【ウマ娘怪文書】ラモーヌと過ごした三年の中で、片時たりともレースのことを思わなかった日は無い。しかしだからと言って、365日24時間働き詰めだったわけじゃない。
2: 名無しさん(仮) 2023/10/28(土)17:30:23
「……ラモーヌ。どうして?」
「あら。私が自然に囲まれた余暇を過ごすのがおかしいと?」
正直なことを言うと、浮いている──ように見えて、服装はちゃんとこの時期のキャンプ場に相応しい防寒着だ。
……今気付いたが、少し離れた先にある薄緑色のテント。あの色はメジロのカラーリングではないか?
じっと見ていると、テントからアルダンが出て来て──目が合うと、彼女は小さく苦笑いをした。
「……ローストビーフ作ったんだけど、食べる?」
「ふふ、自信がお有りのようね?」
……まぁ、ソロキャンでなくなったにせよ楽しい時間であることには間違いないだろう。俺はラモーヌと焚き火を囲み、キャンプ料理に舌鼓を打ちながら、レースについて語ることにした。
3: 名無しさん(仮) 2023/10/28(土)17:30:39
──それから、また後日。
相変わらずレースとラモーヌについてばかり考える日々を過ごしていた俺だが、だからと言って、365日24時間働き詰めだったわけじゃない。同僚のトレーナー達と飲みに行ったり、暇な時には一人で遊びに行くこともある。
今日だってそうだ。今、俺の目の前にあるのは出走届でもトレーナー室の机でもない。
華々しいキャスト達が織りなす夢のパレード。夢の国は大人が一人で足を踏み入れても受け入れてくれる。以前URAの職員から貰ったチケットの日付がギリギリだったことに気付いて、慌てて訪れたのだ。
「……すごいなぁ」
パレードを前に、ただ浮かれている自分がいる。今、こうして一人で夢の国にいる間は俺はメジロラモーヌのトレーナーではない。ただ、夢見る一人のレースバカだ──
「あら、おひとり様なのね」
──一人の時間、終了。
4: 名無しさん(仮) 2023/10/28(土)17:30:54
「……ラモーヌ。どうして?」
「あら。私が夢を見せる場には不釣り合いとでも?」
そんなことはない。むしろ多くの人が彼女に夢を見た。
……いや、しかし黒丸を三つ合わせたネズミのシルエットを模したサングラスをかけている彼女は馴染んでいるような不釣り合いなような、何とも言えない空気を醸し出している。お忍びで訪れたセレブ感。
少し戸惑っていると、ラモーヌの背後からひょっこりと顔を出して苦笑いするメジロアルダンと目があった。
「……ええっと、一緒に回る?」
「そうね。手を取ってくださる?」
……こうして、ラモーヌに夢の国を解説しながら隅から隅まで回る休日を過ごしたのだった。
5: 名無しさん(仮) 2023/10/28(土)17:31:11
──それから、また後日。
相変わらずレースとラモーヌについてばかり考える日々を過ごしていた俺だが、だからと言って、365日24時間働き詰めだったわけじゃない。同僚のトレーナー達と飲みに行ったり、暇な時には一人で遊びに行くこともある。
今日だってそうだ。今、俺の目の前にあるのは出走届でもトレーナー室の机でもない。
音を立てる波飛沫。揺れる足元。手には釣り竿。
今日は知り合いのトレーナーに誘われて船釣りに来た。兼ねてより興味もあったので二つ返事で誘いに乗った。
こうして釣り竿を握って一人海面と向き合う時間を過ごす今の俺はメジロラモーヌのトレーナーではない。ただ、海に挑む一人のレースバカだ──
「あら、釣れないのね」
──一人の時間、終了。
6: 名無しさん(仮) 2023/10/28(土)17:31:40
そんなバカな、と思い顔を上げるとすぐ側にクルーザー。白と緑でメジロのカラーリングを想起させる船が、波に揺られている。
呆気に取られて瞬きをしていると、中からメジロアルダンが苦笑いを浮かべて出て来た。
「ええと……」
「どうぞ、お好きになさって?」
向かいのクルーザーからじーっと見てくるラモーヌの視線を浴びる中、何とか何匹か魚を釣ることができた。後で新鮮な刺身にしてもらってラモーヌと一緒に食べた。
……まぁ、面食らったが楽しい一日を過ごせた……のだろう……。
7: 名無しさん(仮) 2023/10/28(土)17:31:59
──最近の姉様は、いつもに増して行動力があるような。
「……行くわよ」
「はい」
姉様が唐突に屋敷を出るのは珍しくないけれど、キャンプ場に船釣り、夢の国。姉様のイメージからは少し離れた場所ばかり。
そして、いつも出掛けた先には──
(……もしかして、誘ってもらえなくて拗ねて……?)
ちらっと横目で伺った顔は、いつも微笑みを浮かべた姉様の顔。
そんなわけがない、と私は頭に浮かんだ考えを振り払った。
きっと、今日の行き先にもあのトレーナーさんがいるのだろうと思いながら──