【ウマ娘怪文書】とある晩、キングヘイローは学園の地下施設を訪れていた 厳重そうな扉は特に施錠なども無くいとも容易く開きそして彼女の視界には二人程の先客が見て取れた
1: 名無しさん(仮) 2025/01/27(月)23:12:01
とある晩、キングヘイローは学園の地下施設を訪れていた
厳重そうな扉は特に施錠なども無くいとも容易く開き
そして彼女の視界には二人程の先客が見て取れた
(あれは…トランセンドさんとデュランダルさん)
返事は無い。こちらが部屋に入った事は二人も気づいている筈だが
反応は無かった。いや、それどころでは無かったのだろう
設置されたベンチに座り込んだトランセンドは前屈みに地面を凝視し
デュランダルは何事かを呟きながら横になり転がっている
「私は騎士だから…私は」
呟きを耳にしながらなんとなく彼女が何を見たのか察し
二人の側に遭った元凶のそれを見た
人一人がゆうに収まる大きさのトロフィーである
ドリームトロフィー改。ナイスネイチャのトレーナーによって開発された
かつて入った対象の理想を見せる事で夢の中に幽閉したそれは
2: 名無しさん(仮) 2025/01/27(月)23:12:11
即ち「バレンタインでトレーナーがチョコを沢山貰う光景」である
専属のトレーナー達は人当たりが良い
担当以外にも質問をされれば答えるし時にコーチングを行う
情熱は受け止め時に真摯に助けの手を伸ばす
人当たりが良いという事はウマ娘受けが良いという事である
モテるのだ。非常にモテる。四六時中光っているタキトレですら
文字通り脳を光に焼かれた根強いファンがいるという
だからそんな彼等がチョコを受け取る事は避けられない
ならば担当はどうするか?
嫉妬に狂うのか?チョコの受け渡しを妨害する?
数多の手段の中でダイワスカーレットが出した結論は「耐える」事
よってシミュレートされるのはトレーナーがチョコを受け取る環境
そんな光景に予め慣れておき当日を迎える
耐性を獲得するには時に劇薬が必要となるのである
3: 名無しさん(仮) 2025/01/27(月)23:12:22
コンセプトは良かった、が強度が強すぎた
真っ先に出力全開で試したあのゴールドシップが撃沈
そんな惨状にも関わらず次々に試す者が現れ心に傷を負った
にも拘わらず学園側はドリームトロフィー改を封印ないし破壊していない
被験者が制止しようと学園がお知らせを出そうと無駄だからだ
好奇心とウマ娘特有の負けん気を防ぐ事は出来ない
現に今ここに意気揚々と挑んだ2名の成れの果てがいる
「やめときなってキング。あれさ、しこりが残るから」
そんなセイウンスカイの真面目な顔と声色を思い出し
キングヘイローは目を閉じて深呼吸するとトロフィーに触れた
4: 名無しさん(仮) 2025/01/27(月)23:12:32
「…で、使わずに帰って来たと」
「ええ」
何してんだ、と言わんばかりのトレーナーの視線を浴びながら
じわりと出てくる嫌な汗を感じさせない調子でキングヘイローが胸を張る
「私ね、人並みに色々な困難にぶつかってきたわ
だから耐性が強いって自負もある。けどね
だからといって自分から困難に飛び込んでいては世話が無いと思うの」
「直前までやろうと思ってた奴の言う事では無いんだよなあ…」
「うるさいわね!」
「まあ、キングの自制心が効いてくれて良かったよ」
ぽそりと後ろを向いたまま作業をしていたトレーナーの一言が
王の口元にはにかみを齎す
「まあ、いいわ。私よりに先に誰かが渡していても構わない
だから光栄に思いなさい
貴方には今年も私の手作りチョコを食べる栄誉を上げるわ」
5: 名無しさん(仮) 2025/01/27(月)23:13:20
「あー…それなんだがキング…」
高らかに宣言したキングの宣言を受けトレーナーが頭を掻く
「無理に手作りにしなくてもいいんだぞ?」
「何を言い出すのよ。そりゃあ…確かに見てくれは悪いかもしれないけど」
不得手はあるもので未だキングのチョコレートは上手くいかない
あのヒシアケボノも匙を投げる始末だった
「いや、見てくれの話じゃないんだ。キングの努力は問題無い
だがそこに毎年時間をかけてるだろう。本末転倒じゃないか
睡眠時間を削ってフラフラになりながらのトレーニング。あれはいただけない」
「それは…そうかもしれないけど!」
言葉に詰まりながらも反論を試みるキングに背を向けたままのトレーナー
その肩が下がり彼が溜息をついているのにキングも気づいてしまう
「けどなキング現に君のお母さんや取り巻きの子達。彼女達は既製品をいつも贈って…」
ぽろりと漏れた言葉がしまったという様に
そこで止まり、そしてキングの目が見開いた
6: 名無しさん(仮) 2025/01/27(月)23:13:47
「何でそんな事を、あの人達を引き合いに出して言うのよ!」
ゴ ン
・・・・・・・・・・
叫びと共にキングヘイローの頭がトロフィーにぶつかる
目を見開いた彼女は慌てて左右を見る。右も左も行き詰まり
そこは今も自分が入ったままのドリームトロフィーの中で
キングはそのまま顔を覆い、ああああと声を出し
ひとしきり足をジタバタさせた後多少落ち着いたのか
逃げるようにドリームトロフィー改の中から身体を覗かせる
外では未だトランセンドが座りデュランダルが転がっているのが見えた
「…生々しいわね」
キングヘイローが試したトロフィーの強度は小
ドリームトロフィーは使用者の記憶や精神を読み取り
時に本人が自覚をしていない想定の中からシミュレーションを行うのだという
7: 名無しさん(仮) 2025/01/27(月)23:14:24
成程確かにそういう事も有り得るのかもしれない
自分の娘を任せている感謝や、同じキングヘイローの魅力を知る者として
彼女が知らなかっただけで
彼等がトレーナーにチョコを渡しているかもしれないし
敢えてその事を彼女に伝える程、皆野暮でもないのだ
時にはそれをうっかりトレーナーが漏らしてしまうかもしれない
(なら、清濁併せ呑むべきでしょう)
どうせならそれがいい、と
そのままキングはスマートフォンを取り出していずこかへと電話をかける
「もしもし」
『あら。貴方の方から連絡を入れてくるなんて珍しいわね
生憎忙しいのだけど、大した用事じゃないなら切るわよ』
「ええ結構よ。時間は取らせないわ、お母様
実はトレーナーさんにチョコを渡したいから一緒に作って欲しいのだけど」
『……イーーーーーッ!?』