【ウマ娘怪文書】ウマ娘というのは総じて情念の深い生き物である。レースに対して、ライバルに対して、そして好いた異性に対して。情念深い年頃乙女の巣窟トレセン学園×乙女の一大決戦日バレンタインデー
1: 遅いネタですが… 2025/02/24(月)21:57:08
ウマ娘というのは総じて情念の深い生き物である。レースに対して、ライバルに対して、そして好いた異性に対して。時に嫉妬深く、時に攻撃的に、時に傷心し、多様な形で執着する。特に年頃、例えば中央トレセン学園に通うウマ娘達等は思春期特有不安定さも相まって、それはそれは恐ろしいことになるものである。特にこの時期は……
「はぁ…はぁ…」
トレセン学園の廊下を、息を切らして歩く男が1人。彼はエイシンフラッシュのトレーナー。傍目には何事も無いように見える彼には、体感で地球上の5倍の重力がかかっていた。そう、乙女力場である。
情念深い年頃乙女の巣窟トレセン学園×乙女の一大決戦日バレンタインデー。大事なあの人、大好きなあの人に想いを伝える為にチョコその他諸々を用意し、受け取ってもらえるか、喜んでもらえるか一喜一憂する年頃の乙女達の情念は、その想いを向けられた者達に物理的な力場となって襲いかかった。想い、否、重い。
「随分と顔色が悪いですが、大丈夫ですかトレーナーさん…?」
「あ、あぁ…!何の心配も要らないよフラッシュ。うぐぉ…あっ…と、ところで何の用かな…?」
2: 名無しさん(仮) 2025/02/24(月)21:57:43
「ふふっ、今日は何の日か、ご存知でしょう?」
「んもっ、もちろんさ。ということは、き、期待させてもらうよ?」
「ええ、もちろん。いつもありがとうございます、トレーナーさん。そして、大好きですよ。受け取ってください」
「うごぉっ!?…あ、あ、ありがとぉフラッシュ。大事にいただくよ」
どのような状況下においても、愛するエイシンフラッシュの前では格好良くありたい。そんな信条の元、掌に確かな重いを感じながら彼は平気な顔をして胸ポケットにチョコを大切にしまった。このように、乙女の戦いの裏でトレーナー達もまた懸命に戦っているのだが、この乙女力場の影響を受けない例外も存在する。
「あ、取り込み中にごめんね。ちょっと通りかかっただけだから…」
「ファルコンさんのトレーナーさん!」
彼、スマートファルコンのトレーナーは持ち前のニブさにより、乙女力場の影響下においても問題無く活動出来る数少ないトレーナーである。
「まいぃ、毎年思うけどっ、本当に何とも無いの…?」
3: 名無しさん(仮) 2025/02/24(月)21:58:06
「…?ああ、うん」
話だけは聞いてるし、何かこの時期皆辛そうにしてるな、くらいの認識である。
「まあ、よく分からないけど頑張って。お邪魔しました」
そう言って、フラッシュのトレーナーの肩をポンポンと叩く。
「うぐぅぅっ!?」
彼は膝から崩れ落ちた。
「トレーナーさん!」
「大丈夫…!大丈夫だからフラッシュ!す、すぐに立ち上がる、よ…!」
「どうして私とトレーナーさんの大事な日なのにコソコソと他の人とお話してるんですか?」
「えぇ…?同性相手でもそんな感じっ…!?」
瞬間、彼にかかる重いが10倍に跳ね上がった。
「もう!既に2分の遅れが出ています。早くトレーナー室で二人きりになりましょう。それではファルコンさんのトレーナーさん、私達は失礼します。貴方にも後でチョコをお渡ししますね。もちろん、義理ですが」
「ああ、ありがとう。そうしてくれると助かるよ」
廊下にクレーターを作りながら引き摺られていく同僚を後目に彼は先を急いだ
4: 名無しさん(仮) 2025/02/24(月)21:58:38
「ファル子を待たせてる、急がないと」
「た、助けてぇ…!」
ふと、足元から声が聞こえた。足を止め見下ろすと倒れ伏すトレーナーが。彼はアイネスフウジンのトレーナーである。
「大丈夫ですか?一体何が…」
確かにこの時期は苦しそうなトレーナーをよく見かける。が、歩けなくなるほどの者を見るのは稀である。
「アイネスがぁ…!アイネスがぁ…!」
「落ち着いてください」
「見ぃつけたぁ。こーんなところで寝てたら風邪引いちゃうの。さ、お姉ちゃんと一緒に行こ?」
「ひぇっ!」
事の顛末はこうだ。バレンタインチョコを用意したアイネス。それをアーンでトレーナーに食べさせようとしたものの、トレーナーは恥ずかしいからとこれを拒否。じゃあ人目のつかないトレーナー室に行こ?トレーナー、なおも恥ずかしいからと拒否。アタシはこんなにも愛を伝えたいのに、君は拒否するんだ?身の危険を感じ、トレーナー逃げ出すも途端に爆増した重いに耐え切れず廊下で潰れる。
という訳である。
5: 名無しさん(仮) 2025/02/24(月)21:58:59
いくらニブいファルコンのトレーナーと言えど、これは関わるべきではないと判断した。
「俺、ファル子を待たせてるので急ぎますね」
廊下にクレーターを作りながら引き摺られていく先輩を後目に彼は先を急いだ。
先程のアイネスのように、ウマ娘達の中には乙女力場を有効活用?する者もいる。逃走を封じるのは基本中の基本。例えば、ある者はビーズのフワフワクッションにトレーナーを沈めるふわふわロックを、ある者は座ってるトレーナーの太腿に自身の頭を乗せながら姉とそのトレーナーにも同じことをやってみろと強要する三者を同時に縛り付ける妹式膝枕ロックを得意とする。中にはトレーナーに自身にボディプレスをかけさせ、「あぁん、トレーナーさんから逃げられないデース❤」という高度なプレイに昇華させる変た…変わり者もいる。閑話休題。
6: 名無しさん(仮) 2025/02/24(月)21:59:39
さて、ファル子の待つトレーナー室まであと少しというところまで来たトレーナー。その時。
「ぐぉぉぉ!!!」
天井を突き破り、何かが降ってきた。鼻先を掠めたもので、これには流石にファルコンのトレーナーもビビった。
「だ、大丈夫ですか…?生きてますか?」
「あ、あぁ。何とか」
天井の瓦礫からヨロヨロと立ち上がったのはシンボリルドルフのトレーナー。彼が突き破ってきた天井の穴を見上げると、空が見えるまでしっかり開通していた。ここは1階である。
「情けないじゃないか、トレーナー君」
天井の穴から声がしたかと思えば、降り立つ黒い影。誰あろう、シンボリルドルフ。我らが生徒会長様だ。
「バレンタインといえばチョコを渡すのは屋上が鉄板シチュエーションの1つだと、そうマルゼンスキーから聞いていたが…遺憾千万、受け取る君がしっかり受け取ってくれないと成り立たない」
「あ、あぁ…すまないなルドルフ。もう一度受け取らせてくれないか、君の重いを…!」
「ふふっ、果たして出来るのかな?最近の君は……そうだな、少々弛んでいるように見える」
「……と言うと?」
「たづなさんと、随分仲良くしていたじゃないか」
7: 名無しさん(仮) 2025/02/24(月)21:59:57
「…!」
「それだけじゃない。樫本トレーナーや佐岳さん、果てはシリウスやラモーヌまで!随分と沢山贈り物を貰っていたみたいじゃないか。腐敗堕落、鼻の下を伸ばす君を私はこれ以上見たくない」
「……ふっ」
「何が可笑しい?」
「そんなことかと思ってね。皇帝陛下も可愛いらしい所があるじゃないか」
「可愛っ…!?もう一度言ってくれないかいトレーナー君?」
「心配しなくとも、全て義理さ」
「もう一度言ってくれないかいトレーナー君?」
「全て義理さ。社会人の嗜みってやつ。皇帝の伴侶なら、相応に社交的であるべき、違うかい?」
「言うようになったじゃないかトレーナー君。そうまで言うなら、もう一度チャンスを与えよう。このアイスチョコケーキと共に、私の重いを受け取ってみせろ」
「望むところだ」
「行くぞ、トレーナー君!そしてさっきの台詞、もう一度言ってくれないかい?」
「さぁ来いルドルフ!心配しなくてもシリウスのもラモーヌのも義理だぞぉぉぉ!!!」
何やら盛り上がってきたみたいなのでその場を後にしたファルコンのトレーナーであった。