1： 名無しさん（仮） 2023/06/16(金)19:58:08

20cm、または200mm、あるいは0.2m。それは巷を賑わす魔性の数字
右を見れば賑やかな集団が意味深な会話で盛り上がり、左を見れば大人しそうなウマ娘がスマートフォンと定規を両手に何かを黙々と調べています
初夏の陽気にあてられてか、はたまた春先の誕生日ラッシュを終えてその意味について考え始めたか
とにかくこの不可思議な噂が学園中に広まるのも、もはや季節の風物詩と言えます
「ねえねえ、フラッシュさんは──」「あっ、ちょっとやめなよ」「あー…ごめんね、なんでもない！」
食堂で夕食の注文を待っていると、偶然居合わせたクラスメイト達に話しかけられました
おおかた"あの噂"についてでしょうが、未然にもう一人のクラスメイトに止められてしまいました
生来の硬い表情が表に出たのか、だいぶ打ち解けたとはいえ自分はまだ話しかけにくい相手のようです
真面目な留学生に妙な噂を振るなどもってのほか──おそらくそんな風に思われたのでしょう。しかしいざ聞かれてもどう答えるかは悩むところ
感情を隠すのも不器用なら嘘をつくのも苦手な性分とくれば、下手に誤魔化しも効かないでしょう

なぜなら私は、その答えの一つを知っているのですから

2： 名無しさん（仮） 2023/06/16(金)19:58:34

契りの痛みと引き換えに幸福の絶頂へと導かれた温泉旅行から早数か月
あれから十日と間を空けることなく見続けてきた"それ"の具体的な寸法など、いまさら知る必要もないはず
私には不要な噂に空気を読まず現実を提示するのも、楽しみに水を差すようでよくないでしょう
──などと思っていたのですが

明日の授業に備えて筆記具を確認していると、ふと手に取った定規が目に留まります
（…そういえば）
0から15までの目盛りが彫られたそれは、両端の余白を含めれば約16cm
それをペンケースに収めてもいくぶん余裕があり、そのケースは記憶にある"それ"よりも小ぶりに見えます
ということは、少なくとも"あれ"は16cmにこの余裕分を加えてさらに…
（…まったく、なにを考えているのでしょう）
思わず暴走しかけた思考をすんでのところで振り払い、半ば八つ当たりのようにペンケースを鞄に放り込みます
しかし翌朝、目に見える世界はさらに悪化していました

3： 名無しさん（仮） 2023/06/16(金)19:59:09

化粧水のボトル、食堂のドレッシング、自販機のペットボトル、装蹄用のハンマー
目に留まる"それらしい"あらゆるモノの大きさ、長さが気になって仕方がありません。しかも
「…最近靴合わないと思ったら右だけ22cmで〜…」「…ストライドで18cmって相当な差じゃん…」「『超特大！25cmホットドック限定登場！』だって。どうするー？…」
耳に入る会話ですら平常心を乱し、必死に耳を絞って緩みそうになる表情を抑える始末
その間にも頭の中では"それ"の記憶を身体尺で再現しようとしては、具体的な数字が浮かばず悶々とした気持ちだけが高まっていきます
（いったいどうしたものか、いっそ測らせてほしいと頼めば彼も拒絶はしないでしょう）
（しかし親密な仲とはいえパートナーのデリケートな部位を採寸するなど、まるで私が変態みたいではないですか）
卑猥な好奇心と抵抗する理性がせめぎ合い、すれ違う生徒たちが怯えるほど眉間に皴をよせた私は、週最後の授業を終えてトレーナー室に向かいました

4： 名無しさん（仮） 2023/06/16(金)19:59:37

果たしてその晩、いつものように最愛の担当バを迎えたトレーナーが見たものは、ベッドの上で顔を真っ赤にしながら両手で巻尺を構えた、美しい愛バの間抜けな姿だった

5： 名無しさん（主） 2023/06/16(金)20:00:08

さて無事に当初の目的を果たした私は、平穏無事な生活を取り戻した──はずでした
「あっ定規忘れた！ ごめーん、フラッシュさん。借りてもいいかな？」
「ええ、どうぞ」
「ありがとー…って長っ！ フラッシュさん、いっつもそれ持ち歩いてるの？」
「そ、そうですね…長いと便利、なので…」
「？ へー、さっすがー」
不自然な位置にテープの貼られた30cm定規は、先日購買で購入したもの
滑り止めと言い張るその印を見るたびに、己の未熟さと欲深さ、そして仄かな優越感を覚えずにはいられません
（まったく、噂に流されるなんて私もまだまだですね…）
そんな反省の念を浮かべながらも、心の内では今度の週末のことを考えていました

12： 名無しさん（仮） 2023/06/16(金)20:04:29

>>2
>契りの痛みと引き換えに幸福の絶頂へと導かれた温泉旅行から早数か月
在学中にやることやってんじゃねえ

6： 名無しさん（仮） 2023/06/16(金)20:01:44

>>3
>耳に入る会話ですら平常心を乱し、必死に耳を絞って緩みそうになる表情を抑える始末
スイッチの入った男子中学生かよ