【ゆるゆりSS】きもちに寄り添う数秒間 (24)(完)
22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 23:11:29.89:49voo3/L0 (22/24)
~
撫子に教えられた場所は、たしかに見晴らしがいいのに人があまりいない、珍しいスポットだった。
櫻子は階段状になっている場所に向日葵と一緒に腰を下ろし、途中で買ったいちご味のかき氷を分け合い、静かに花火を見守った。
向日葵の安らかな笑顔を見ていると、心が落ち着くとともに、少しだけドキドキする。
向日葵の思い出になれたらよかったと思いながら、残りのかき氷を一気に飲み干した。
なんだか最近、向日葵の笑顔を見るためにやけに一生懸命になっていた気がする。
ぱん、ぱらぱらぱら、と夜空を迸る火花を見つめながら、櫻子はここ最近のことを振り返った。
――そうだ、ねーちゃんに言われてからだ。
撫子に教わったアンガーマネジメントを自分なりに実践するようになってから、向日葵のことを考える時間が妙に増えていたのだった。
イライラしそうになったときに落ち着くための6秒ルール。それ以外の局面でも、無意識的に数秒間数えることが身体に染みつき始めていた。
その数秒間で自分の気持ちに向き合うこともあれば、向日葵は今どう思っているのだろうと、相手の気持ちに向き合うこともある。たったそれだけで自分に少しずつ素直になれているし、夏休み前を最後に向日葵とのケンカも起きていない。今日だってそれがなければ、今頃向日葵だけを家に帰して、自分だけ呑気に友達と出店を巡っていたかもしれない。
本当に追いついてよかったと向日葵の横顔を見ていたとき、ばーん、とひときわ大きな花火が空に打ちあがった。
向日葵の大きな瞳に、綺麗に花火が咲く。櫻子にはその瞬間だけ、まるで時間が止まったように、スローモーションに感じられた。
今日はきっと、この笑顔を見るための日だったんだ。
23:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 23:12:09.22:49voo3/L0 (23/24)
「櫻子、見ました今の?」
「……」
「……櫻子?」
櫻子が先ほどから夜空ではなくこちらをずっと見ていることに向日葵も気づく。まだ少しだけうるんでいるような気がする、まんまるの大きな目と視線が重なる。
「どうしましたの?」
櫻子はまた無意識的に、自分の中で時間を数え始めた。
花火よりも、向日葵を見ていたいと思ってしまっている、今の自分の心に向き合う。
向日葵の瞳から、目が逸らせない理由。
(いち、にー、さん……)
――ねえ、もしかして。
(しー、ごー、ろく……)
これが、好きってことなのかな。
「ちょ、ちょっと……どうしたのか聞いてますのに」
向日葵の方が先に耐えきれなくなって、頬を紅潮させながら視線を逸らした。
櫻子はそれを見て、確信した。
(ああ、私……)
――向日葵のこと、好きなんだ。
24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 23:12:47.56:49voo3/L0 (24/24)
今までだって、ずっとそうだったのかもしれない。
何をするにも、向日葵のことばかり考えている。
他の友達と遊んでいたって、今頃向日葵はどうしてるのかなって、気になるときがあった。
向日葵が嬉しいと嬉しい。向日葵が悲しいと悲しい。
だからケンカだって本当はしたくない。勉強に向き合うのは苦手だけど、向日葵を怒らせてしまったときは自分もへこんでしまう。
向日葵のことを、もっと知りたい。向日葵のことで知らないことなんかないくらいに。
読めるかはわからないけど、好きな本も知りたいし、食べ物の好みだって、最新の最新まで常に把握しておきたい。
向日葵は「ひまちゃん」の頃から、変わってないところもあるけど、変わってるところもある。だから常にアップデートしないといけない。
向日葵がしたいことを一緒にしたいし、向日葵にいい思い出をいっぱい作ってあげたいって、心から思ってる。
向日葵と、これからもずっと一緒にいたい。
満開の花火が、ちょこんと並んで座る二人の影を映し出す。
「綺麗ですわね、本当に」
「……ん」
向日葵が櫻子の手にそっと自分の手を重ねる。
櫻子は、向日葵の肩に自分の頭を乗せ、目を細めた。
~fin~
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