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【ウマ娘怪文書】凱旋門賞が行われるロンシャンレース場が改修工事を行う事になった。伝統あるこのレース場を守るため、欧州の各地からヒトミミ・ウマミミを問わずして腕利きの技師が集い、1秒でも未来に残そうと汗を流している


1: 名無しさん(仮) 2024/02/22(木)12:55:13

凱旋門賞が行われるロンシャンレース場が改修工事を行う事になった。
伝統あるこのレース場を守るため、欧州の各地からヒトミミ・ウマミミを問わずして腕利きの技師が集い、1秒でも未来に残そうと汗を流している。
そういうワケでこのレース場では暫くレースが行われない。昨日行われた凱旋門賞レースが、今年の前半最後になるだろうとは学者達の見解だ。

「嬉しい反面、少し物寂しいなぁ」

凱旋門の近くでジェラートを頬張りながら、ヴェニュスパークは呟いた。
今日はトレーナーによって汚部屋、もとい片付いていない部屋を掃除するための掃除道具を買いに来た。現在彼女のトレーナーは掃除道具を入念に見定めている。
https://gia-chan.com/wp-content/uploads/2024/02/1708574113694-150x150.png




2: 名無しさん(仮) 2024/02/22(木)12:55:35

お前の部屋だろう、と言ってはいけない。掃除道具選びに精を出せる女だったら部屋の掃除くらい自分でやっているのだから。

「あーあ、暇だー。どっか走りたいー、筋トレしたーいー。掃除よりそっちが大事でしょうがー」

……一言くらいはぶつけてやっても良いかも知れない。
ジェラートの最後の一口を放り込んだヴェニュスパークは、ふと何の気無しにエトワール凱旋門に目を向けた。
戦勝記念碑でもある、今まさにクリーム色から真っ黒に変色しつつある革製のそれは、足と思しき箇所から毒液の滴る触手を伸ばし……。

「ヤバい、ウマ娘イーターだ!」






3: 名無しさん(仮) 2024/02/22(木)12:55:54

ウマ娘イーター
有史以来、圧倒的なフィジカルを持つウマ娘を捕食してきたウマ娘の天敵だ。
植物を始め、有機物や実在の人物に化ける事もあり、未だ生態系には謎が多い。一説にはウマソウルの抜けた後、ナニカの精神と肉体が魂を求めた成れの果てとも言われている。
全身から特殊な電磁波や花粉を飛ばし、ウマ娘を弱らせる。その乾燥粉末が暴徒ならぬ暴バ鎮圧に使われると言えば強力さが分かる筈だ。
そしてイーターにも種類はあるが、こういった巨大建築物に化けたり乗っ取ったりしたタイプは間違いなく食欲が暴走する。巨体を維持するため、ウマ娘と見れば片端から捕食しようとするからである。

「逃げて皆ぁー! 凱旋門がウマ娘イーターになった!」





4: 名無しさん(仮) 2024/02/22(木)12:56:20

彼女の声を聞いた人々の反応は速かった。
悲鳴をあげつつも三々五々に逃走し、イーターの狙いを逸らすように逃げ惑う。逆にヒトミミの中でも力自慢な人々はそこに留まり、傘やカフェの椅子を武器にイーターの前に立ちはだかった。世界中で共有されている『対ウマ娘イーターレッドブック』の基本的な対処法だ。
イーターは人間に有効な能力を持てない。ここで足止めを狙うつもりなのである。
私も逃げないと、とヴェニュスパークは走り出そうとして、しかし強かに顔面を地面に打ち付けた。見れば右足が地面から生えた触手に拘束されており、ビクとも動かないのだ。

(地面の中を通して触手を!? 花粉や電磁波じゃなくて、毒液に触れた部分を無痛で無力化させるタイプ!? 何それ知らない、新型!?)

あっと言う間に葡萄のようにイーターの前へ吊るされてしまうヴェニュスパーク。
他にも同様の方法で捕まった子がおり、まるで盾のようにイーターの周囲に並べられてしまっている。これでは軍隊が出て来ても戦えない。いくら頑丈なウマ娘でも銃弾や砲弾を受けたら死んでしまう。




5: 名無しさん(仮) 2024/02/22(木)12:56:49

『ア゛ァァァァァ……』
「ひっ! や、やだ、やだぁ! おかーさぁーん!」
「やめろ! やーめーろぉーっ!」

しかもどうやら食糧確保の意味もあったらしく、捕らえた小さな子を食べようとしている。
何とかしたいが、文字通り宙ぶらりんでは暴れても触手が一本揺れるだけだ。触手を蹴ってみても痛痒一つ与えられた様子は無い。寧ろ毒液が増量し、足の感覚が消えてきた。

『ア゛ーン』
「おか」

それが少女の発した最後の言葉。
口の中に放り込まれ、何かが砕ける音と共に血が噴き出したのだった。




6: 名無しさん(仮) 2024/02/22(木)12:57:23

「うっす、間一髪だったな」
「あ、あれって……」
「やぁヴェニュスパーク君、無事で何よりだ。ゴルシ、この子を!」
「任せな!」

だがその血は少女のものに非ず。ギリギリで放り込まれた巨大なアンカーが触手を切断し、つっかえ棒のようにイーターの口を止めたのだ。
アンカーが罅割れイーターの肉も裂けたが、取り敢えず少女は気絶しただけで無事である。

「デカいな、日本でもこのサイズは殆ど見た事が無いぞ」
「ぐちぐち言うな、やるぞ!」
「老骨に鞭を打たせてくれるわ……」
「ひゅー! ご機嫌だね!」
「微塵切りにしてピザ窯の装飾にしてやらぁっ!」
「肉はソーセージ用に残しておいてくれよ?」
「いや食うなし! ウチのメシマズ以下の何を作る気だよ!」




7: 名無しさん(仮) 2024/02/22(木)12:57:48

それを皮切りに次々とあちこちからウマ娘のトレーナー達が集まって来た。
いずれも日本のチームを始め、イギリスやドイツ、オランダやイタリアといった凱旋門賞を目指した強豪達である。
彼らの剣が、炎が、岩が、機関車が、バイオリンが、パイが、次々とイーターの触手を破壊し、吊るされた子達を下で待っていた相方たるウマ娘達が受け止める。
程無くして捕らえられたウマ娘達は全員救出された。

「ヴェニュスパーク」
「とれ、な……」
「無事で良かった、本当に良かった」

くしゃっとした顔で涙を浮かべるトレーナー。
それを見てヴェニュスパークはさっきまで自分が命の危機にあった事、そして今は助かった事をやっと自覚できた。




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