1： 名無しさん（仮） 2023/08/31(木)20:59:42

「…一体何をしているんだ私は」
深夜のパリ、とあるホテル。シリウスシンボリは柄にもなく行動を躊躇っていた。
シリウスの前にはオートロックで閉ざされた扉がある。彼女のトレーナーが寝泊まりする部屋だ。
その扉をノックすべきか否か。それが目下のシリウスの考え事だった。
事の起こりはこれより少し前、ホテルのラウンジでの話し合いに遡る。
「…フランスのウマ娘が子犬にちょっかいを出している。どうにからならないのか」
「…具体的には？」話を聞くラモーヌはいぶかしげだった。
「ヴェニュスパークにリガントーナだ。この間なんか休憩中に30分近く話し込んでいたぞ…」

2： 名無しさん（仮） 2023/08/31(木)21:00:38

「別にいいでしょう休憩中なら…情報交換は互いのためになるわ」
「よくない。アイツめ…乞われるままに日本語教室のまねごとをしていたぞ…何かの拍子に私たちの作戦が漏れたらどうする」
「あら、知られて困る情報を漏らしたりはしないでしょう？」
愛するご主人様のためですもの、と付け足すラモーヌ。
「わからんぞ…ここはトゥインクルシリーズとは違うんだ。子犬を惑わすハニートラップということも…」
シリウスは顎に手を添えてしばし沈思黙考に入る。対するラモーヌはと言えば…
「はぁ…」見るからにあきれた様子だ。シリウスの話にまともに耳を傾ける気を完全に失っていた。
「…学習能力がないのねえ」

3： 名無しさん（仮） 2023/08/31(木)21:02:06

「ルドルフを敵視していた経験から何も学ばなかったのかしら…」
「…何だと」
「いえ、今のただの独り言。貴方に話すことは何もないから、今からトレーナーのところへ行ってしっかり話してきなさい」
そう言うなりラモーヌは席を立った。
「きちんと話してくるまで私はもう貴方と口を聞かないから」
さっさと行ってしまうラモーヌ。ラウンジには呆然とするシリウスが一人取り残されたのだった。そんなわけで今シリウスはホテルの廊下を行ったり来たりしていた。
とうとう腹をくくり、扉をノックしようとしたその時――内側から扉があいた。
「…シリウス」部屋を出ようとしていたトレーナーは担当に出くわして目をぱちくりさせている。
「いったいどうしたんだこんな時間に」
「話がある。中で話すぞ」シリウスは冷静を装ってことを進めようとした。
「…今は駄目だ」

4： 名無しさん（仮） 2023/08/31(木)21:03:01

「何？子犬がいつから飼い主を拒めるように…」いつもの調子で話すシリウスの言葉が途切れる。
「誰か部屋にいるのか…リガントーナ…いやヴェニュスパークか！？クソッ！」
「…！？何の話！？」
わけもわからず困惑するトレーナーを扉の前から引きはがすと、シリウスはずんずんと部屋の中へと踏み込んでいった。
ベッドの上には誰もいない。シャワールームを見てみたが誰もいない。
そんなはずはないと探しているうちにベッドわきの開かれたノートが目についた。
そこだけ明かりがついているのを見ると、どうやら今しも何か書いている最中だったらしい。

5： 名無しさん（仮） 2023/08/31(木)21:03:35

「あっそれは見ないで…」ノートを取り上げようとするトレーナー。
構わず手に取ると、そこには「シリウスとのたびのしおり」と題して、
パリ市街のブックカフェやバーなどシリウスの趣味に適った観光地が列挙されており、
隅にはニコニコ顔のシリウスとその横をついて歩く子犬のイラストが描かれていた。
「…」シリウスは無言でノートの表紙を見た。「パリのシリウス計画」と書かれていた。
「なんだこれは」
「最近のシリウスはトレーニング詰めだから一日くらい休んでほしくて…」

6： 名無しさん（仮） 2023/08/31(木)21:04:43

「…はあ」シリウスはノートを元に戻し、ため息を吐いた。「わかった。明日は休みを取る…オマエももう寝ろ。朝から出かけるぞ」
シリウスはトレーナーの部屋を後にした。
その顔には押し殺そうとしても隠し切れない笑みが浮かんでいる。
ラモーヌの言う通りだった。まさかいつかの有マ記念でルドルフに対して抱いた気持ちを、パリの地で再び抱くことになろうとは。
「…寂しいなんてもんじゃねえな」
自室に向かいながら、シリウスは誰に言うともなくそうつぶやいた。今は何より明日が楽しみだ。「…つまらない茶番。」通りがかったラモーヌが冷めた目で見ていることを、彼女は知る由もない。

7： 名無しさん（主）age 2023/08/31(木)21:05:53

おわりフランスのウマ娘はやっぱり手が早いんですかね