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【ウマ娘怪文書】「やぁ子羊──じゃないか、もう君は立派なトレーナーだったね」21:00、女神像の前で──そんな簡素なLANEメッセージを送ってきた相手の名前を見かけた時は思わず目を見開いた物だ。


1: 名無しさん(仮) 2023/03/07(火)21:05:59

「やぁ子羊──じゃないか、もう君は立派なトレーナーだったね」

21:00、女神像の前で──そんな簡素なLANEメッセージを送ってきた相手の名前を見かけた時は思わず目を見開いた物だ。
ダーレーアラビアン。ウマ娘の指導に特化したAIである彼女が個人的な理由で俺を呼び出すとは。

「それで、要件は?」
「そう急かすなよ。モテないぞ?──なんて、君にはもうその必要もないか」
「?」

彼女が何を言いたいのか分からず、首を傾げていると──

「……決めたんだ。俺は、君の想いに応えよう」
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2: 名無しさん(仮) 2023/03/07(火)21:06:32

全身が温もりに包まれ、頬が柔らかく弾んだものに啄まれる感触。
仮想の世界の筈なのに感じる確かな彼女の存在感に、言葉も出せない。

「何度も何度も俺の叡智を求めて……そして、大事なGⅠレースの前には常に俺を呼んでくれた。君の声や眼差しは、俺の中に確かな架け橋として残された」
「──」
「はは、AIの俺がおかしいと思うかい? だとしたら、君が俺を狂わせたんだ」

ダーレーアラビアンは俺に抱き付いたまま、息を吹きかけるように耳元で囁いてくる。
自らが確かにここにいると、現実のものであると伝えるように、熱い吐息を吹きかけてくる──




3: 名無しさん(仮) 2023/03/07(火)21:07:11

「……はは! それじゃあ、また明日! よろしくな、恋人くん!……うん。悪くないな、こういうのも」

一頻り俺の体温や匂いを堪能して、満足したのかダーレーアラビアンは踵を返すと、とんと中空へと跳ねた。
そして目の前の女神像に吸い込まれるように、宙へ溶けるようにその姿を消して──ようやくそこで、彼女がAIであることを思い出した。
しかし身体に残る感触や匂いは確かに残っていて……果たしてこれは、VR空間から立ち去ったとしても残っているものなのだろうか。
しかし──

「……どうしよう……」

──勘違いされてる。思いっきり。





4: 名無しさん(仮) 2023/03/07(火)21:08:13

「ふふ……災難だったわね?」

立ち尽くしていると、女神像の影から声。この海のように穏やかな声音は──

「ゴ、ゴドルフィンバルブ……」
「自分の心にいつだって真っ直ぐ……だけど真っ直ぐ過ぎるのが彼女の悪い癖」
「え、えっと……もしかして、見てました? 実は……」
「勘違い、なのでしょう?」
「あ、はい。そうなんです……」
「わかっているわ。私からちゃんと伝えておきます」
「あ、ありがとうございま──」

「だって、あなたが本当に愛しているのは、私ですものね」

「──え?」




5: 名無しさん(仮) 2023/03/07(火)21:08:32

「ダーレーは勘違いをしているわ。自分こそが最も多く叡智を求められていると思っているけれど、それは間違い」
「あ、あの……?」
「授けられた叡智をどう活かすか──あなたが育て上げた子を見れば、私が伝えた技巧が最も多くレースの中で活かされているもの」

確かにゴドルフィンバルブから教えられたコーナリングの技術や息を入れるタイミングなどはレースにそのまま結び付いている。
しかし、だからといって他のAIよりも優先度が高いだとか、そういったことはないのだが──

「安心して。私はいつでも見守っているわ。いつでも、あなたのことを」

ゴドルフィンバルブが包み込むように俺の手を取る。
見開かれた両の瞳は凪いだ海の如く、真っ直ぐに俺を見つめ続けている──




6: 名無しさん(仮) 2023/03/07(火)21:08:48

ダーレーアラビアンとゴドルフィンバルブが立ち去り、一人三女神像の噴水に腰掛ける。

「……はぁ……」
「災難だったな」
「ば、バイアリーターク……」

すると、目の前には仁王立ちする影。顔を上げずとも、声の主が誰かはわかる。

「そう怯えた声を出すな。私はあの二人のように愚かな思い違いはしていない」
「そ、そうですか……じゃあ──」
「ああ、理解しているとも──お前が真に想いを寄せているのは、この私だということをな」
「──」




7: 名無しさん(仮) 2023/03/07(火)21:09:06

「私の記憶に最も深く焼き付いている。あの夏合宿で見せた少年のような顔を」
「え、えーっと、それは──」
「ダーレーアラビアンにもゴドルフィンバルブにも見せていないあの表情。私だけが記憶保存している」

確かに、合宿時にバイアリータークから授かった叡智を活かして非常に効率的なトレーニングをすることができた。
お陰で俺の担当の子は大きなレベルアップを遂げたし、大はしゃぎしたのは覚えている。

「……いやですね、それは、そういう意味じゃ、ぐっ!?」

バイアリータークの指が俺の唇をぐっと押し、言葉を遮られる。
そのまま、バイアリータークはその指で自分の唇を拭うようになぞり──

「わかっている。何も言うな。あの二人には私から厳しくいい伝えておくとも」




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