トップページに戻る

【ウマ娘怪文書】朝のトレーニング前、トレーナーさんが缶コーヒーを自販機で買っていた。私も真似して、彼が買ったものと同じ黒い缶のコーヒーを買って飲んでみる。まず最初に思ったことは、薄い……ということ


1: 名無しさん(仮) 2024/08/31(土)21:03:05

朝のトレーニング前、トレーナーさんが缶コーヒーを自販機で買っていた。「カフェの影響でエナドリよりコーヒーを飲むことにしたんだ」と言うと、眉をひそめながら気付け薬のようにグイっと一気に飲み干している。
私も真似して、彼が買ったものと同じ黒い缶のコーヒーを買って飲んでみる。まず最初に思ったことは、薄い……ということ。
100円という安価で提供するための企業努力なのか、それは香りも酸味もほとんどなく、煮汁のような薄い味をしていた。そして缶に書かれているBLACK無糖という文字。
砂糖を入れないならコーヒー自体を薄くしないと胃にきついという判断だろうか。ともかく、味わいや香りを楽しむためではなく、眠気覚ましの気付け薬として消費されるそれが、とてももったいなく思えた。




2: 名無しさん(仮) 2024/08/31(土)21:03:17

マニアの余計なお節介だと自分でも思う。けれども、せっかくコーヒーを飲むならトレーナーさんには良い物を飲んでもらいたかった。
トレーナーさんにいつか振る舞うためにと育てているコーヒーノキが実をつけるには、まだまだ時間がかかる。だから今は、私がブレンドした豆を使おう。
本当は熱いエスプレッソを出したいところだけど、冷たい缶コーヒーに慣れているトレーナーさんにはコールドブリューの方がいいかもしれない。
明日の朝トレーナーさんにお渡し出来るよう、今から冷蔵庫にコールドブリューを用意しておこう。それに、特性のシロップも作っておいたほうがいい。






3: 名無しさん(仮) 2024/08/31(土)21:03:30

翌朝、冷蔵庫からジャグを取り出し、一杯味見をしてみる。……悪くない。急ぎで用意したにしては上出来。飲みやすく、苦みも少なく、風味もフルーティ。ブレンドの選定は正解のようで。
鞄からキャリータンブラーを取り出し、底に昨晩自作したシロップを敷き詰め、撹拌されないようタンブラーを傾けながらゆっくりコールドブリューを注いでいく。
風味が逃げないようしっかり蓋を締め、タンブラーを鞄に。誰かのためにコーヒーを淹れる時はいつもこうだ。胸が踊ってしまう。自分の好きなものを好きな人にも好きになってほしい。そんな気持ちがふつふつと沸いてくる。
「トレーナーさん、コーヒーを用意してきたのでよければ……どうでしょうか」
驚き、喜ぶトレーナーさん。差し出したストローを受け取りちゅっと一口飲んだところ、花が咲いたように笑顔を向けてくれた。
「えっ美味しい!なんだろう……上手く言えないけど、ちょっと果物っぽい?砂糖ほど甘くないけど果汁か何かで甘くしてあるのかな?」
「ふふ、果汁は入っておりません。それは豆本来の味です。底にシロップの層が作ってありますので、甘さを加えたい時はストローで混ぜてみてください」





4: 名無しさん(仮) 2024/08/31(土)21:03:40

言われた通りタンブラーの底のシロップをコーヒーと混ぜて飲むと、トレーナーさんは再び破顔した。
「こっちの方が好みかも!あ、いやその…白状すると、甘いコーヒー好きだと大人っぽくないから、カフェの前じゃ無理してブラックコーヒーを飲んでたんだよね……」
「トレーナーさん、こんな言葉があります。『カフェ、それは地獄のように熱く、悪魔のように黒く、そして天使のように純粋で愛のように甘い』フランスの美食家の言葉です」
私の言葉に聞き入り、続きを待つトレーナーさんがちゅうとコールドブリューを飲んだ。
「熱く濃くそして甘いエスプレッソは数百年前より愛されてきました。私は、砂糖を入れたコーヒーを飲んでいたとしても、トレーナーさんは素敵な大人だと思いますよ。むしろ……」
コーヒーを楽しんで貰えて嬉しい、と言う前に、恥ずかしさから口が閉じてしまった。好きなことには相手の反応も気にせずつい饒舌になってしまった。




5: 名無しさん(仮) 2024/08/31(土)21:03:54

「ありがとう!すごく嬉しいよ。カフェも飲んでよ」
と勧めるトレーナーさん。私は既に飲んだのでと遠慮するも、つい押し切られてしまい、ストローで一口飲む。私がトレーナーさんのために作ったコールドブリューは……。
劣化していた。
朝飲んだ時よりも、風味か、酸味か、何かが劣化している。シロップが混ざったせいではなく、何かが失われている。100点だと思ったコーヒーが、90点になっていた。そんな異物感。
キャリータンブラーに何も考えず移したせいだろうか、それとも時間経過のせいか。原因はわからない。怪訝な表情をしていることを不審に思ったトレーナーさんが、私に心配の声をかけてくれた。
「すみません、トレーナーさん。もっと……美味しく出来たはずなんです」
「そんな…美味しい…と思うけど…」
「リベンジさせてください」
その日から私の、トレーナーさんに美味しいコーヒーを提供するための戦いが始まった。




6: 名無しさん(仮) 2024/08/31(土)21:04:07

コールドブリューを選んだのが失敗だと思い、この季節にはコーヒー好き以外は厳しいとはわかりつつも、アメリカンを用意したこともあった。
タンブラーが原因だと思い、他の容器を試したこともあった。提供する度にトレーナーさんは賛辞の言葉を送ってくれた。
しかしどのコーヒーも、朝一番に淹れたものよりも何かが失われているのは確かだった。どうやってもトレーナーさんに一番美味しい状態のコーヒーを飲んでもらえないことに、頭を抱えた。
「それじゃあ、今夜ウチ泊まる?明日の朝一緒に飲もうよ」
無邪気なその提案は、あらゆる意味で私にとって渇望していたものだった。




7: 名無しさん(仮) 2024/08/31(土)21:04:19

器具と豆、着替えとシャンプー類と……何かあった時の用意を鞄に詰め込み、トレーナーさんの家にお邪魔する。
トレーナーさんの生活感が溢れ、トレーナーさんのニオイに満たされたその空間にいるだけで、私の胸は爆発しそうなほど高鳴っていた。
二人で食卓を挟んで行う食事。非日常に思わず未来の姿を夢想してしまう自分を振り払う。トレーナーさんは何も変わらず、楽しげに笑っていた。
そしてお風呂を用意され、しっかり念入りに体と髪を洗い、髪を乾かして部屋に戻るとトレーナーさんがベッドメイキングを始めていた。
「今日はカフェはこっちで寝てね。僕はそこの床で寝るから」
「ダメ……ですよ、そんなの…」




[6]次のページ

[4]前のページ

[5]5ページ進む

[1]検索結果に戻る

通報・削除依頼 | 出典:http://2ch.sc


検索ワード

ウマ娘 | 怪文書 | ウマ | | トレーニング | トレーナー | | コーヒー | 自販機 | 真似 | 最初 |