【ウマ娘怪文書】『人は自分で選んだものに思い入れを持つものです』連休に家族と旅行へ行っていたジャーニーが帰ってきた。彼女は鞄からお土産を取り出すと机の上に広げ、異国の話を聞かせてくれた
1: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)21:24:14 0
『人は自分で選んだものに思い入れを持つものです』
連休に家族と旅行へ行っていたジャーニーが帰ってきた。彼女は鞄からお土産を取り出すと机の上に広げ、異国の話を聞かせてくれた。
目の前に並べられたのはラッピングされたコーヒー豆の入った瓶と、同じくラッピングされた小さな小箱。このどちらかを僕にお土産としてくれると言う。
親戚友人そして僕へのお土産に同じものを買い揃えるよりは、様々な一品物を買ってきて自分で選んでもらうという、彼女なりの気遣いだそうだ。
確かに、申し訳ない話ではあるがお土産で貰ったものがアレルギーなんかで食べられない場合どちらも悲しい思いをしてしまう。
それよりもこうやっていくつか自分が良いと思ったものを買っておいて選んで貰う方が、なんだかゲームみたいで面白いというのはわかる。
「この小箱には何が?」
「ふふ、開けてみてのお楽しみです。ですがご安心ください、貴方を想って選びました」
2: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)21:24:28 0
片方はリボンが巻かれ、中の豆が見えている高級感のある瓶。さほど詳しくない僕でも、その国の高級品か特産品であるというのは雰囲気でわかった。
もう片方は完全に中身のわからない小箱。小さく、とても軽い。僕の心の中は既に決まっていた。
「こっちを貰うよ」
選んだのは小箱。実はジャーニーにも話していないことだが、最近カフェインレス生活を始めたところだったのだ。
あの豆はそんな僕が頂くよりは、しっかりコーヒーを好んで楽しむ人の元に行くべきだと判断した。ジャーニーはにっこり笑うと瓶を鞄に仕舞い込んだ。
「どうぞ開けてみてください」
言われるままラッピングを解いて小箱を開けると、中には見事な金細工の指輪が鎮座していた。思わず、背筋が凍りつく。
「それはセータと言う、その国独特の加工技術をあしらったリングです。絹を意味するその名通り、緻密な彫りがリング全体に施されているのがおわかりになられますか。是非とも、職人が受け継いできた技術の歴史をトレーナーさんにもプレゼントしたいと思い、用意しました」
3: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)21:25:02 0
ジャーニーが指輪の説明をしてくれているが、うまく咀嚼出来た気がしない。僕の頭はこんな高そうなものを、学生から貰っていいのかと躊躇う気持ちでいっぱいだった。
しかし既に購入され貴方のために用意したという指輪を断る事もできず、結局僕は震える手で指輪を慎重に小箱から取り出し、人差し指に嵌めてみた。
「薬指ですよ」
人差し指には若干小さいその指輪を、言われるまま薬指に嵌め直して見ればすっぽりと収まった。
「ありがとう、でもこんな高いもの悪いよ」
「お気に召しませんでしたでしょうか?」
「いや、そういう意味じゃなくて…でも何かお返しさせてもらわないと気が済まないよ」
「では、いつかトレーナーさんが旅に出た時に、私にお土産をください。それでどうでしょうか」
お礼がなくともお土産は渡すだろうから、それで平等とはとても思えなかったが、これ以上ジャーニーを困らせてせっかくお土産を用意してくれた彼女の気分を悪くしたくなかった僕は、結局お土産の約束を交わしたのだった。
4: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)21:25:18 0
そんなやり取りをしたのが少し前のこと。その日、僕は親戚の結婚式に出席するため地元に帰省していた。翌日にはジャーニーと会う約束をしていたので日帰りの予定である。
行きと帰りの新幹線は、「どうせ使いませんから」とのことでジャーニーが持っていた期限ギリギリのフリーパスを利用させてもらった。何から何まで助けられてばかりで、先の指輪も合わせて一体どんな高級なお土産を用意すればいいのかわからない。
駅までのタクシーを待つ間、腕時計を見て思案する。ここから駅までタクシーで30分、帰りの便まであと1時間。途中、地元で一番大きな百貨店に寄ってお土産を選ぶ時間は余裕を持っても15分はある。
タクシーに乗り込んだ僕は、運転手に百貨店までお願いすると、ジャーニーに贈るお土産を考え始めた。高級なものをあげたいが、学生相手なのだからよく考えないといけない。万年筆なんかいいだろうか。
百貨店に着くと、運転手にすぐ戻る旨を伝え、急いでお土産を物色する。しかし、閉店時間間近の店内には、お土産コーナーはほとんど商品が残っていなかった。
5: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)21:25:52 0
メロンか何かくらいあるかと思っていたが、当然青果物は早いうちに放出し切っている。見つかるものと言えば、男物の腕時計や地元のTシャツなど、およそ相応しくないものばかり。
出発時刻まであと10分、心臓がバクバク高鳴り緊張で喉が渇く。当然この帰省はジャーニーも知るところなので、きっと僕がお土産を用意しなかったら彼女は傷つくだろう。絶対にそれは出来なかった。
ふと、目に止まったのがジュエリー店。自分でもいけない考えを起こしていると思いつつも、見てみるだけと言い聞かせながら足はそちらに向かっていた。ガラスケースの中のイヤリングを見る。だめだ、安すぎる。彼女のくれた指輪に釣り合わない。
「プレゼントでしょうか?」
脂汗を流しながら食い入るようにケースを見ていると、店員が話しかけてきた。
6: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)21:26:04 0
「ええ…まあ…」
「女性ですか?」
「はい……」
女性と聞くと店員は僕を店の一角に案内する。そこにはきれいな指輪が並べられていた。値段も高く、指輪のお礼にぴったりなくらい。
「お相手のお指のサイズはご存知でしょうか」
もうここまで来ると運命としか言いようがない。僕は勝負服の都合、ジャーニーの指のサイズまで把握しているのだ。
7: 名無しさん(仮) 2025/05/19(月)21:26:31 0
「ジャーニー、これこの前地元に行ったときのお土産なんだけど……」
恐る恐る小箱を取り出して彼女に見せる。ジャーニーが目を輝かせて開けると、そこには僕の選んだ指輪が収まっていた。
「ありがとうございます。嬉しいです、本当に」
彼女は早速指輪を左手薬指に嵌めると、光にかざしてそれを眺めていた。
「君の贈ってくれた指輪よりはずっと安物だけど……」
「いえ、値段ではなく、気持ちが嬉しいのです。それに、これで私達、お揃いではないですか」
ジャーニーが僕の左手を取ると、やはり同じように、薬指には贈られた指輪が。
きっとこれは運命なのだろう。訪れた百貨店で彼女に相応しい贈り物は指輪だけで、僕は彼女の指のサイズを把握していて、僕が選んだ。
なんだかとてつもないことをしてしまった気がするが、不思議と後悔はなく、むしろ満足感すらあった。指輪を喜んでくれている彼女がいるんだから、最高じゃないか。