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【ウマ娘怪文書】「教科書とノートは…うーん、捨てるのはもったいないかな〜…とりあえず実家に…」がらんと広くなった寮の部屋で、引き出しをひとつずつ空にしていく


1: 名無しさん(仮) 2023/12/08(金)19:59:02

「教科書とノートは…うーん、捨てるのはもったいないかな〜…とりあえず実家に…」
がらんと広くなった寮の部屋で、引き出しをひとつずつ空にしていく
「ジャージ…は部屋着にして…勝負服…使う…使うかなぁ…持ってくか〜…」
まだ閉じてない段ボールをふたつ並べて、ひとつは実家に、ひとつは新居に
「ふぅ、やっと終わった〜…」
最後に机の上に残った写真立てを、身の回り品と一緒にスーツケースにしまう
トレーナーさんと二人でとった、初めてのG1レース
あれから何度も勝って、負けて、また勝って、負けて
「それじゃ…おつかれさまでした」
色々な思い出のつまった部屋に頭をさげて、そっとドアを閉める




2: 名無しさん(仮) 2023/12/08(金)19:59:21

事務室で荷物の発送を頼んで寮を出ると、スーツケースを転がしながら最後の景色を堪能する
道路を挟んだ学園の敷地からはトレーニング中の声が聞こえてくる
「あ、トレーナーさんにも挨拶しておこうかな」
グラウンドに向かうとトレーナーさんは新しいチームの子たちを指導している
(元気いっぱいだし、真面目だし、きっと私とは違うんだろうな〜)
そんなことを考えていると、ようやくトレーナーさんがこちらに気付いてくれた
「ヒシミラクルか、支度は終わった?」
「はい〜、荷物も送ったのであとはこれだけです」
「そうか」






3: 名無しさん(仮) 2023/12/08(金)19:59:49

後輩たちがトラックを走るのをトレーナーさんとふたり並んで眺める
思えば私もずっと向こう側にいたのだから、こうして隣にいるのは不思議な感じがする
この光景も最後かと思っても、不思議と悲しいとか寂しいとか、そんな気持ちもない
(私なりにやりきったってことなのかな〜…なんちゃって)
あまり長居してもみんなが戻ってくるし、変に先輩面するのもよくないだろうから
「じゃあ、私はこれで〜」
「ああ」
あっさりした別れの言葉を交わしてその場を後にする、しようとする
だけど、足が上手く動かない





4: 名無しさん(仮) 2023/12/08(金)20:00:15

(…言わなきゃ…いま、言わないと)
なんて声を掛けたらいいか分からない、それでも言わないと絶対後悔すると確信できる
(でも、なんて言えばいいんだろ…どんな顔するのかな〜…)
もし突き放されたら、あしらわれたら、そんな不安が心をよぎる
それでも勇気を出して振り返る
彼がみんなの方に行ってしまう前に
「あっ、あの! トレーナーさん…」
「どうした?」
「えっと、その〜…」
大きく息を吸って、吐いて、決心して口を開く




5: 名無しさん(仮) 2023/12/08(金)20:00:50

「…鍵、貸してもらえませんか〜? その、家の…」
「…は?」
きょとんとしたトレーナーさんが、次第に怪訝な顔になって、目が据わってきて
「ミラっ…ヒシミラクル、お前まさか…」
「い、いやいやいや! 失くしてませんよ? ただ、そのぉ…貰ったあと大事にしまっておいたら送る荷物に一緒に入れちゃって〜…」
「……」
(ああ、いい雰囲気だったのに〜…いきなりガッカリされちゃってるな〜…)
ため息をついたトレーナーさんは、それでも仕方なさそうにポケットから鍵を出してくれる
こういうところが優しくて、だから甘えてしまうんだと内心で言い訳しながら鍵を受け取る




6: 名無しさん(仮) 2023/12/08(金)20:01:25

「いいけど、勝手に出掛けて俺を締め出したりしてくれるなよ?」
「もー大丈夫ですよ〜。あっ、今夜はお祝いにお好み焼き作って待ってますよ。なにがいいですか〜?」
「ミ…ヒシミラクルに任せる」
「はーい」
さて、こうなればトレーナーさんの機嫌も元通り
あとは食材を買って新しい家に帰ったらセミプロの腕前を振るうだけ
練習を終えた後輩たちが騒ぎに気付いて寄って来る前に退散しよう
「どんな具がいいかなー。まずはエビと〜イカと〜…」
いつもより何倍も遠い家路は、いつもより何倍も楽しみな気持ちになれた




7: 名無しさん(主) 2023/12/08(金)20:01:59

鍵がないことに気付きたくない時ってあるよね




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