【ウマ娘怪文書】夢というものは、見ている最中は不条理な展開も自然と受け入れるもので、見終わってからあれはすべて夢だったとわかるものだ。夢の中で、僕はアルダンと話している僕を見ていた
2: 名無しさん(仮) 2023/03/22(水)20:21:21
プールから上がるアルダンにスポーツドリンクを渡す。いつもと変わらず礼を言い受け取ると塩分を補給する彼女。こくこくと動く喉を見ながらも僕は先日のことばかり考えていた。
「ア、アルダン…あの…この前のあれ……」
「わかってます。そんなに楽しみなんですか?ふふ…」
遊びが待ちきれない子供をあやすように笑いながら、ドリンクを僕に返し濡れた体を拭きに戻るアルダン。なんと言っていいやらわからず、困惑し彼女を引き止めることは出来なかった。
あれは夢ではなかったのだろうか。アルダンは僕に何かをお願いされたのだろうか。僕はそんなお願いをしたことはない。僕は二重人格にでもなってしまったのか、はたまた僕の偽物か。気が変になりそうだ。
アルダンは何も疑問に思うこともなく、すべてわかっているとだけ。この状況に疑問を感じているのは僕だけか。拭いきれない違和感と言いようのない不安に胸が締め付けられる。
3: 名無しさん(仮) 2023/03/22(水)20:21:31
あれ、は突然やってきた。夕方までトレーナー室にいたことは覚えている。トレーニングに付き合い疲れた体のまま来週の施設の予約申請を終わらせ安堵して、それから……。
目が覚めれば僕は仮眠室のベッドに仰向けで寝転がっていた。おかしな点といえば、覆いかぶさるようにベッドに手をついて、僕の顔を覗き込むアルダンくらい。
目を覚ました僕と視線があえば、にっこり笑いかける彼女。そのふわりと動く髪の香りにまどろみの世界に引き戻されそうなところをなんとか堪える。
彼女を優しく体の上からどかそうと手を挙げれば、うっかり制服の上からアルダンの柔らかな膨らみに押し込んでしまった。
「ごめん!」
慌てて手を引き戻す。アルダンは落ち着きのない子供でも見守るような慈愛に満ち溢れた笑顔だ。僕はそれが怖かった。
4: 名無しさん(仮) 2023/03/22(水)20:21:47
「ずっと寝顔を見ていました。今夜を待ち望んでいたのは私の方だったのかもしれません」
更に顔を近づけ、瞳と瞳が当たりそうな錯覚すらしてしまうほどの距離で怪しくささやく。
今から何が始まるのか想像はつかないこともないがハッキリとも確信が持てない。とりあえず今すぐ否定して逃げ出したい気分なのは間違いない。
「アルダン、離れて……こういうのバレたらまずいから……」
「それは、嫌だ、ということでしょうか?」
おかしなことを言う人だなと、困ったように人差し指を自分の口に当てて聞き返す彼女。嫌なわけないじゃないか、大好きな君がこんなに近いのに。
「嫌じゃない。けどダメなんだ…まだ……」
ほぼ本心の答えだったが、その返答はアルダンを喜ばせる結果となった。花の咲くような笑顔で一度体を起こすと、その細い両手でがっしりと僕の肩を掴みベッドに押し付けて言う。
「前にトレーナーさんは言いましたね。もし僕が抗うなら喜んでいるからもっとしろ、と」
5: 名無しさん(仮) 2023/03/22(水)20:21:57
病弱で繊細なアルダンだが、それはウマ娘の中で比較した際の話だ。僕なんかよりずっと力強いその膂力は、抵抗を観念させるのには十分であった。
主人に甘えて興奮する大型犬のように、尻尾をはち切れんばかりに振って彼女は僕に抱きつく。頬をすりすりと合わせ、アルダンの香りをたっぷりと僕に染み込ませるようなハグ。
「ここまで、ここまでにしよう」
「貴方は用意周到な人です。もし自分がそう言ったら唇を奪ってほしいと言いました」
夢の中の僕は、どれほど僕を追い詰めるようなことを彼女に言っているんだ。僕の唇はペ子供とアルダンに奪われてしまった。
「初めてだったのに」
「私もです」
自分のファーストキスより、アルダンの初めてがこんな僕であることにどこに向けていいやらわからない申し訳無さを感じる。
「きゅぃ、きゅぃい〜」
あたふたしている僕をよそに、アルダンは上機嫌だ。いつか聞かせてくれたシャチの鳴き声を耳元で披露し甘えてくるアルダン。
「ちょっと、それはずるいよ!」
こんな状況で言う言葉でもないが、その無意味な抵抗ですら再びの、さっきよりも長い吸い付くようなついばむようなキスで塞がれた。
6: オワリ 2023/03/22(水)20:22:12
『僕が固まってたらあの時のシャチの鳴き真似を聞かせて。あの日の君は可愛かった』
脳裏によぎるアルダンとの会話。いや僕はこんなこと知らない。言ってないはず。いや、言ったのか。
そうか、ハッキリわかった。二重人格でも、偽物でもなんでもない。あれは僕だった。アルダンにお願いしたのは本心の僕だった。
夢から覚めたように、今すべてがわかった。アルダンに話しかけていたのは僕だった。アルダンへの恋心を隠さない僕。それを見ていたのは、認めない夢の中の僕。
「ありがとう、アルダン」
「それも伺いましたね。もし自分がありがとうと言ったら……」
「覚えてくれてたんだ」
その先を望むには最早言葉は不要だった。夢というものは、見ている最中は不条理な展開でも、見終わってからあれはすべて夢だったとわかるものだ。
7: 名無しさん(仮) 2023/03/22(水)20:25:52
来た…性癖が露骨だからすぐわかる…