腹に当てる。

────発勁。武術における掌での殴打攻撃。正確には、自分の運動エネルギーを対象に作用させる中国拳法の技術の一つである。ヤエノムテキから教わったのは、相手をまったく傷付けずにただ『飛ばす』だけの技だ。実践するのは初めてだが───。

「うわー!!!!!」
大成功だ。ザッパーンと聴き慣れた音が響く。

「いきなり何がぼするんがぼか!!!!鬼!!!!悪魔!!!がぼがぼトレーナー!!!!!」
「うんうん」

やっぱりこれだ。俺のヒシミラクルはこうでないと。






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