【ウマ娘怪文書】アグネスタキオンが暴力的な臭気を放っていることに、ぼくは早くから気づいていた。だけど、あえて何も口には出さなかった


9: 名無しさん(仮) 2024/06/06(木)23:22:32

不平を漏らすタキオンをよそにシャンプーを準備する。
こちらも一度泡立ててから髪につけたのだが、つけたそばから泡が消えていってしまう。
また拡大して、拡大する。キューティクルが開き、髪全体がキシキシと突っ張る感じがあった。ひどく臭う。
かなり手強い髪だがシャンプーを3倍増しで投入し何とか泡立たせることができた。
「うわー目が見えないよー」
シャンプーハットの用意はなかった。
がしがしとやや強引に混ぜっ返すと、ぺったりしていた髪が膨らみを取り戻してきた。
特有の癖っ毛が、新芽のようにぴょこぴょこと顔を出す。
ぼくはシャワーのハンドルを開き、全身をすすぎ始めた。




10: 名無しさん(仮) 2024/06/06(木)23:22:58

高圧洗浄機の動画を見ているような快感があった。
泡が取り除かれて玉のような肌が露わになる。
フケが出そうだった髪につやつやした光沢が戻ってくる。
ぼくは全体を見ないようにした。だが部分だけでもその美しさは十分に伝わってきた。
ぼくはタキオンをたっぷり湯の入った浴槽に入れた。
タイマーをセットし、決められた時間だけ湯に浸からせるようにする。
墨汁を流し入れたように、お湯全体が黒く濁るかと思ったが、そんなことはなかった。
「この時間が一番嫌いだねぇ、タブレットを持ってくればよかったよ」




11: 名無しさん(仮) 2024/06/06(木)23:23:22

今更ながら考える。これはトレーナーとしての領分を超えているのではないかと。
朝食も昼食もタキオンの要望通りに作って持ってくる。
ときには忙しく研究に打ち込む彼女に食事を食べさせてやることもある。
それに加えて、ついに今回は風呂まで解禁してしまった。
常識で言えば、考えられないことだ。
しかしぼくはそれほど深刻には思い悩んでいなかった。
アグネスタキオンという存在は、この程度では揺らがないと考えていたからだ。





12: 名無しさん(仮) 2024/06/06(木)23:23:50

タキオンには、常識では捉えられない超然とした一面がある。
既成の概念を打ち崩すような、神秘性を備えている。
ぼくはそのことを好ましく思っていた。
それを損なわない限りは、どんなことでも受け入れようと思っていた。
ぼくは部分を知ればいい。全体を知る必要はどこにもない。
タイマーが鳴った。タキオンは浴槽から上がって、そのまま風呂を出ようとした。
手首をつかんで引き戻し、バスチェアに座らせる。
二度洗いは基本だ。ぼくはまたボディソープを泡立てた。
「ずいぶん強引じゃないか、モルモット君のくせに」
観念したのかタキオンは後ろに両手をついて、慎ましやかに足を開いてみせた。




13: 名無しさん(仮) 2024/06/06(木)23:24:18

そのときだ。
ふとぼくの視界にあるものが飛び込んできた。
○首だ。いや、部分を拡大していたから、それはピンク一色の背景色でしかない。
ただ、ピンクと肌色の境界線上に、茶色っぽい直線が数本走っていることに気がついた。
産毛だ。
微細構造が明らかになる副作用が、思わぬところに顔を出した。
通常は見えない産毛を見分けられるほどに、ぼくは部分を拡大していたのだ。
ぼくの背筋に悪寒が走った。




14: 名無しさん(仮) 2024/06/06(木)23:24:49

ぼくはタキオンのすねを見た。産毛があった。
ぼくはタキオンの腋を見た。産毛があった。
腋に至ってはひと目でそれとわかる茂みが生えていた。
ぼくは少なからずショックを受けていた。
ショックを受けている自分が、意外でもあった。




15: 名無しさん(仮) 2024/06/06(木)23:25:14

ウマ娘とて、生き物には変わりない。
毛が生えることに、なんの不思議もないはずである。
それなのに、心のどこかでタキオンは生えていないんじゃないかという思い込みがあった。
超然と神秘性が、音を立てて崩れていく。
急激に、拡大されていた視界が引き戻される感覚があった。
ズームが解けて、望遠から広角へと画角が切り替わっていく感覚。
ぼくは激しいめまいに襲われた。




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