【ウマ娘怪文書】「………またッスか」ギクッと、肩を震わせる。やばい、流石に誤魔化しきれなかったか くんくんと、鼻を鳴らすバンブーメモリー。俺の担当彼女はしかめっ面で、こちらの肩口辺りに鼻を向けてくる
9: 名無しさん(仮) 2023/07/22(土)01:28:14
………何が一人の小娘だ。まるで、自分なんかよりずっと大人に見えて
脳裏で囁く悪魔が「さあ一本!」とコールしてくる。煩い黙れ、つーかここは学園内だし持ってきてない
考えて考えて……俺は、ポケットに手を突っ込んで
「あれ?それって………」
それを口に咥えた
「リラックスパイポ、だ。禁煙によく使われるグッズだよ」
「それくらいは知ってるッスけど………」
「駄目だ。ここで甘えたら多分即昔に逆戻りする。とりあえず、足掻けるだけ足掻いてみるわ」
ここまできたらもうヤケだ。成功するかどうかはわからないが、もう少しだけ頑張ってみよう
「まだ当分は、時折吸っちまうかもだけど………バンブーだって自分の苦手なトレーニング頑張ったりするんだから、俺ももう少しくらいな」
10: 名無しさん(仮) 2023/07/22(土)01:28:27
そう言うと、バンブーはポカンとした顔になって………
にまっと、嬉しそうに。それはもう嬉しそうに笑った
「ふふっ。トレーナーさんも意地っ張りッスね」
「おぉう、そうだぜ。誰かさんに似たようだ」
「一体、誰ッスかね」
そんな事をいいながら、リラックスパイポを思いっきり吸い込んでその爽やかな風味で口を満たす
ああもう。お言葉に甘えちまえばよかったんじゃないかと思わなくもないが。それでも、一度自分で言いだしたことだ
さっきバンブーは自分のことを大人だと言ってくれた。だったら、自分の行動に責任を取らなければ大人の名が廃るというものだろう
家に帰ってからの一本くらいは………少しの間、勘弁してもらうとして
11: 名無しさん(仮) 2023/07/22(土)01:28:43
「飴玉とかどうッスか?結構効果あるって聞くッスけど」
「ガムは常備してる。甘いのはあんまり好きじゃない」
「あ、そうでしたね」
ニコニコと笑うバンブーの顔を見れば………意地も張ろうって気になるってもんだ
「完全禁煙成功したら、何かお祝いするッスかね」
「期待しないで待っておくわ」
「そこは全力で頑張るじゃないんスか」
そんな会話をしながら、その日の時間は過ぎて行った
帰宅後、煙草の箱を握りつぶそうとして………やはりできなかった自分はまだ弱いのだろうけど
12: 名無しさん(仮) 2023/07/22(土)01:28:55
「トレーナーさんから煙草の臭いがするのも、あと少しッスねー」
「そうなるように頑張るわ」
きっと、もう少し。だから待っててもらうとしよう
13: 名無しさん(仮) 2023/07/22(土)01:29:08
●
トレーナーさんが所用で部屋を出て、五分ほど経った
もうそろそろ、大丈夫だろうか。いや、まだ下手な事をしたら見つかるかもしれない。もう少し待とう
でも、ぐずぐずしていたらすぐに帰ってきてしまうかもしれない。だとしたら………
「………………」
席を立って、そこに向かう
そこには、トレーナーさんが座っていた椅子があって。その背もたれにそれはかけられていた
「………いつもながら、大きいッスね」
自分とは肩幅から何から全然違うそれ………彼の上着に、思わず息を飲む
何度か深呼吸をして自分を落ち着かせて……というか言い訳して。アタシは、こともあろうに
15: 名無しさん(仮) 2023/07/22(土)01:29:40
ダボダボに余った袖口を鼻にやって、その臭いを慎重に嗅ぐ
様々な体臭に合流するかのように染みついたその煙草の臭いは、独特のフレーバーとなって鼻を刺激して
癖になる、なんて思ったのは何時の事だっただろうか。その時は大層慌てて、自分のふしだらな考えを必死に振り払おうとしたものだけど
今となってはそんな時間すら惜しい。なんせ、この香りもいつか消えてしまうのかもしれないのだから
「………煙草は、健康によくない。だから………」
だから、やめてほしい。それは偽りのない本心で
だけど、この臭いを心地よく思ってしまっている自分が否定できないのが、何より複雑な心境だった
「………煙草、やめちゃうんスかね」
16: 名無しさん(仮) 2023/07/22(土)01:29:52
さっきの言い訳を………彼はどう受け取っただろうか
そのままの意味に受け取ってくれていて欲しい。じゃないと、自分はとんだ破廉恥な女になってしまう
煙草の香りを纏った貴方が落ち着きます、なんて。口が裂けても言えっこないじゃないか
「もうちょっと………もうちょっとだけ………」
誰よりも信頼する相棒の香り、それに纏わりつく煙臭さ
もしかしたら少ししたら消えてしまうかもしれないそれに名残惜しさを感じた時点で
きっと、アタシは負けていたんだ