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勇者「用件を聞こうか・・・」 隠者「神に因らざる”命”を消して下され・・・」 (47)(完)


1: ◆IG18SUC7FQ:2023/03/15(水) 21:23:39.52:Rt4TKwq30 (1/45)

私は10年ほど前に勇者「用件を聞こうか・・・」シリーズ(ゴルゴ勇者)を書いた人とは別人です。
でも何だか自分にも書けそうかなと思い上がったので勝手ながら新作を作ってみました。


勇者「用件を聞こうか・・・」 隠者「神に因らざる”命”を消して下され・・・」


---「宗教」、それは人心に安寧をもたらし、生活に秩序を与える。
同じ神話を信じることで仲間意識が芽生え、そして社会が形成される。 
その聖典は行動の指針であり、法令の根源であり、人生の尺度と考えるものも多い。 

少なくともこの世界では、今のところは政治権力も「宗教」を司る「教団」を無視できない。 

あり得ないことであるが、もし聖典に明らかな矛盾が発見されれば、信ずべき規範が消え去ってしまう。 
そして教団の教えは零落して社会が崩壊してもおかしくはない---。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1678883018




2: ◆IG18SUC7FQ:2023/03/15(水) 21:25:48.45:Rt4TKwq30 (2/45)


――― 森の奥深く、隠者の庵

隠者 「これ、世話役、儂はこちらのお客様と大事な話がある。」

隠者 「まだ子供のお前に聞かせる話では無い。森で木の実を拾っておれい」

隠者 「それからこれな。今までのお礼じゃて。ご母堂の薬代にはなろうよ」

世話役 「え、こんなに? ありがとうございます。母も喜びます。」

隠者 「おうともさ。すぐに帰ってきては行かんぞ」

隠者 「さてさて・・・ 勇者よ・・・」

隠者 「自分で呼んでおいて何じゃが、お前さんは不思議な男よの」

隠者 「『人を殺すことなかれ』、儂が大主教の1人であった「教団」の教えよ」

隠者 「その教えなんぞどこ吹く風のお前さんに、邪悪の気配を感じぬ」

隠者 「人を見る目は確か、と、先の教団長様にも言われたんじゃが・・・」

勇者 「・・・品定めをするために俺を呼んだのか?」

隠者 「気を悪くせんでくれ。何しろ大仕事を頼むんじゃからな。」

隠者 「何しろ儂が・・・ 教団の教えに背かねばならなくなったんじゃからな・・・」




3: ◆IG18SUC7FQ:2023/03/15(水) 21:27:56.58:Rt4TKwq30 (3/45)

『産 声 を 聞 く も の』


PART 1  神ならざる人々

勇者 「用件を聞こうか・・・」 

隠者 「お前さんには無駄話かもしれんが、人を殺してはならんのは何でかの?」

隠者 「それは人命は「主神」の造りたもうたものだからよ。聖典にはそう書いてあるわい」

隠者 「主神のみが人命の創造主。よって枕を重ねても儂らの思い通りには行かぬこともある。」

隠者 「そして創造者の作品をその創造物たる我ら人間が壊すなどあってはならん、そういう理屈が生じる」

隠者 「じゃからいつの間にやらその辺におった野の獣、空の鳥、水の魚の命は奪っても構わんな」

隠者 「まあ本来は主神に捧ぐべきもの。人間は遠慮せねばならんが、の」

隠者 「といって人間も、他の人間の命を奪おうとするので仕方なく・・・ と言って、戦が無くならん」





4: ◆IG18SUC7FQ:2023/03/15(水) 21:28:25.71:Rt4TKwq30 (4/45)

隠者 「本当に儂らが主神様の創造物ならもっと出来が良いはずじゃが? 時々不安になるわいな」

勇者 「・・・・・」

隠者 「おおっと話がそれたわ」

隠者 「お前さん、「分派」を知っておるじゃろ?」

勇者 「教団内部の一派閥ということになっているが、聖典の解釈を巡って主流派と争い、独自の本拠地を山奥に築いた」

勇者 「一般的にはカルトと認識されているが、教育の行き届かない僻地では支持するものも多い」

勇者 「「大司教」を事実上のトップとする集団だ」

隠者 「その通り。よく知っておるな。主神が人命の創造主なら、人命を造ることで人は神になれるはず。」

隠者 「そんなおぞましい戯言を言っておる連中よ」

隠者 「ところが・・・・ それが戯言では無いとしたら・・・・?」





5: ◆IG18SUC7FQ:2023/03/15(水) 21:31:11.00:Rt4TKwq30 (5/45)

勇者 「ん?」

隠者 「教団は祈りしか知らぬ訳ではない。分派には間者を送ってある」

隠者 「その潜り込ませてあった間者が知らせてきよったわ! ついに甕から人が出てきた、と!」

隠者 「量産は時間の問題だ、と! 教団は蜂の巣をつついたようじゃて!」

隠者 「ついに、主神の手によらぬ人間がこの世に現れた・・・ これが世に知れたらどうなる?」

隠者 「人を殺してはならぬ理由が消えてしまいよった・・・ 倫理が失せた・・・ 今でさえ戦が無くならんのに・・・」

隠者 「人間では造れぬ故に人命は尊い! それなのに、人間が人命を造ってしまった・・・」

隠者 「人間でも作れるものを人間が壊して何が悪いのだ、そんな考えをどうやって否定する?」

隠者 「主神は儂らをそこまで高潔には造っておられぬ! 頼む、勇者、神に因らざる”命”を消して下され」

隠者 「そして作製者も、方法を知る者も、研究も、成果も、何から何まで全てを闇へ葬って下され」

隠者 「さもなくば、この社会は崩壊じゃ。人々は弱肉強食のケダモノどもに成り果ててしまう・・・」

隠者 「そんなことがあってはならんのだ!」




6: ◆IG18SUC7FQ:2023/03/15(水) 21:33:02.12:Rt4TKwq30 (6/45)

勇者 「・・・それは教団の依頼なのか? それともあんた個人の依頼か?」

隠者 「!」

隠者 「教団は関係ない! 儂個人の依頼じゃ! 主神の手によらずとも人命は人命・・・ 加えて背教者の大司教も人間として生きておる・・・」

隠者 「教団が人命を奪えと依頼するなどできようはずが無いではないか・・・ 儂は先日、儂自身を破門してもらった・・・」

隠者 「信徒としての儂はとうに消えておるのよ・・・」

勇者 「・・・わかった。やってみよう。」

隠者 「おお! 主神とお前さんに感謝するぞい! 報酬はこれ、足りるじゃろ」

勇者 「ああ、報酬に不足はない・・・ 結果は知らせなくても構わないだろう?」 

(ドアから出ていく)




7: ◆IG18SUC7FQ:2023/03/15(水) 21:33:41.99:Rt4TKwq30 (7/45)

・・・ ・・・

隠者 「結果は知らせなくても構わないだろう、か。お見通しのようじゃ」

隠者 「人造の命め・・・ ランサーとか言うらしいな、可哀想にの・・・」

隠者 「主神に祝福されていないたった1人の人間とは・・・ 死んだらどこへ行くのだ・・・」

隠者 「罪があるなら儂が背負ってやる・・・ この老いぼれがついて行ってやるで・・・」

    コトン

数十分後・・・・・

世話役 「ああー! 隠者様、隠者様ー! 誰か医者を呼んでくれーー!!!」 





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