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【ミリマス】野々原茜「今は昔、プロちゃんというものありけり」 (48)(完)


8: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 21:49:31.71:+2A2IV6OO (8/48)

ウチに来た当初から同期の中でも高い水準でレッスンをこなすし、出たオーディションは連戦連勝。今日も彼女が出た番組は大成功に終わった。番組のディレクターからはまたよろしく頼むと太鼓判まで押されてしまった。

「これは茜ちゃんがトップアイドルになる日も近い!でしょ?プロちゃん?」

「調子に乗るな新人」

「ニャッ!?」

茜の脳天を目掛けて軽くチョップする。
ただ、本人がこんな調子だから俺への精神的負荷が高い。これが並のアイドルなら天狗になるなの一言で終わるのだが、実際にやってのけてしまうのだから余計にタチがわるい。




9: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 21:50:02.03:+2A2IV6OO (9/48)

「今日はもう終わりだから直帰でいいぞ。あ、来週―」

「新番組のオーディションだよね?任せといて、茜ちゃんにかかればそんなのちょちょいのちょい、だよ!」

「……お前、どこでオーディションの話知ったんだ?まだ伝えてなかったはずなんだが」

「あっ!?…え、えーっと、事務室のプロちゃんの机に置いてあった書類がチラッと目に入っちゃったんだよね」

「勝手に覗くなよ……」

なお、次の週のオーディションは余裕で合格した。




10: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 21:50:48.38:+2A2IV6OO (10/48)



☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「プロちゃん。茜ちゃんってかぐや姫みたいじゃない?」

着々と人気を積み上げ、トップアイドルの道を猛スピードで駆け上っていたある日のこと、オフだというのに事務所に顔を出した茜が唐突に言ってきた。

「なんだ、藪から棒に」

「ほらほら、かぐや姫って竹藪の中でおじいさんと出会ってから世間を魅了するような超絶美女になったでしょ?だから茜ちゃんみたいだなあって」

「俺が竹取の翁って言いたいのか」

「そういうこと!―竹取の翁、プロちゃんとそれはそれは運命的な出会いをした茜ちゃんは、真っ直ぐにスターダムを駆け上り、全世界を魅了する超絶美少女アイドルとなるのだった…!!」

無駄に芝居がかった身振り手振りで茜は言う。表現力レッスンの賜物だな。





11: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 21:51:20.12:+2A2IV6OO (11/48)

「そういうことなら、そのかぐや姫様には求婚状が届いているぞ」

そう言って俺は引き出しから書類を取り出した。

「…引き抜き?茜ちゃんが?」

ああ。と答えて茜に書類を渡す。

「トップアイドル街道まっしぐら、新進気鋭の新人アイドル様が喉から手が出るほどほしいらしい」

「えっ、ここって結構大手の事務所でしょ?」

着々と、あるいは傍から見れば異常なほどの猛スピードでトップアイドルへの道を駆け上っていく茜はファンだけではなく、業界関係者にも目をつけられるようになってしまった。
もちろん、だからといって強引な引き抜きはご法度に決まっているし、先輩アイドルたちのおかげとはいえ、業界でも中堅くらいの立場にいる765プロの新人アイドルをいきなり引き抜くなんて普通に考えればできるわけのない話だ。しかし、そんなことは承知の上でも引き抜きたいと考えるところが出てくるほど、野々原茜という存在はいまやこの業界ではとても大きいものらしい。




12: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 21:51:57.37:+2A2IV6OO (12/48)

「茜、一応確認するけどな―」

「プロちゃん、もしかして茜ちゃんのこと信用してない?」

「あー。いや、そういうわけじゃないんだがな…」

ジドっとした目で茜が見つめてくる。

「茜の活躍はすごいと思ってるよ。だから茜にはこのまま765プロにいて俺と一緒にトップアイドルを目指してほしいと思ってる。だけどな、それとは別に茜をトップアイドルにしたいならもっと力のある事務所にいってほうがいいのかもしれないとも思ってる」

今回茜に引き抜きの話を持ち掛けてきた事務所の中にはウチよりも力のある事務所も混ざっている。
よりはやくトップアイドルに近づきたいのなら、うちよりも力のある事務所に移ったほうがいいのだろう。何より―

「実際、今の茜の結果は茜自身によるもののほうが大きいと俺は思っている。だから茜自身の力が伸ばせる場所がほかにもあるんじゃないか?」




13: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 21:52:34.75:+2A2IV6OO (13/48)

と俺は思っている。だから茜自身の力が伸ばせる場所がほかにもあるんじゃないか?」

「……あのね、プロちゃん。確かに茜ちゃんはトップアイドルを目指してるよ?けどね、もし茜ちゃんがトップアイドルになったとしても、プロちゃんと一緒じゃないと意味がないんだよ?だから移籍なんてするわけがないよ」

「茜……」

「……だって、もしよその事務所に行って茜ちゃん人形の販売を許してくれなかったらどーするの!?人類にとって損失だよ!?」

「……ウチも許した覚えはないんだけどな」

そう言って茜はどこに隠し持っていたのかまだ見たことのない茜ちゃん人形を取り出して見せてきた。というか、また勝手に作ったのか。
ちょっとジーンときてしまったが、そのあとの言葉のせいですぐに引っ込んでしまった。
いや、でもこれも茜らしくはあるか。気づけば、俺の不安も彼女の手によって綺麗さっぱり無くなっていた。こういうところはやっぱりこいつの良さなんだよな。

ーだから俺はあの時彼女をスカウトしたのだろう。




14: ◆OtiAGlay2E:2023/04/20(木) 21:53:06.58:+2A2IV6OO (14/48)

「とにかく!茜ちゃんは移籍する気なんてこれっぽっちもないからね!」

「わかったよ、ありがとう。あとはこっちで断っておくから」

「いっそ難題でも出してみる?珍しいお宝持ってきてよ!とか?」

「悪いが無駄に敵はつくりたくないんだ。丁重にお断りするだけにしよう」

後日、引き抜きの話を持ちかけてきたプロダクションには茜の移籍条件をたんまりと盛り込んだ返事を出し、やんわりとお引き取りを願った。
向こうも無理は承知の上だったのだろう。しばらくすると、そういった類の話は徐々に減っていき、その間にも茜はぐんぐんと実力をつけていった。




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