1： 名無しさん（仮） 2024/05/15(水)20:22:58

その日、メジロアルダンのトレーナーは同僚のトレーナーたちと一緒に帰路につこうとしていた。
アルダンとの午後のトレーニングを終え、彼女を先に帰らせると残りの庶務を片付けたところであった。同じく帰り支度を始めた同僚たちと合流し、示し合わせたわけでもなく固まって帰路についた。
皆怖かったのだ。少し前から学園から注意喚起の通知が届いてた。何でも、担当ウマ娘の姿に変装して近づいてきた偽物のウマ娘に話しかけられた、というトレーナーが幾人か居たらしい。
目的もわからないそれは、特に大きな被害が出たわけでもないが、こうしてなんとなく集まって帰ろうとする程度には彼らの不安を掻き立てた。

2： 名無しさん（仮） 2024/05/15(水)20:23:08

「ウェーイ！トレぴ帰り？」
そんなメジロアルダンのトレーナーの前に現れたのは、彼の担当ウマ娘、メジロアルダン……の偽物であった。
水縹色の透き通った美しい髪。それなのに何故周囲の同僚たちが偽物と思ったか。それはその格好が原因だった。
季節外れの長袖を肘まで捲り、胸元は大きく第三ボタンまで開けたラフさ。腰にはベージュのセーターが結ばれ、グレーのチェックのスカートはギリギリまで短く詰められていた。
おまけに目元にはラメのシールまで。明らかにトレセン学園の生徒ではないその出で立ちは、例え髪色が似通っていようとも深窓の令嬢らしさは欠片も見当たらなかった。
「アルダン！？そのファッションは…？」

3： 名無しさん（仮） 2024/05/15(水)20:23:20

アルダンのトレーナーは騙されやすい男だった。偽物に駆け寄ったトレーナーは突然のことに驚いてしげしげと目を見張っているが、当の偽物はというと彼に向けてウインクやピースを繰り返している。
遠くの方から彼を心配する周囲の声に、トレーナーは確信を持って「本物だよ」と答えた。呆気にとられる偽アルダンをよそに、彼は早口で語り始める。
「このきめ細やかで繊細なのに力強さを感じさせるすべすべの脚は間違いなくアルダンだよ」
屈んでルーズソックスとスカートの間の生脚を撫で回すトレーナー。今度は偽アルダンの手を握った。
「この冷たく柔らかい手、何度も握ったからわかる。アルダンの匂いもする」
カラフルで派手な付け爪の手を愛おしそうに握るトレーナーに、偽アルダンは顔を赤くした。

4： 名無しさん（仮） 2024/05/15(水)20:23:31

「それにこの吸い込まれそうな瞳、例えイメチェンしても見間違うわけない！」
突然立ち上がったかと思うと今度は偽アルダンの顔を覗き込みまくしたてる様子は、最早どちらが不審者なのかわからない。
トレーナーの視線がシャツの胸元に落ちた。
「それにここにほくろもあるし」
と言いながら偽アルダンのシャツのボタンを勝手に閉じていく始末。同僚たちが、もしこれが彼の勘違いで目の前のウマ娘が偽物だった場合、罪に問われるのは彼の方ではと危惧し始めた時である。
トレーナーは不思議そうに、偽アルダンのカッターシャツの襟を摘んだ。襟の先についた茶色の焦げ跡に見覚えがあったのだ。
「あれ…これ、僕のカッターシャツじゃないか？」

5： オワリ 2024/05/15(水)20:23:44

それは、初めてアルダンがアイロンがけに挑戦した時、うっかり彼女がつけた焦げ跡であった。トレーナーはその焦げ跡を愛おしく大切に想っていたのだ。
トレーナーが、そうつぶやくや否や、偽アルダンは本物と見紛う程のスピードでどこかに逃げていった。
同僚たちが駆け寄り、アルダンのトレーナーの肩を叩く。危ないところだったな、偽物に何かされなかったか？と声をかける。だが……。
「偽物なんかいなかったよ」
とアルダンのトレーナーはそっけなく答えると、一人何事もなかったように帰路へと戻っていった。
アルダンが二人のために購入した一軒家に着くと、先に帰っているであろう同居者に「ただいま」と声をかける様子を、同僚たちが見送っていた。

44： 名無しさん（仮） 2024/05/15(水)20:43:06

>>5
>アルダンが二人のために購入した一軒家
ちょっと待って？

52： 名無しさん（仮） 2024/05/15(水)20:45:55

>>44
この家…どこか変…