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佐々木「僕はキミに安心感を与える置物じゃない」キョン「そんなつもりは……」 (15)(完)


1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/01/07(土) 22:46:24.36:l/iL5hNWO (1/13)

"敵でも味方でもない
互いのたちば無理して
返答に時間がかかって

きりがないのにさ"

ずっと真夜中でいいのに。-【猫リセット】

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2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/01/07(土) 22:51:17.22:l/iL5hNWO (2/13)

「ん? なんだい、キョン」

高校受験前の冬季講習。同じ塾に通っている中学の同級生の佐々木が隣の席に座って参考書とノートを広げ、塾講師の難解な呪文のような講義に耳を傾けているその端正に整った横顔を眺めていたらその視線に気づいて。

「キミもそろそろ本腰を入れて勉強するべきだと僕は思うけどね」

余所見するなと言外に忠告され黒板に視線を向けるもやはり俺の視線は佐々木に向かう。

「……なにか?」
「いや」

またもやすぐさまこちらの視線に気づいた佐々木に対して俺が弁明することもなく投げやりにノートに落書きを始めると嘆息して。

「終わったら話を聞くから勉強をしたまえ」
「ああ」

そんな攻防の末に俺は塾帰りに話をする時間を確保することが出来た達成感に高揚した。




3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/01/07(土) 22:53:18.62:l/iL5hNWO (3/13)

「それで? どうしたの」

ダウンやらマフラーやら手袋やらで着膨れした佐々木と帰路について間もなく訊ねられた俺は講義中に用意しておいた台詞を伝えた。

「あと少しで見納めだと思ってな」
「ああ……なるほど」

冬休みが終わったら高校受験が幕を開け、その後は登校頻度は落ちる。あれよあれよと卒業してしまえば、顔を合わせる機会も減る。

「まだ志望校の変更は間に合うと思うよ」
「人生で一度きりの高校生活が勉強漬けになるのは困る」
「一応、合格するつもりはあるようだね」

くつくつと喉の奥を鳴らし失笑する佐々木。
それくらい学力に差があることは自覚済み。
優秀な佐々木と同じ進路は俺には荷が重い。

「お前こそ志望校を変更する気はないのか」
「そうだね。それはとても魅力的なお誘いのように思えるけれどひとつ確認しておこう」

少し先を歩く佐々木の表情は伺い知れない。

「同じ高校に通ったとしてキミは何を望む」
「これと言って何も」
「つまりキミは現状維持を望んでるわけだ」

現状維持。言われてみればそうかも知れん。





4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/01/07(土) 22:55:21.51:l/iL5hNWO (4/13)

「それは僕にとっては不本意なんだよ」

先を歩く佐々木は現状維持を望んでいない。

「じゃあ、お前は何を望んでるんだ?」
「変化だよ」
「変化?」
「変化こそ生きる活力であり、この惑星に生まれた知的生命体である僕らの存在意義さ」

それはどうだろうね。少なくとも俺は今の自分を大きく変えようなんざ思っちゃいない。
ただもしも佐々木が変わるというのならばそれを観測するのはなかなかに面白そうだな。

「そうかよ」
「ああ。昨日と同じ今日、今日と同じ明日というものは僕らに一時の安心感を与えるがその先に待っているのは絶望と後悔しかない」

安心の積み重ねで崖っぷちに立たされるか。

「それで安心感を失っても構わないのか?」
「より良い未来が待っているなら構わない」

そんな保証がどこにある。一寸先も闇だろ。




5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/01/07(土) 22:57:37.73:l/iL5hNWO (5/13)

「やれやれ。キミは悲観的だね」

大袈裟に首を振りながら足を止めて振り返った佐々木の顔に張り付いた苦笑が先程の自分自身の発言に対する強がりにしか見えない。

「ものは考えようだよ。たとえば僕と違う高校に入学したキミはそこで素敵な彼女や友人に恵まれるかも知れない」

それはたしかにより良い未来かも知れない。

「だからキミにとってもこれでいいのさ」
「それはお前にとってもか?」
「え?」
「お前も、俺の居ない高校で素敵な彼氏や友達に囲まれて、それがより良い未来だって、本気でそう思っているのか?」

詰問すると佐々木は眉根を寄せて不機嫌に。

「僕の幸せを勝手に決めないで貰おうか」
「その台詞は、そのままそっくり返すぜ」

別に喧嘩するつもりはない。呆れただけだ。

「なあ、佐々木。もしも変な気を回して進路を別にしようってんなら俺は……」
「……僕の気も知らない癖に」
「は?」
「言いたい放題好き勝手言わないでくれよ」

喧嘩する気がないのは俺だけだったらしい。




6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/01/07(土) 23:00:12.99:l/iL5hNWO (6/13)

「キョンは自覚ないようだけど、周りから見て僕らはかなり親密に見えているらしいよ」

自覚がないわけではなく気にしてないのだ。

「この前なんて女子の友達にもうキスしたかなどと聞かれてしまったよ。おかしな話だよね。だって僕らは手も繋いだことないのに」
「佐々木……」
「この先もずっと未来永劫、僕らの関係は変わることなく停滞し続ける。時を経て今よりも親密となったとしても根本は変わらない」

だってそれがキミの望みなのだからと囁く。

「僕はキミに安心感を与える置物じゃない」
「そんなつもりは……」
「ならどんなつもりで僕と同じ高校に通いたいって言ったの?」

こちらを見つめる佐々木の瞳は真剣で、切実で。まるで縋っているようで。そこで俺はようやく期待されているのだと悟り、焦った。

「ねえ……キョン」

返答に窮する俺を見て諦めたように嘲笑い。

「僕の望む答えが出せない癖に、キミが望む答えを僕に対して望むのはフェアじゃない」

これまで積み上げた関係性が崩壊していく。




7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/01/07(土) 23:02:25.94:l/iL5hNWO (7/13)

「やれやれ、だね」

完全論破したことで佐々木は溜飲を下げて。

「泣きそうだね、キョン。そう言えば僕はキミの泣き顔を見たことがなかった。喧嘩らしい喧嘩もこれが初めてだ。見納めが泣き顔というのはなんとも切ないが、文学的かもね」

くつくつと笑って毒を吐くことで、俺の罪悪感を減らそうという魂胆は見え透いている。
文学的だからどうしたというのだ。くそっ。

「佐々木」
「まだなにか?」
「講義中、俺はずっとお前の横顔を見てた」
「それが?」

佐々木の顔色くらいわかる。友達だからな。

「お前、ずっとおしっこを我慢してるだろ」
「っ……!?」
「ちなみにそろそろ限界寸前だ」
「キョン、知っててキミは……!」

まさか、用を足さずに帰るとは思わなんだ。




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