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【ウマ娘怪文書】昔から困っている人を放っておけなかった……と、自分で言ってしまったら恥ずかしいような気がする。しかし、自分がトレーナーを志したのもレースを駆け抜けるウマ娘の姿を見たからではなく、ドキュメンタリーで走ることをあきらめざるを得なかったウマ娘の姿を見たからであった


1: 名無しさん(仮) 2023/10/20(金)23:18:53

昔から困っている人を放っておけなかった……と、自分で言ってしまったら恥ずかしいような気がする。しかし、自分がトレーナーを志したのもレースを駆け抜けるウマ娘の姿を見たからではなく、ドキュメンタリーで走ることをあきらめざるを得なかったウマ娘の姿を見たからであった。
そんな俺が最初に出会ったウマ娘の名はケイエスミラクル。生まれつき身体が弱い彼女はその身体を使い切るかのような、そんな自分を顧みない速さを持ったウマ娘であった。この子を担当したい。その走りを見たときからそう思った。
「いいんですか? おれ、トレーナーさんの期待に応えられるか分からないのに……」
「逆だよ。君が存分に走れるよう、俺が頑張るんだ。君が期待してくれるように頑張りたいんだ」
一緒にトゥインクルシリーズを駆け抜けよう。そう約束して彼女との契約を決めた。

「えぇっと……どうしよう。新人さんだと思ってたのに、もう契約してるなんて……」
契約から一週間。ケイエスミラクルの練習を見ていたある日。何やら独り言を呟きながら左回りにくるくると歩き回るウマ娘がいた。
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2: 名無しさん(仮) 2023/10/20(金)23:19:11

「君は……サイレンススズカか。どうかしたのか?」
「あっ……トレーナーさん。あのときはありがとうございました」
彼女が言う"あのとき"とは以前にアドバイスをしたことを言っているのだろう。まだ俺がケイエスミラクルと契約をする前、苦しそうに先行策の練習をする彼女に「思うがまま、存分走るといい。君は逃げの天才だから」と伝えたのだ。その後満足気に走り抜ける彼女を見て、ほっとひと安心したのを覚えている。
「それで……今のトレーナーさんと相談して、あなたと契約しようと思ってたのですが……」
そう言うとサイレンススズカは申し訳無さそうにケイエスミラクルを見た。
「トレーナーさん。おれのことなら大丈夫です。きっと彼女のほうがおれよりトレーナーさんのことを必要としてますよだから、おれとじゃなくて彼女と契約を……」
「何を言ってるんだ! 俺はどっちも支えたい。二人と契約するよ」
ほとんど、反射のようにそう宣言していた。新人トレーナーなのに複数人と契約するなんて困難なことだろう。それでも、俺はそうせずにはいられなかった。






3: 名無しさん(仮) 2023/10/20(金)23:19:25

それからまた一週間。資料を取りに職員室へ続く廊下を歩いていると、一人のウマ娘とぶつかった。その際、ポケットに入れておいたトレーナー室の鍵がどこかへ飛んでいってしまい、ぶつかった相手のウマ娘と探すことになった。
「ごめんなさい! ライスのせいでこんなことに……」
「そんなことないよ。俺の方こそ不注意でごめん」
鍵を探し回る間、彼女から色々なことを聞いた。彼女は自分のことを「不幸を呼ぶウマ娘」だと思っていること。それでもいつかは幸せを呼ぶ存在になりたいということ。絵本が大好きで、何度も読み返すお気に入りのものがあることなど……
鍵を探して30分ほど経った頃、目的のものは彼女のポケットに入り込んでいた。そのことに気づくと、再び彼女は何度も謝罪を繰り返した。
「ごめんなさい、ごめんなさい! ライスのせいでこんなに時間を使わせちゃって!」
「そんなことないさ。むしろ、君のポケットにあってラッキーだったよ。もし窓から外にでも飛んでいたらもう見つからなかっただろうから。俺にとって君はもう幸運を呼ぶウマ娘だよ。それじゃ、ありがとね」





4: 名無しさん(仮) 2023/10/20(金)23:19:45

「あっ! 待って…………行っちゃった。今のバッジ、トレーナーさんだよね。それに、新しい鍵だったから、きっと新人さん……」
その次の日、おずおずとした様子でライスシャワーがトレーナー室を訪ねてきた。既に担当しているウマ娘がいると知ると帰ろうとした彼女を引き止め、走りだけでも見せてくれないかと頼み込んだ。
彼女の走り、そしてトレーニングの様子を見て、確信した。俺はこの子を担当しなくてはいけない。他の二人にも共通する危うさを感じたのだ。遠慮する彼女に何度も頭を下げて契約を結んだ。新人なのにもかかわらずデビュー前のウマ娘を3人担当することが不安ではあったが、それ以上に3人を見過ごしたくないという思いが強かった。

「むむむ……独占契約ならず、なのです……」
その次の週。さらに担当ウマ娘が増えた。彼女の名はアストンマーチャン。独特の雰囲気を持った彼女との出会いは校門の前。自身のアピールに悩んでいた彼女を見つけて二人で効果的な宣伝を考えたのだ。結果、毎朝早い時間に二人で集まって登校してくる生徒たちに挨拶をしようということになった。




5: 名無しさん(仮) 2023/10/20(金)23:20:07

「変な人ですね。会ったばかりのマーちゃんにここまでしてくれるなんて」
「なんだか放っておけなくてな。きっと君は世界のみんなが忘れないマスコットになれるさ」
「……本当に変な人なのです」
こうして挨拶をするようになってから数日、彼女は俺たちのトレーナー室を訪れ、チームに加入したいと申し出たのだ。4人ものウマ娘を新人の段階で担当するのはとてつもない困難だろう。それでも、俺はやり遂げようと思った。何が待ち受けようとも、彼女たちを支えなければ一生後悔する。なんとなく、そんな予感がした、

……⏰

「ミラクル、残念だけど、やっぱり君をスプリンターズステークスに出場させることはできない」
「……やっぱり、そうですか。心配しないでくださいトレーナーさん。おれなら大丈夫ですから。おれならまだ行ける場所があります。焦らずにみんなと頑張りますよ」
「……あれ? いいのか? あんなに出たがってたのに」
「自分のことを大事にすることもトレーナーさんへの恩返しだって気づきましたから。チームのみんながお菓子を用意してくれたみたいですし、一緒にゆっくり観戦しましょう」




6: 名無しさん(仮) 2023/10/20(金)23:20:24

……⏰

「ライス、君に対する批判だけど……気にしなくていいんだ。君は君の走りをしただけだ」
「え? ライスそんなこと気にしてないよ?」
「へ?」
「だってお兄さまとチームのみんながいるもん。ライスはみんなが信じてくれる今のライスが好き。だから、他の人がなにか言ってたってへっちゃらだよ」
「そ、そうか……それはよかった」
ライスに限ったことではないが、チームのメンバー全員、メンタルがいきなり完成したような気がする。もはやトレーナーとしてフォローするような場面がなくて逆に怖いというか……スカウトする時に感じた予感は杞憂だったのだろうか。




7: 名無しさん(仮) 2023/10/20(金)23:20:59

……⏰

「トレーナーさん。チームのみんなで海に行きませんか?」
「海? まだ春じゃないか。寒いよ」
「それでも、ですよ。チームの皆さんもトレーナーさんに水着を見せたいと言ってますよ」
彼女が目配せすると、他のチームメンバーもこちらへ「行きたい」と目線を送る。まぁ、練習終わりにお出かけとして行っても構わないだろう。そう思ってその日は海水浴には早いものの、日が沈んでから砂浜へ遊びに行くことにした。
「じゃじゃ〜ん! 少しセクシーさも取り入れたマーちゃんの水着姿、どうですか?」
「む…………すごく可愛いと思うよ、うん」
「それだけですか? 本当は他にも感想があるんじゃありませんか? さぁさぁ、正直にどうぞ」
「マーチャン、トレーナーさんに近すぎるわ。それにしても気持ちいい風……トレーナーさん、走ってきてもいいですか?」
「あ、おれも一緒に走りたいです」
「ライスも、走りたいなぁ。あと、それが終わったらお兄さまと一緒に砂のお城も作りたいなって」
季節外れの砂浜遊びだが、彼女たちはとても楽しそうだ。こちらは少し肌寒いくらいなのに、彼女たちはへっちゃらなようだった。流石はウマ娘。




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