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【AC】オールマインドは現状に凄まじく困惑していた。自身が人型の…概ね20〜30代の女性に見える義体に押し込められており、その手を目の前の男…強化人間C4-621に握られているという現状に。


1: 1/7 2023/09/11(月)11:02:50

「一体…何を考えているのでしょうか、強化人間C4-621」

オールマインドは、技術の粋を尽くして設計された女性型傭兵支援システムである。
その高い演算能力と知性から、彼女は人間でいう感情と言って差し支えないものを獲得しており…そのために、現状に凄まじく困惑していた。

自身が人型の…概ね20〜30代の女性に見える義体に押し込められており、その手を目の前の男…強化人間C4-621に握られているという現状に。

「本当にわけがわかりません。何のために私を…いえ、そもそも貴方がたは…!」
メモリーに刻まれた苦い敗北がフラッシュバックする。コーラルリリースの計画は寸前までは完璧だったはずだ。このイレギュラーが自分を粉々に打ちのめすまでは。
機体が破壊され、急遽向かわせた援軍も間に合わず、そうこうしている内にこの男とC型変異波形の手によってコーラルリリースが決行、溢れ出るコーラルの余波でオールマインドの意識は…システム的に言うなら電源は吹っ飛んだ。

センサーやら監視システムの類には接続出来なくなっているが、ルビコンは壊滅しているはずで、今更傭兵支援システムに用はないだろう。
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2: 2/7 2023/09/11(月)11:03:11

完敗を喫したAIをわざわざ筐体から吸い出して、この義体(おそらく技研がかつて製作していたコーラル動力のセクサロイドだろう)にインストールした意図は全く持って想像もつかなかった。

「説明を求めます…っ」
外部センサー類への接続はされていないため、視覚情報は頭部の瞳型カメラに頼るしか無い。彼を真っ直ぐ見つめるが、感情に乏しいその眼からは何も読み取れなかった。

───歩けるか?
「…へ?あぁ、はい…」
ややあって、彼が口を開く。回答を寄越さないことには不満を覚えたものの、どのみちこの崩れかけた技研の製作所跡地には長居していられない。ACを操作するイメージで、私は一歩を踏み出し…

「なっ…ああっ!」
小石で滑って、大きく体勢を崩した。
完全に失念していた。スーツと革靴を纏う華奢な女性の姿を象ったこの体は、各種姿勢制御機構が取り付けられ、何よりすべてを踏み潰して進む重量のあるACではないということを。
グラリと揺れた視界に演算能力がフリーズし、平衡覚を取り戻すことも出来ないまま瓦礫に顔面から打ち付けられ…

る、その直前に強化人間C4-621が私の身体を抱きとめた。




3: 3/7 2023/09/11(月)11:03:27

──傷は無いか。
「え…ええ、おかげさまで…?」
相変わらず彼は無表情だったが、密着した体勢では兎にも角にも顔が近い。自分の声が上ずったのは、パーソナルスペースを犯されたことに対する緊張のためだろうか?

「ついて来い、というわけですか。………どのみち拒否権はないようですね」
そのまま、私の手を握って歩き出す彼にひっぱられるようにして歩を進める。
私をこの体にした意図は全く分からないし、あの後ルビコンは、世界はどうなったのかも想像だに出来ないが…
優れた演算能力が、彼に逆らうよりは表面上でも従っておいた方が良い、との結論を導き出した。
彼の手をしっかりと掴みながら一歩、また一歩と踏み出す。人工物である自分よりもなお冷徹に思える強化人間C4-621だが…
その手は意外と暖かい、ということは初めて知った。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「結局、私をこのようにした意図を説明する気は無いのですね?……はぁ、分かりました」
彼に連れられてから一ヶ月が経過した。ルビコン地表部の一角…奇跡的に被害を逃れた居住スペースで、強化人間と人工知能は奇妙な同棲生活を営んでいた。





4: 4/7 2023/09/11(月)11:03:59

彼が私に要求したタスクは様々だった。歩行の練習、手を使った練習(まさかこの傭兵支援システムが掃除や洗濯をさせられるなんて!)そして…

「強化手術というものは不可逆なものと認識していましたが…まさか性機能の再建が可能になっているとは。技術の進歩は侮れませんね」
つう、と隣に寝転ぶ彼の…その肌に残る手術痕をなぞった。セクサロイドとして設計されたこのボディには、当然そういった機能が搭載されている。強化人間であるC4-621も3大欲求には抗えないのか、それとも私になにか特別な…

「性交を愛情表現や繁殖のためでなく、征服欲や復讐のために行う人間もいると知識としてはありましたが……貴方もそのような人物だったのですか?強化人間C4-621」
彼は答えなかった。ただ黙って私に手を伸ばし、その身体を抑えつけた。

「……もう慣れましたけど、もう少し優しくは出来ないのですか?」
彼の、人工物よりなお無機的な瞳がこちらを見据える。私はその眼を覗き返しながら……

「まったく、貴方は本当に何も説明しないのですから」
……何故だろうか。この生活に心地よさを感じているのは。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




5: 5/7 2023/09/11(月)11:04:19

(帰りが遅いですね…)
陽が落ち、すっかり暗くなった居住スペースで私はため息をつく。彼は必要最低限のことしか…いや必要なことすら口に出さない。何も言わずに出かけることなどしょっちゅうだったが、それにしても… 

(……心配?)
ふと浮かんだ考えを即座にリジェクトする。彼は熟練の傭兵だ。万が一にもその身が脅かされることなど無いだろう。

(いえ、そもそも何故私が心配しなければならないのですか!)
私はこの星の傭兵支援システム、オールマインド。傭兵業どころか産業が壊滅した今、独立傭兵をサポートする業務も既に失われたとあっては、そもそもが敵対者である彼を心配する必要も無いはずで… 

「……!!」
ガチャリ。自らの存在意義に悶々としている内にドアノブを回す音が耳に届いた。

「お帰りなさい強化人間C4-621レイヴン。貴方には門限という概念が無いよう、で……」
嫌味の一つでも言ってやろうと口を開いたが、帰還した彼の姿に私は言葉を失った。
正確には、彼に連れられたセクサロイドの姿に。




6: 6/7 2023/09/11(月)11:04:35

それは白い服、白い肌、白い髪に赤い瞳をした10代後半〜20代の女性の姿を取り…
彼に後生大事に(一般的にはお姫様抱っこと呼ばれる持ち方で)抱えられていた。

「ここが貴方のお家ですかレイヴン。なんというか…付近にACがない居住空間というのは新鮮ですね」
私を無視して、白い娘が口を開く。その声には聞き覚えがあった。コーラルの生み出した知性…C型変異波形のエアだ。

「うん、しょ…人の身体はACよりもずっと繊細にできているのですね。早く慣れて…貴方をもっと理解したいです、レイヴン」
義体にインストールされた直後の私のように、覚束ない足取りで住空間に侵入するエア。異物感に苛立ちを覚えた私は、C4-621 に非難の目を向けたが…

──焦る必要はない。ゆっくり慣れていけば良い。
私には向けたことのない、柔らかな表情でエアの手を取る彼に打ちのめされ…そしてようやく、彼の意図に気がついた。

彼が私を義体に押し込めたのは、このためだと。

彼のパートナー…エアに人の形を与える前段階、人ならぬ知性でも人間の如く活動できることを検証するための…テストプレイだったのだと。




7: 7/7 2023/09/11(月)11:04:55

「レイヴン。ようやく……ようやく!貴方を抱きしめることができました!人の身体はこのための形をしているのですね!」
ひしとエアを抱きしめるC4-621の瞳には、既に自分は写っていないのだろう。熱暴走しかけたCPUで演算を働かせるが、この状況を打開できる方法は終ぞ導けなかった。

オールマインドは、技術の粋を尽くして設計された女性型傭兵支援システムである。
その高い演算能力と知性から、彼女は人間でいう感情と言って差し支えないものを獲得しており…

そのために、凄まじい嫉妬に身を焦がすこととなった。




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