1： 名無しさん（仮） 2024/03/30(土)19:01:50

ばちん
けたたましくトレーナー室のドアの外側から響いた音に
サクラバクシンオーとニシノフラワーのトレーナーが顔を見合わせるが
一拍置いてドアが開き勢いよく一人のウマ娘が飛び込んで来た
「おお！おお！トレーナーさん！よくぞご無事で！」
「あ、ああすまなかったなバクシンオー…」
恐らくはその驀進が勢いを余らせたのであろう
だが額を激突させ赤くしている事よりも
サクラバクシンオーの意識は目の前の担当トレーナーにあった
彼が消息を絶ったのは一週間程前…
ニシノフラワーと併走するバクシンオーの走りを見ている最中
制服姿の生徒に扮し紛れ込んでいた黒づくめの者に羽交い絞めにされ
バクシンオーがゴールする頃には忽然と姿を消していたのである
白昼堂々の拉致であった

2： 名無しさん（仮） 2024/03/30(土)19:02:24

なんの事はない、トレーナー狩りだ
入学を控えたこのシーズンは闇の勢力も新人を欲している
その為のこの時期、担当トレーナーが拉致される事件が頻発するのだ
「しかし大事ありませんか？お腹は空いていませんか？」
「バクシンオーさん…お気持ちは分かりますが
そんなに捲し立てたらトレーナーさんもお話できませんよ」
後からやってきたニシノフラワーが彼女を宥めようとするが
掛かり気味であるバクシンオーの耳に果たして届いているかどうか
「大丈夫だよバクシンオー。彼が門の前に倒れて居たのを俺が連れて来たが
記憶が曖昧な以外は特に健康状態の問題は無い」
ニシトレが補足すると漸く落ち着いたのか
バクトレから二歩、三歩と離れたバクシンオーが深呼吸をする
「そうなんですね！？いや申し訳ありません気持ちが先行してしまったようで…
それではトレーナーさん！」
「ん？」

3： 名無しさん（仮） 2024/03/30(土)19:02:41

「…いかがでしたか？」
「ﾋｭｯ」
不意の抑揚の無い声に息を飲んだ音が響く程度に部屋の空気が一変した
音の出所であるニシトレはそのまま口を押え
ニシノフラワーの方も突然の事にバクシンオーとバクトレを交互に見る
闇の者によって拉致されたトレーナーは消息を絶つものの
短くて三日、長くても一週間程で学園に復帰する
同じ時期、地方レース場で目覚しく成長するウマ娘が現れると言われるが
因果関係は不明とされている
じい、と自らのトレーナーを見つめるサクラバクシンオー
その瞳からは感情を読み取る事は出来ない
だがそんな眼差しをバクトレもまた微動だにせず受け止めていた
「成果はあった。粒ぞろいで中々成長が楽しみだ」
億面も無く言い放つ
「そうですか」

4： 名無しさん（仮） 2024/03/30(土)19:03:07

ふっ…と空気が一瞬だけ緩み
「それは私の側を離れた上で必要な事でしたか？」
「ｸﾜｯ」
場の圧に耐えきれずニシトレが床に転がる
「長期的に見ればそうだな」
「ふむ？」
「幾人かスプリンターの中にステイヤーを見た
伸びれば或いは、中央に来るかもしれない。君と同じ様な志でだ
鎬を削る相手は多い方が良いだろう。孤独である必要は無いからな」
「そうですか」
頷くバクシンオー。飄々としたバクトレの握った掌にじわりと汗が滲む
「…ところでトレーナーさん、何のお話ですか？」
「ああすまんすまん。記憶が曖昧だからうわ言だ。気にしないでくれ」
「そうでしたか！いや失敬失敬！なら結構です！」
急に二人が顔に表情を取り戻す

5： 名無しさん（仮） 2024/03/30(土)19:03:20

「はっはっは！ではトレーナーさん、早速トレーニングに参りましょう」
「おいおい一応病み上がりなんだが…」
「またまた！お元気といったじゃないですか！それと…」
「うん？」
「確かに私も寂しいのは嫌ですが
そう思うのであれば、なるべくもう側を離れないで下さいね」
「そうだな」
短い、しかし力強い一言
それに満足したのかバクシンオーがターフへと驀進していき
バクトレが静かに後へ続く

6： 名無しさん（仮） 2024/03/30(土)19:03:40

そしてトレーナー室に残され床に転がるニシトレを介護しながら
成程ああいうのもあるのか、と
ニシノフラワーの賢さが20上がった。

8： 名無しさん（仮） 2024/03/30(土)19:05:34

>>6
>成程ああいうのもあるのか、と
孤独のグルメじゃねえんだぞ！！！！！！！