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【ウマ娘怪文書】「原稿よし、着替えよし、ノーパソよし、充電器よし、デジカメよし、アメニティよし」「私もよし!」旅行カバンに荷造りをしているとダイヤちゃんが勢いよく隣に座り込んできた。くっついてくるダイヤちゃんを優しく剥がす。


8: 名無しさん(仮) 2024/05/06(月)20:07:21

ダイヤちゃんを揺さぶり起こそうとしたが、布団がはだけると彼女の素肌が見えたので、あまり直視しないよう目を逸らしながら浴衣を着せてやる。
「ダイヤちゃん、ダイヤちゃん、僕もう行かなきゃだから。デジカメはあっちで充電中ね。昼過ぎには戻るから」
「んああ…はい…」
寝ぼけ眼のダイヤちゃんが首に絡みつき、頬にキスをしてきた。彼女をそっと布団に寝かせると、僕は大慌てで部屋を出てタクシーを捕まえた。




9: 名無しさん(仮) 2024/05/06(月)20:07:31

講演には20分前に到着することが出来た。道中、タクシーが信号に捕まらなかったり道が空いていたおかげだろう。僕は控室で呼吸を整えながら、貰ったミネラルウォーターをゴクリと音を鳴らして飲む。
講演までの時間にこのバクバクした気持ちを落ち着けよう。それと原稿の読み合わせも。ふと、手に握るUSBを見る。もしこのUSBにPDFが入ってなかったら、もう一巻の終わりなのだが。
大丈夫だ、落ち着け。朝ちゃんとデスクトップのフォルダを移した。というか今更どうしようもないことを悩んでも仕方ないじゃないか。
再度ミネラルウォーターを飲んで落ち着こうとしたところで、控室にスタッフが僕を呼びに来てしまった。




11: 名無しさん(仮) 2024/05/06(月)20:07:43

司会の紹介を受け、壇上に上がる。浴びせられるライトが熱を持って眩しい。
会場には、未来のトレーナーである後輩たち、母校の恩師たち、それにサトノグループ関係者、地元メディア、せっかくだからと見に来てくれた地元の人たちが来ていた。
マイクを受け取り、USBを壇上のプロジェクターに差し込む。スクリーンにはPDFの表紙、『僕のすべて』が映っていた。ひとまず、一巻の終わりは避けられたようで、胸を撫で下ろす。
何度も読んだ原稿を机に置いて、マイクの電源を入れる。簡単な挨拶をすると、会場から拍手が巻き起こった。





12: 名無しさん(仮) 2024/05/06(月)20:08:02

時折メディアが炊くフラッシュの中、講演は順調に進んだ。何も自分を大きく見せる必要はない、ありのまま自分ががむしゃらにダイヤちゃんに向き合っていったことを素直に喋るだけだ。
その中で僕は何度も繰り返し、担当ウマ娘としっかり付き合い、彼女たちのサポートをするべきと説いた。
ダイヤちゃんは素質の塊だった。僕は彼女が100%のパフォーマンスでトレーニングを行い、レースを走れるよう、足りないところを補うことに徹した。
独創的なトレーニングでウマ娘を鍛え上げる才能溢れるトレーナーもいるかもしれない。だがそうでない者は、担当に寄り添い、理解し、補ってやることこそ大事だと。




13: 名無しさん(仮) 2024/05/06(月)20:08:19

「そしてそのアプローチの一つがこちらです」
スライドショーを操作するリモコンのボタンを押す。画像を送るタイミングに合わせ原稿を読み進める。何度も練習したことだ。
しかし、会場の反応がそれまでと違ったため、僕は思わず言葉が出なくなってしまった。
「う……ん」「なんとすばらしいトレーナーだ…」「流石サトノのトレーナーはちがう」「すごいの一語につきる」
どよめく会場。炊かれるフラッシュ。何事かと思い振り返ってスクリーンを見ると、そこには躓いたダイヤちゃんを抱きとめる僕の写真が映っていた。




14: 名無しさん(仮) 2024/05/06(月)20:08:32

ぶわっと溢れる汗。一体なぜ?もしや朝のあの混乱でUSBにデジカメの画像も一緒に…?何十分という体感時間の中で思考を巡らせ、実際の時間は1秒にも満たないうちに僕は次の言葉を紡ぎ出した。
「このように、担当と心から打ち解け合うこともトレーナーとして大事なことです」
咄嗟の誤魔化し、原稿にないアドリブだが、僕のミスでダイヤちゃんに余計な風評被害を与えるわけにはいかない。リモコンのボタンを押すと、何事もなくPDFの続きに戻った。
どうやら混入した画像はあの一枚らしい。僕は講演を続け、まるであの写真も予定通りで何も恥ずべきものでもないというように振る舞うと、会場の人たちも何やら良いように理解してくれたのか、こくこくと頷いていた。




15: 名無しさん(仮) 2024/05/06(月)20:08:44

「こうして、彼女はG1を制覇することが出来、僕はその夢のお手伝いを遂げることが出来ました。彼女との付き合いの中で、担当ウマ娘と一心同体になる、それは何よりも大事なことだと学んだわけです」
リモコンのボタンを押し、最後に引用物の出典を表示し、深々と頭を下げる。
「本日はこのような機会をいただき、ありがとうございました」
拍手はなかった。会場は再びざわついている。皆一様に何かを呟いていた。
「う……ん」「なんとすばらしいトレーナーだ…」「流石サトノのトレーナーはちがう」「すごいの一語につきる」
慌ててスクリーンを振り返ると、そこには乱れた布団の上で爆睡する、上半身裸の僕と、カメラに向かってピースをしている浴衣姿のダイヤちゃんが映っていた。
すぐさまリモコンのボタンを押し、出典が明記されたPDFのページが表示されると、講演が終わったのだと理解した会場の人たちは割れんばかりの拍手を贈ってくれた。








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