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【ウマ娘怪文書】「あれ、これ…こんなとこでやってたんだ」タイシンと二人で外出した際、彼女があるデパートの前の立て看板に立ち止まった。なにかと思って確認すると……「プロレスラーのサイン会……?」


1: 名無しさん(仮) 2024/07/13(土)23:16:40

「あれ、これ…こんなとこでやってたんだ」
ある日のこと、タイシンと二人で外出した際、彼女があるデパートの前の立て看板に立ち止まった。
こういうものに興味を示すのは珍しい。なにかと思って確認すると……
「プロレスラーのサイン会……?」
看板に書いてある名前と写真は新聞やテレビで見た気がするので、わりと有名なのだろう。
……正直、タイシンが好きそうなルックスには思えないし、そもそも彼女と格闘技という組み合わせがしっくりこないのだが。
「いや、わりとってレベルじゃなく有名だよ…アンタ、プロレスって興味ない?」
「ごめん…青春時代から今に至るまでウマ娘一筋なもので。でも意外だ、タイシンは好きなんだな」
「昔から好きってわけじゃないよ、チケットがしっつこく布教してくるせいで…」
と言いながらも、中の様子を伺おうとつま先立ちをするタイシン。どうやら参加してみたいようだ…




2: 名無しさん(仮) 2024/07/13(土)23:17:05

「…子ども連ればっかだな…やめとくか…」
大きな耳がへにょっ、と折れ曲がる。名残惜しそうに視線を逸らし、立ち去ろうとする彼女を引き止めた。
「参加しよう! 俺がサイン欲しがって、興味ないけど連れてこられたってことでいいじゃないか」
「はぁ!? 何勝手なこと…ちょっ、押すなっての!」
いざ参加してみると、周りはタイシンの言うとおり家族で参加している人ばかりだった。
列は長いし、タイシンはずーっと黙ってるし……どうも肩身が狭く、明後日の方向ばかり向いてしまう。
そうこうしているうちに順番は進み、やっと自分たちの番が回ってきた。
「はいっ、次の方は……そちらのお二人ですね! ご一緒にどうぞ〜!」
かわいらしい声とともに、スタッフが前に進むよう促してきた。
握手会のスタッフというよりはレスラーのマネージャーのような人物なのだろう。出で立ちも似通っているし、先程から時折二人で親しげな会話をしている。






4: 名無しさん(仮) 2024/07/13(土)23:17:30

……見た目が完全に幼い子どもなのは気にかかるが、いろいろあるのだろう。気にしないことにした。
「えーっと…いつも応援してます! 頑張ってください!」
「ワハハハ、ありがとね!」
あまりに気持ちのこもっていない言葉選びをしてしまったことで気が引けたが、彼は満面の笑みでサインをしたためてくれた。
……遠目でもわかっていたが、近くで見ると凄まじい肉体だ。
座っていてもわかる分厚い胸板に丸太のような首と四肢。どんな鍛錬を積めばこれほどの筋肉を手に入れられるのか。
それこそウマ娘と力比べをしても互角に渡り合えそうな……と思うほど、男ながら、いや男だからこそ惚れ惚れしてしまう。
サインに描かれたド直球な名前も、この肉体にはふさわしすぎるほどだろう。
そしてそんな肉体の迫力とは裏腹に、人の良さそうなタラコ唇の顔立ちが妙にユーモラスだ。これは小さい子に人気が出るのも納得できる。





5: 名無しさん(仮) 2024/07/13(土)23:18:04

「そちらの方もどうぞ! 今日はいつもほどニンニク臭くないから安心ですよ〜!」
「いらんこと言わんでいい〜っ! ささ、遠慮しないで」
「あ……は、はい」
おずおずと色紙を差し出すタイシン、その顔を見た彼の口から、おや、という声が漏れた。
「もしかして君……ナリタタイシンちゃんではないか?」
「え……し、知ってる、の?」
「アハハ、王子は昔からアイドルの追っかけも好きですからね。ナリタタイシンさんだけでなく、ウイニングチケットさんやビワハヤヒデさん……ウマ娘の皆さんのことはよーくチェックしてますよ」
「エヘヘヘ、実はそうだったりして……この前の天皇賞も見事な走りだった! 皐月賞のとき以上にかっこよかったわい」
「ど、どうも……」




6: 名無しさん(仮) 2024/07/13(土)23:18:27

突然声をかけられたことで動揺しているタイシンだが、耳や尻尾は嬉しそうに少し動いている。
サインを欲しがるほどの相手に認知されていることもそうだが、彼の言葉がまっすぐすぎて疑う余地もないのだろう。
……と、徐ろに彼が椅子から立ち上がった。
「ウマ娘と私達……種族や手段は違えど、人々に笑顔と希望をもたらす力を持っている。これからもお互いに頑張っていこう!」
その言葉とともに、右手を差し出す彼。タイシンも戸惑っていたが……ゆっくりと、その手を取る。
大きな手と、小さな手……一見すると不釣り合いな握手は、なぜだかまばゆい光を放って見えた。




7: 名無しさん(仮) 2024/07/13(土)23:18:55

良い時間だったな」
「……うん」
帰り道、タイシンはもらったサインと握手を交わした右手を食い入るように見つめていた。
二人で歩き続け、辺りに人が少なくなったとき……不意に、彼女が口を開く。
「あの人、今はヒーロー扱いだけどさ……昔はものすごくバカにされて、いじめられてたんだ」
「いろいろあって大きな大会の日本代表に選ばれたときなんか、ブタだの日本の恥だの好き勝手言われてて……動画見てて、気分悪くなったっけ」
「でも……全然へこたれなくて、諦めなくて……それに、どんな時だって誰かのために戦って……」
「なんかさ……なんか、かっこよすぎるよね。アタシは……」




8: 名無しさん(仮) 2024/07/13(土)23:19:15

「タイシンだって!」
反射的に、言葉を遮っていた。
彼女は知っている。周囲からの理不尽な声に晒される痛みを、努力しても結果を出せない苦しさを。
そして、それを乗り越えて前に進むことの辛さ……そして、尊さを。だからこそ……
「タイシンだって……絶対、誰かのヒーローだよ」
「…………」
「……かっこ、つけすぎ……」
顔を伏せたタイシンが、少しだけ早足で歩いていく。それに、ただただついていく。
一歩半。触れ合いはしないけど離れもしない二人を、赤い夕陽が照らしていた。




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