【ウマ娘怪文書】微睡みの中を彷徨っていた意識が、寒さを感じて浮かび上がっていく。物理的な寒さというだけではない。大切な温もりが腕の中から逃げてしまうと、心が喪失感を訴えてくる。
2: 名無しさん(仮) 2023/02/12(日)01:32:15
「こんなに早く?」
拗ねた調子を隠すような遠慮をする仲ではない。確かに昨日、明日は仕事があるからと聞いていたが、それにはまだ間があるはずだ。
何より、ほんのすこしでも一緒にいたいという想いを、彼女にも抱いていてほしいというささやかな我儘を我慢できるほど、休日の私は辛抱強くない。
「身体洗わないと。
…色々ぐしょぐしょだし」
参った。そう言われてしまうと、そうした張本人としては手を緩めざるを得なくなってしまう。けれど、それは彼女が悪いのだ。何度愛してあげても、いや、愛してあげるほど可愛らしく啼いてくれる、彼女の姿が。
3: 名無しさん(仮) 2023/02/12(日)01:32:33
いくら頭で自省しても、隙を突いて布団から出ようとする彼女を見ると、寂しくなって本能的に抱き寄せてしまう。きゃ、と、普段なら出さないような可愛らしい悲鳴まで聞かせてくれるのだから、その手を止められるはずもない。
私よりも少しだけ背が低い彼女の身体をすっぽりと腕の中に閉じ込めて、素肌同士が触れ合う瞬間が、私は大好きだった。私がその感触に酔っている度に、マルゼンの肌のほうがずっと綺麗だよ、と彼女は褒めてくれるけれど、そんなことは問題じゃない。
愛するひとの身体の感触を、自分の肌で直に感じる。その喜びを味わいたくて、私は貴女と身体を重ねるのだから。
4: 名無しさん(仮) 2023/02/12(日)01:32:53
口では抗議していても結局は優しく受け入れてくれる彼女に気をよくして、彼女の顎に指を這わせる。示し合わせたようにこちらに振り向いた彼女の唇は、やはり昨日と同じように柔らかかった。
「ん…んっ…
…んぅっ…!」
ああ、本当に可愛い。さっきまであんなに頑なだったのに、今はもう胸と脚の付け根に這わせた手を止めようとする力も弱々しい。くちづけをしたまま両方とも触ってあげたときは、唇の奥から声にならない声を出して何度も啼いてくれたっけ。
ああ、でも。
「送ってってあげる。
…だから、もうちょっと一緒にいましょう?」
今はまだ止めておこう。遅刻してしまうと怒る彼女もきっと可愛らしいけれど、私のために彼女がしてくれることを、他ならぬ私が邪魔をしてしまっては、きっと少し後悔するから。
5: 名無しさん(仮) 2023/02/12(日)01:33:38
抱くような素振りをしてからかって拗ねてしまった彼女が機嫌を直すまで、ゆるゆると抱きしめあっているうちに時間が過ぎてゆく。お互いに何も身に纏わない姿のまま、お互いの体温と布団の温もりで暖を取ることを覚えてしまっては、シャワーを浴びるために抜け出すことも億劫になる。
二度寝してしまいたい欲求に駆られるけれど、それではきっと寝坊するとわかっているから、眠ってしまわないようにぽつぽつと話を続ける。
「…いつ帰ってくるの?」
「夕方には戻りますって」
事も無げに彼女は言ってのけるけれど、そう聞かされる度に、私の心は情けなくも悲鳴を上げる。
さみしい。なんでいっしょにいてくれないの。
6: 名無しさん(仮) 2023/02/12(日)01:33:54
「…トレーナーちゃんのばか」
貴女と一緒にいると、どんどん自分が甘えん坊になっていくのがわかる。だって貴女はそんな私も、好きだって言ってくれるから。
だから、私も我儘になってしまうんだ。みんなのお姉さんじゃない、寂しがりやなひとりの女の子に。
「貴女のことずっと、ひとりじめしていたいのに。ずっとそばにいてほしいのに。
休みの日くらい、いいでしょ?散々やだやだって言ってたくせに、最近は休日出勤なんてしちゃって。そんなにお仕事が好きになっちゃったの?
…私のためって言われたら、止められないじゃない」
7: 名無しさん(仮) 2023/02/12(日)01:34:13
無理に期待なんて背負わなくたっていいって私に言ってくれたのに、休みを返上して自分はお仕事。そんなことするキャラじゃないって、自分が一番わかってるくせに。
きっと私が少しでも楽になれるように、努めてそうしてくれているのだろう。
「…だって。
私がマルゼンのためにしてあげられることなんて、このくらいしかないじゃん」
好き。大好き。
いつも冷静で格好いい貴女が、大切なもののために静かに情熱を燃やすのも。その想いを当の相手に知られるのが恥ずかしくて、隠そうといじらしく振る舞うのも。
何もかもが愛おしい。どれだけ口にしても、止められる気がしない。