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【ウマ娘怪文書】愛バのキタちゃんは自己をあまり出してくれない。誰にでも親切で、朗らかでみんなの頼りになろうとする彼女は、どこか自分というものが薄い気がした


1: 名無しさん(仮) 2024/01/06(土)20:10:19

愛バのキタちゃんは自己をあまり出してくれない。誰にでも親切で、朗らかでみんなの頼りになろうとする彼女は、どこか自分というものが薄い気がした。
お祝いにどこか旅行に行かない?と問えば、二人で一緒に居られるだけで嬉しいと言う。
何か欲しいものはある?と問えば、二人で過ごせる時間が最高の贈り物だと言う。
誕生日に何かしようか?と問えば、せっかくですからケーキを買って食べませんか……二人で。と言う。
思うに、いい子でいようとして"いい子すぎる"んじゃないだろうか。僕があのくらいの年齢の時は、もっともっと子供だった。世界の中心は自分たちだった。
だから今度の有馬の優勝祝いは、キタちゃんの欲を引き出して見せる!と一人意気込んでいた。




2: 名無しさん(仮) 2024/01/06(土)20:10:31

有馬記念から少し経って、僕はトレーナー室に呼び出した彼女に、お祝いに何が欲しいかを単刀直入に聞いたのだった。
「二人で温泉旅行なんてどうでしょう?」
いつもと同じではダメなのだ。遠慮なんて僕たちの間には必要ない。もっともっと本心から欲望を解放してほしい。
そう頼み込むように彼女の両肩を掴んで説得すると、キタちゃんはわたわたと慌てた後、逡巡するように下を向いて口を開いた。
「じゃあ…えっと…トレーナーさん。じゃなくて、トレーナーさんといつも一緒にいるような気持ちにさせてくれる。そんな何かを……下さい」
ようやく引き出せた気がする。僕は小躍りしそうな気持ちを抑えて、必ず君が喜ぶものをプレゼントすると宣言し、街に走り出した。






3: 名無しさん(仮) 2024/01/06(土)20:10:45

やはりここは、アクセサリーだろうか。学生らしく文房具や日用品なんかも考えたが、有馬のプレゼントにはそぐわない。そんなことを考えながらデパートのジュエリーコーナーを歩く。
しかしキタちゃんは、アクセサリーはあまりつけないタイプ。一体どうすればと悩んでいる時、ガラスケースの中の指輪を見て閃いた。
そうだ、キタちゃんの大親友、サトノダイヤモンドも指輪をつけている。二人は友情の証にお揃いの指輪を持っているのだ。
サトノダイヤモンドが指輪を2つ持っているのに対し、キタちゃんは1つだけ。もう1つお揃いにするという意味でも、指輪が適任なのではないか?
思いついたら即行動、僕はLANEでキタちゃんに指のサイズを確認し、すぐに店員に声をかけた。





4: 名無しさん(仮) 2024/01/06(土)20:11:00

大晦日。キタちゃんから除夜の鐘を二人で聞きに行きたいとお願いされ、二つ返事で了承した僕は、キタちゃんを連れて山の中腹にあるお寺に来ていた。
厄除け祈願を終えて、長蛇の列から逃げるように、街を見下ろせる境内のベンチに腰掛けると、二人で突き始められた除夜の鐘を聞く。
街の明かりが小さな粒のように見えるほどの距離、それはまるでイルミネーションのようだった。僕はコートのポケットからごそごそと箱を取り出す。
「キタちゃん、手出して」
そう言われて何故か顔を赤くしたキタちゃんは、うつむきながらも左手の手袋を外しこちらに差し出した。




5: 名無しさん(仮) 2024/01/06(土)20:11:15

お揃いの指輪は、サトノダイヤモンドと同じく、左手の薬指に。指輪をつけられたキタちゃんは、しばらく街明かりにかざしながらそれをしげしげと見つめていた。
「有馬おめでとう。まだ学生だからイミテーションだけど、僕の気持ちね」
キタちゃんは指輪をはめた左手を大事そうに抱えると、涙をこらえながら僕の胸元にぼすん、と顔を押し付けた。
「あと数年、待っていてくださいね」
「もちろん!キタちゃんが成人したらちゃんとしたのをあげるよ!」
そのくらい、僕にとって彼女が自分の欲しいものを打ち明けてくれたのは喜ばしいことだったのだ。




6: 名無しさん(仮) 2024/01/06(土)20:11:28

除夜の鐘が突き終わり、僕たちは新年の挨拶を済ませると、帰路につく人だかりに混じって山を降りた。
はぐれないように、と手を差し出すと、指輪をつけたての左手が嬉しそうにこちらの手を握り返す。ついでにキタちゃんの尻尾もするりと僕の腕に巻き付いた。
「あたし、指のサイズを聞かれた時に、どの指なのかは言わなかったのに……トレーナーさんはしっかり薬指にはめてくれましたね」
そうだった。あの時は自分の閃きに興奮して突然指のサイズを聞いたんだった。けれども……。
「そこはうっかりしてたけど薬指にプレゼントするのは最初から決めてたんだ。絶対喜ぶと思って」
サトノダイヤモンドと両手お揃いの指輪。これなら絶対キタちゃんは喜ぶと思っていた。




7: 名無しさん(仮) 2024/01/06(土)20:11:42

「あたしはこんなに、胸が破裂しそうなくらい嬉しいのに……なんだか、トレーナーさんの方が嬉しそう」
手を繋いで歩くキタちゃんが口元を緩ませながらこちらを見た。
「そりゃそうさ。だってキタちゃんがこれがほしい!って言ってくれたんだもん。絶対キタちゃんの望むものをあげようって思ってたんだ」
素直に答えると、彼女は何かを考えるように遠く、真っ黒な夜空を見つめた。
「そっかぁ。もっと正直に言えばよかった」
彼女が最後に何を言ったのかは、参拝客の喧騒でかき消されてよく聞こえなかった。けれども一先ず、僕のプレゼントは大成功に終わったようだ。




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