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キョン「ハルヒが目覚めない」 (20)(完)


1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 12:03:25.81:d5CFnAaM0 (1/20)










涼宮ハルヒが目覚めない









異常事態というのは突拍子もなく起こるものである。
俺は特にこの1年でそれを学んだ。
宇宙人、未来人、超能力者に学ばされたと言っても過言ではない。
そして、いつもながらにして、大体の問題の根源、涼宮ハルヒによって今回の事件も引き起こされた。
時は佐々木やらヤスミやらとのいざこざが解決し、初夏に差し掛かる頃だった。
相も変わらず、雁首揃えて文芸部室にて誰の役に立っているのか分からない団活中の出来事である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1725678204




2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 12:06:59.80:d5CFnAaM0 (2/20)


パチ


静かな文芸部室に駒の音が響く。
俺の一手が古泉の堅兵を取ったところだ。
今日は大将棋なるボードゲームにつき合わされ、下手の横好きの古泉と遊戯に興じている


「……」


真剣に考えているのか、考えているようで何も考えていないのか、いつも通り弱い。
そしていつも通り、長門は読書に勤しんでいるし、朝比奈さんは麗しくお茶を汲んでいる。
少し前の、宇宙人超能力者未来人入り交じりの大抗争とは打って変わり、部室には日常が戻っていた。


「玉露です」

「どうも、朝比奈さん」


このお茶の味も変わらない。いや、むしろ日に日に美味くなっていっている。
朝比奈さんの真面目な努力により、お茶の味と俺の味覚は比例し向上しているのが分かる。
そして古泉は無駄な長考、長門はページを捲り読書を進める。
以前と何も変わらない風景……のはずである。
だが、ここで違和感を覚えた。いつも通りの静かな団活だが、いやに、あまりにも───






静かすぎる。




3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 12:08:50.47:d5CFnAaM0 (3/20)


別に毎日毎時毎秒、奴が騒いでいるわけではないことは分かっている。
静かな団活だって慣れ親しんだもの。しかし、今日はなにかがおかしい。
昨年の夏に感じたデジャビュのような違和感ではない。
ただ単に静かすぎる。
長考中の古泉を尻目に、団長席───ハルヒの方へ目をやる



……いない?



というわけでもなく、どうやら机に突っ伏しているらしい。
デスクトップパソコンのモニターの隙間から姿は確認できる。
居眠りか。たまにあることだ。それなら静かすぎるこの空間にも説明がいく。


パチ


「お待たせしました。あなたの番ですよ」

「ああ」


パチ


古泉の獅鷹が俺の歩兵に制圧された。
少しばかり古泉の眉尻がピクリと動いた気がしたが、そんなことはどうでもいい。
古泉に手番を回し、おもむろに立ち上がる。
こちらもそこまで興味があるわけではなかったが、団長席に足を運ぶ。


「ハルヒ」

「───」


呼びかけるも応答はない。どうやら本当に寝てるらしい。





4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 12:10:00.80:d5CFnAaM0 (4/20)


「涼宮さん、少し前に寝ちゃったみたいで……」



朝比奈さんは気づいていたようで、口元に人差し指を立て、シーっとジェスチャーサインを表わした。
何と可愛らしいお方だろうか。何度でも本当に自分と同じ生物なのかと疑いたくなる。
朝比奈さんの言う通り、眠っているハルヒを起こすのは俺としても少し忍びない。
大人しく自席に戻り、次は古泉の麒麟を取ろうかなどと思案する。
だが、またここで強烈な違和感を覚えた。



「……おい、ハルヒ?」

「───」



気づけばもう一度呼びかけていた。
繰り返しの呼びかけで、朝比奈さんが少し驚いた顔をしている。
視界の端で、長門のページを捲る指が止まったように見えた。
後方の古泉が長考をやめ、こちらに視線を送っている気配も感じる。
そして、ハルヒの応答はない。
……経験則から言おう。






なにかがおかしい。




5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 12:11:53.54:d5CFnAaM0 (5/20)


「キョンくん?」

「すみません、朝比奈さん」


注意を無下にしたことに心からの謝罪をし、ハルヒの左手側に回る。
ネットサーフィンでもしていたのだろうパソコンはとうにスリープモードに移行し、画面は黒く沈黙していた。
腕を枕にし、突っ伏して眠っている……ようにしか見えない。
間違いなく眠っている、しかし……。
肩を揺さぶる。


「───」


反応なし。
少し大きな声を出す。


「おい、ハルヒ!」


反応なし。
朝比奈さんの顔に動揺が見て取れる。


「……悪いなハルヒ」


両肩を掴み、背もたれにもたれさせるべく、状態を起こす。
ただの居眠り程度なら間違いなくここで起きるはずだ。


「……どうなっていやがる」


反応なし。
もたれかかったハルヒは天井を見上げるも、その瞳は閉じたまま。
涼宮ハルヒが目覚めない。


「エマージェンシー」


パタンと本を閉じた長門が発した本日最初のお言葉だった。




6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 12:13:35.61:d5CFnAaM0 (6/20)


一先ず、ハルヒを突っ伏した状態に戻し、わらわらと団長席の周辺に集まった団員の一人に話しかける。


「古泉、説明しろ」


不測の事態。こういった事態に我先にと説明をしたがる副団長様にこちらから先手をうってやる。
ほら、お前の得意分野だぞ。


「……いやはや、これは一体どういうことでしょう」

「分からないのか?」

「お恥ずかしながら、皆目見当つかずです」


こいつをもってしても皆目見当がつかないだと?
得意の説明口調はどこへやら、アルカイックスマイルを崩さず、朗らかに古泉は答えた。


「長門はどうだ? 何か分からないか?」

「分析中。しかし、すぐに解が出ることはない」


長門大明神様をもってしても、か。
となると最後は……。


「す、涼宮さん、どうしちゃったんですかぁ」


愛らしい先輩は今日も愛らしい。どうやらこうなる未来もご存知でなかったようだ。
つまり、この状況は───


「……やれやれ」




7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2024/09/07(土) 12:15:01.44:d5CFnAaM0 (7/20)


やれやれ、などと宣う程度には、俺の精神もまだ余裕があるらしい。
なんてったってSOS団全員がここにはいる。長門は病床に伏しておらず、朝比奈さんは可愛らしく、古泉は古泉だ。
今まで幾度もこういった不測の事態にはこのメンバーで対応してきた。
それに比べりゃ、寝ぼすけハルヒを起こすくらい、時間をかければわけないと。
そう、高を括っていた部分もあった。


「古泉、閉鎖空間は出ているのか?」

「今のところは出現していないようです。気配もまだありません」


となると、今のハルヒになにかしらの負荷が掛かっている可能性は低いはずだ。
嫌な気分だとしたら、ストレスの具現化である閉鎖空間が発せしているだろうしな。
じゃあなんだ?こいつは望んでこの状況になってるってことか?


「最近寝不足だから、誰にも邪魔されず安眠したいという願望……か?」

「涼宮ハルヒは至って健康。変調をきたす予兆もない」

「羨ましい限りだな」


病原菌が裸足で逃げ出すやつだもんな。少しでも寝りゃ大抵のことはなんとかなるだろうな。
だからこそ、この状況がますますわからん。
何故こいつは団活をホッポリ出してスヤスヤと深い眠りについているんだ?


「原因が分からなけりゃ対処のしようもないぞ」

「あなたは、心当たりなどございませんか?」

「俺だって皆目見当もつかん。だからお前に説明を求めたんだ」


古泉や長門に分からんことが俺に分かるもんか。小市民である俺に過剰な期待をするもんじゃないぜ。
佐々木や国木田のような秀才ならあるいは違ったかもしれんが。




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