【ウマ娘怪文書】春。裏切りの季節。学園内では様々な裏切りが芽生えようとしていた
1: 名無しさん(仮) 2025/04/10(木)22:28:17 0
春。裏切りの季節。
学園内では様々な裏切りが芽生えようとしていた。
「エルのこと好きだって言ってくれてたのに……あれも全部嘘だったんデスか!」
「ああ、完全なビジネスだ」
ぐうっと、エルの顔が歪む。わなわなと握りこんだ拳が打ち付けられる。
「世界最強を目指すなんて、夢物語だと笑ってたんデスね!?」
「笑ってたよ。世界最強とか言うやつ、いまどき本当にいたんだってな」
ぎぎぎ……歯を食いしばる音がこちらまで聞こえてきそうだ。
2: 名無しさん(仮) 2025/04/10(木)22:28:42 0
多様化の時代、ついに人類はNTRという倒錯した性的嗜好に到達した。
同時に、ウマ娘の間でも"裏切り"という新たなプレイが流行するようになった。
絶大な信頼を寄せるトレーナーからの圧倒的な裏切り。これこそがウマ娘の快楽中枢を貫く銀の弾丸となったのである。
今、俺の手には「2025年版裏切りルールブック―超級者編―」と書かれたペラ一枚が握られている。
「徹底的に、残酷に、情け容赦なく裏切ること。担当が何を言っても絶対に耳を貸さないこと」
一行しかない簡潔なロールプレイの指示。
俺は自分の意思を殺し、かつてない背信行為へと身を投じることになった。
3: 名無しさん(仮) 2025/04/10(木)22:29:03 0
「素顔を見せないエルのことも、陰で馬鹿にしていたっていうんデスか!」
「内心思っていたよ。マスクが本体でエルはおまけなんだってな」
エルの顔が真っ赤に染まった。立ち上る蒸気が見えるようだ。
ひとしきり地団駄を踏んだ後、ぐぬぬぬと声を殺して自分と格闘するエル。
すると何を思ったか、口の端をつり上げて不気味に笑い始めた。
「ふ、ふふ、ふふふ……でも、でも……本当は?」
「本当は?」
「本当は、そんなエルのことが好きになっちゃったんデスよね? エルの情熱にほだされてしまったんデスよね?」
? どういうことだろう。
4: 名無しさん(仮) 2025/04/10(木)22:29:25 0
「わかりますよ。最初はビジネスだった。エルを利用するつもりだった。でも、エルの心意気に負けて、次第に心を開くようになって――。ふふ、後は言う必要もないデスよね?」
なるほど、エルの目論見がわかってきた。
エルは「裏切りの裏切り」を求めているのだ。
当初は打算的な関係だった。しかし、エルのひたむきな姿勢にだんだんと感化されていき、やがて本当のパートナーとして認めるようになる。「裏切りの裏切り」だ。
ルールブックに頼るくらい設定を丸投げにしていたエルだったが、本心ではこういう結末を求めているらしい。
だが、「担当が何を言っても絶対に耳を貸さないこと」と書いてある……。
「そんなわけないだろ。馬鹿馬鹿しい」
「ケッ!? と、トレーナーさん!?」
5: 名無しさん(仮) 2025/04/10(木)22:29:48 0
「アニメや漫画じゃあるまいに、そんな都合のいいストーリーが通用するか」
「そんな……! でも、一緒にマスクを買ったりしてくれたじゃないデスか!」
「ああ、あのマスクね。今はどこにやったっけな……」
「まさか……まさか捨てたんデスか!? 思い出のマスクを……!」
もちろん、大切に自宅の棚に飾ってある。しかしここではあえて言わないことにした。
「ジョークですよね? トレーナーさん、ぜんぶ……ぜんぶ演技なんデスよね?」
沈黙は金。無慈悲な裏切りを敢行する。
「そ、そうだ! アレやりましょう! ほら、エルコンドルパサー! っていうやつ!」
エルの焦りが手に取るようにわかる。完落ちの時は近い。
「ターフの上を飛ぶがごとく駆け抜ける、世界最強のウマ娘! その名は!?」
俺は答えない。無言の時間が過ぎる。
6: 名無しさん(仮) 2025/04/10(木)22:30:12 0
「で、電光石火、疾風怒濤、ウマ娘界のスペルエストレージャ、その名は……?」
「もうやめにしよう、こんな茶番は。いい加減、うんざりしていたんだ」
「熱血、快活、炎の化鳥、アナタのことが大好きな唯一無二のウマ娘、そ、その名は……?」
「今後一切、俺には関わらないでくれ。学園でも話さないようにしよう。それがきっと、お互いのためなんだ」
ダムはあっけなく決壊した。ジブリ映画を思わせる大粒の涙が伝い、マスクに吸収されていく。
「そんな……そんな……うわああーん!」
エルは湿ったマスクを脱ぎ捨てると、びたーんと床に叩きつけた。
「あ……愛してるって、ずっと一緒にいるって……約束したのに……わあーっ!!」
膝から崩れ落ち、床に突っ伏して号泣する。あまりにも豪快な泣きっぷりだった。
事態の深刻さにようやく気が付いた俺は、即座に演技を解いて許しを請うた。
「エル、すまなかった。ぜんぶ嘘だ。謝る。悪かった」
7: 名無しさん(仮) 2025/04/10(木)22:30:37 0
エルは泣き顔のまま、制止する間もなく胸に飛び込んできた。
ノックというにはいささか強すぎる調子で、どんどんと胸を叩いてくる。
「裏切り者……裏切り者ぉーっ!!!」
雨降って地固まる。
裏切りを経験したウマ娘とトレーナーには、不思議と強い絆が生まれるという。
エルコンドルパサーはこの日以降、執拗にスキンシップを求めてくるようになった。