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【ウマ娘怪文書】ウマ娘の中には稀に不思議な夢を見る者がいるという。自分のものではない誰かの記憶――それを夢に見ることがあるらしい


1: 名無しさん(仮) 2023/06/27(火)22:47:35

ウマ娘の中には稀に不思議な夢を見る者がいるという。
自分のものではない誰かの記憶――それを夢に見ることがあるらしい。
その記憶はウマ娘が生まれる時に授かるウマソウルに宿るものであるのだとか、まことしやかに言い伝えられていたりする。
しかし、実際のところを知る者は誰もおらず、この現象の研究もそれほど進んでいない。
それに、その記憶は大抵がかなり断片的であり、内容を正確に覚えている者も少ない。周期はバラバラだが何度も繰り返して見るのでそうだとわかるだけで、そうでなければ単なる夢と大した違いもない。
故に、この現象が本人に悪影響を及ぼすことも稀であるので、特に問題視されてはいないのが現状だった。
記憶の夢を見ても大体のウマ娘は気にしない。少し変わった夢を不定期に見るくらいで、心身に異常が生じるようなこともない。
みんなウマ娘にはそういうこともあるのだと割り切って生きているし、世の中も回っている。
それで何か大きな問題が起こったという話も聞かないので、恐らくそれなりに正しい向き合い方ではあるのだろう。

グラスワンダーも、そんな不思議な夢を見てしまうタイプのウマ娘だった。




2: 名無しさん(仮) 2023/06/27(火)22:47:58

ただし、彼女の場合は少し変わっていた。
いや、変わっているというより、夢の深度が他のウマ娘よりも少しばかり深いようだった。
内容を正確には覚えていない方が大多数の中で、グラスワンダーには割合はっきりとその夢の記憶が起きてからも残っていた。
なので、ある時期からそれを見ている時にはすぐに夢の中で気づくようになった。

……ああ、またあの夢だ。

そして、意識を保ったまま、グラスワンダーはその夢を傍観することになる。
魂に宿っているとされる、自分ではない誰かの記憶を。
だが、それでも夢の中で意識を保ち続けることは難しい。
だから、グラスワンダーの意識はいつしか記憶の主と緩やかに溶け合い、混ざり合っていく。
グラスワンダーは、「――――」になる。




3: 名無しさん(仮) 2023/06/27(火)22:48:17

記憶の主は、自分とよく似た姿のウマ娘であった。
そのウマ娘は走ることが大好きで。レースが大好きで。勝つことが大好きで。
何より、トレーナーが大好きだった。
自分の担当トレーナー。付きっきりで面倒を見てくれて、指導してくれて、勝利に導いてくれる人。
私を誰より速く走れるようにしてくれた人。私を一人前にしてくれた人。
そして何より、私を優しく、慈しむように撫でてくれる人。
私は彼が大好きだった。彼の喜ぶ顔が見たくて、自分以上に彼のために走っていたと言っても間違いではなかった。
彼に走りぶりを褒められて、彼と勝利を分かち合えることが何よりも幸せだった。
だけど、幸せな時間はそう長くは続かなかった。





4: 名無しさん(仮) 2023/06/27(火)22:48:35

順調だったキャリアの途中で私は怪我をした。小さな骨折。
それは小さくとも私の調子を落とし、走りを翳らせるには十分だった。
走るのをやめて、しばらく休むことになった。
その間にトレーナーは他の子へ注力することとなった。
私と同期の、ライバルと言える関係の子に。
私に注がれるはずだった愛情と熱意が、全てその子に奪われていく。
その光景を私はずっと目の前で見せられた。
悔しかった。悲しかった。苦しかった。涙を流し、この運命を憎んだ。
けれど、私はそれ以上に怖かった。




5: 名無しさん(仮) 2023/06/27(火)22:48:54

このまま彼に担当を降りてしまわれるんじゃないか。彼に見捨てられてしまうんじゃないだろうか。
そんな考えが何度も頭を過ぎり、怖くてたまらなかった。
彼が同時に担当していた私のライバルは、彼の指導の下で目覚ましい活躍を見せていた。私に勝るとも劣らない、煌めくような才能を、強さを誇っていた。
そのライバルに自分が負けているとは思わなかった。けれど、もしもこのまま怪我が治らなかったら? 調子が戻らなかったら?
そうしたらトレーナーは私ではなく、あの子の方を選ぶのではないだろうか。
私から、離れていってしまうんじゃないだろうか。
私はそんな恐怖に取り憑かれて、休養期間をずっと怯えて過ごしていた。
そのせいか怪我を完治させレースに復帰しても調子が戻らない日々が続いた。焦りと恐怖で空回りしていた。




6: 名無しさん(仮) 2023/06/27(火)22:49:14

そして、遂にそのライバルと私が同じレースで直接対決する機会が訪れた。訪れてしまった。
そのレースに際し、担当トレーナーはいよいよどちらかを選ばなければならない。
私は自分が選ばれるとは到底思えなかった。周囲もそう思っていたのだろう。そんな雰囲気が漂っていた。
何故なら、ライバルのあの子はますます上り調子、飛ぶ鳥をも落とす勢いだったからだ。片や私は復調の兆しも見えない、かなり厳しい状態だった。
トレーナーとしてどちらを優先し、選ぶべきかはまさしく明白。
自分自身、半ば諦めていた。私が選ばれることはないだろうと。それが彼にとって正しい選択であることもわかっていた。
なのに――。
驚くべきことに、彼は私を選んでくれた。こんなにも弱り果て、不甲斐ない私の方を。




7: 名無しさん(仮) 2023/06/27(火)22:49:34

私は歓喜した。奇跡が起きたのだと思った。天にも昇るような心地だった。
しかし、それも束の間。私はすぐに一転、地に叩き落とされる。
ライバルの子はトレーナーに抗議していた。どうして自分を選ばないのかと。
当然だ。私があの子でもそうしただろう。納得できるはずがない。
それに対してトレーナーはその子を優しく宥めながら、穏やかにこう告げていた。

「君は、もう僕がいなくても十分に強い。だから、大丈夫」

それを聞いて、私は一瞬目の前が真っ暗になった。血の気が引き、浮かれていた心は即座に凍り付いた。
そして、思う。納得する。

ああ、そうなんだ。私は弱いから選ばれたんだ。選ばれて、しまったんだ。




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