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【ウマ娘怪文書】「ほらトレ公、口開けな」開けた口にひょいひょいと肉が放り込まれる。噛んでみるとレバニラだった


1: 名無しさん(仮) 2024/04/29(月)23:00:44

「ほらトレ公、口開けな」
開けた口にひょいひょいと肉が放り込まれる。
噛んでみるとレバニラだった。
レバーは弾力に富んでいて、臭みもまったくなく、オイスターソースを効かせたタレとよく調和していた。
ニラともやしも絶妙な炒め具合で、しゃきしゃきした食感を損ねることなく、レバーのお供として確かな存在感を放っていた。
青ネギに似たニラの香りが鼻から抜けていくのが心地いい。
このような夜食が食べられる寮生たちは幸せである。
「あったりまえさ、なんたってヒシアマ姐さんの手料理なんだからね」




2: 名無しさん(仮) 2024/04/29(月)23:02:10

寮生の夜食を試食してほしい、と頼まれたのが一ヶ月前。
それから毎週、ヒシアマゾンは新しいメニューを試作してはトレーナー室に持ってきていた。
最初の週はスタミナにんにく丼だった。豚丼の上にたっぷりのおろしにんにくを乗せたものだ。うまかった。
二週目はネバネバとろろ丼だった。納豆、山芋、オクラの三色丼に梅肉を添えたものだ。うまかった。
三週目は亜鉛マシマシグラタンだった。牡蠣にパプリカ、ほうれん草を具材としたチーズ三割増のグラタンだ。うまかった。
四週目は柳川鍋だった。どじょうとごぼうを煮て卵でとじた伝統料理だ。うまかった。
そして今週、ヒシアマゾンはレバニラ炒めを作って持ってきた。
これも当然、うまかった。
しかし何か、拭えない違和感があった。
うまく口に出せないが、メニューに偏りがある気がする。
「なんだ、今ごろ気づいたのかい?」
ヒシアマゾンはそう言って笑った。
「あいつらのリクエストでね。うんと精のつくものを食べさせてほしいって言うんだ。だからメニューもそれ用にアレンジしてあるんだよ」






3: 名無しさん(仮) 2024/04/29(月)23:03:25

なるほど、精のつくものを……。
それならば、頷ける。
「おかげさまで好評でね。"長持ちするようになった"ってよく褒められるようになったよ」
──長持ち?
「アタシも詳しくは知らないんだけどね。体力が長続きすることをそう呼ぶらしいよ。まあスタミナがついた、くらいの意味じゃないかね」
若者言葉はよくわからない。
ごくりとレバニラを飲み込むと、矢継ぎ早に二口目、三口目が差し出された。
「いっぱいあるから、もっと食べな」





4: 名無しさん(仮) 2024/04/29(月)23:04:54

ぐいぐいとニラとレバーが口に押し込まれる。
頑張って咀嚼していると、ヒシアマゾンは大きくため息をついた。
「にしても、寮でこの食べっぷりが見られないのは、返す返すも残念なことだね」
どういうことだろう。
先ほど好評だと言っていたではないか。
「いやね、あいつら、人前では食べる姿を見せてくれないんだよ。いつもタッパーに詰めて、部屋に持ち帰っちまうのさ。夜食だから、好きな時間に食べたいんだって。まあ、わからなくもないけどね」
せっかく作ったのに、目の前では食べてくれない寮生たち。
作る側が不満を感じるのも無理はない。
それにしても、“長持ちをする"という独特な言い回しといい、人前で食べる姿を晒さないナイーブな一面といい、美浦寮生たちは個性的なウマ娘ばかりである。




5: 名無しさん(仮) 2024/04/29(月)23:06:19

翌週、ヒシアマゾンはうなぎの蒲焼を持ってきた。
「トレ公、口開けな」
ふっくらと焼かれたうなぎは、表面に少し焦げ目がついていて、カリカリした食感も同時に楽しむことができた。
ふっくら、カリカリ。秘伝のタレとの相性もいい。自然とご飯が欲しくなる。
「どんどん食べなっ」
提供のスピードに食べる速度が追いつかない。
頑張って咀嚼していると、ヒシアマゾンが胸を張って話し始めた。
「美味いだろう? 寮生の間でもちょっとした評判なんだ。精力倍増のカンフル剤だってさ」
カンフル剤、あい変わらず独特な言い回しである。
「夜食を渡したやつはみんな肌の調子が良くなってねぇ、次の朝、顔をテカテカにして起きてきたやつもいたっけ」
肌がテカテカ……。
ヒシアマゾンの料理には美肌効果もあるようだ。
「だけど困ったことにトレーニングの調子は良くなくてね。なんだか全員腰をかばうみたいなひょこひょこした走りをするようになっちまったんだ。どーも腰砕けっていうかねえ」
腰砕け……。
ヒシアマゾンの料理は思わぬ副作用も起こしているようだ。




6: 名無しさん(仮) 2024/04/29(月)23:07:27

「ところでトレ公、話は変わるんだけど」
話題を変えたヒシアマゾンの顔は、どこか曇って見えた。
居づらそうに腰をソワソワさせながら、ぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「最近、トレーナー寮と美浦寮をつなぐ道路で、その、アレが出るっていう噂が流れているんだが、知らないかい?」
出る? 何も知らない。
「その……ウマ娘の形をしたウマ影が見えたっていう噂があるんだよ」
ウマ影。きなくさい話になってきた。
「寮の窓から飛び出していくウマ影を複数見かけたっていう証言が寄せられてるんだ」
少し考えて、思いついたことを口にした。
「ひょっとして幽霊……」
それを聞いたヒシアマゾンは飛び上がらんばかりに驚いた。
「ば……ばかっ、滅多なこと言うんじゃないよ! 幽霊なんて非現実的な存在、いるわけないじゃないか! トレ公のばかっ」
確かに、言われてみればもっともである。現実的に考えれば幽霊などいるわけがない。
しかしだとしたら、噂のウマ影とは一体何者なのだろう。
頭の中で、夜食を食べる美浦寮生と噂のウマ影が重なって見えた。




7: 名無しさん(仮) 2024/04/29(月)23:08:37

翌週、ヒシアマゾンは白子の天ぷらを持ってきた。
「トレ公、口閉じな」
開いていた口をぱっと閉じた。
まさかのお預けである。
「聞きな」
膝を揃えて傾聴の姿勢を取る。
ヒシアマゾンは渋面を作りながら、重たい口を開き始めた。
「噂のウマ影の正体、わかったよ。結論から言うと、うちの寮生だった」
美浦寮とトレーナー寮をつなぐ道路に現れたというウマ影、その正体はほかでもない美浦寮生だったのだという。
「あいつら、アタシに内緒で夜な夜な脱獄ならぬ脱寮を繰り返していたんだ。そしてトレーナー寮に入り込み担当トレーナーと逢瀬を重ねていた」
ヒシアマゾンは拳を握りしめ下唇を噛んだ。
白子の天ぷらは、時間がたったせいか少し衣がしなびて見えた。




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